習氏の統制、新興製造業まで 挙国体制が招く外国人売り

習氏の統制、新興製造業まで 挙国体制が招く外国人売り
上海支局 土居倫之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0835O0Y3A300C2000000/

『think!多様な観点からニュースを考える
田中道昭さん他1名の投稿田中道昭柯 隆

【この記事のポイント】
・狙いはハイテクの「自立自強」
・国家関与は技術革新の抑制リスク
・外国人の中国株離れの一因に?

中国の習近平(シー・ジンピン)指導部の統制が巨大IT(情報技術)企業のみならず、次世代の経済の柱となる新興製造業にまで広がりつつある。習氏は米国との対立を念頭に科学技術における挙国体制を宣言した。だが国家による関与を強めるほど、企業の生産性向上の逆風となる。外国人投資家は売り越しに転…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『外国人投資家は売り越しに転換している。

全国人民代表大会(全人代、国会に相当)期間中の6日午後。習氏は北京市内のホテル、北京友誼賓館で全国政治協商会議(政協、国政助言機関)委員との懇談にのぞんでいた。
「喜ばしい半面、心配でもある」。国営新華社通信によると、習氏が珍しく心情を吐露したのは、寧徳時代新能源科技(CATL)の曽毓群董事長が「動力バッテリーで6年連続で世界一となった」と説明したときだ。習氏は「心配なのは最後には(こうした企業が)いっぺんに消えてしまうことだ」としたうえで、「新興産業をしっかり統制していかなければならない」と手綱を締める考えを明らかにした。

ある中国専門家は6日の習氏の発言について「米国の対中政策がますます厳しくなるなか、民営の有力企業も含めて一致団結しなければ、米国に負けるという危機感から出た言葉ではないか」と解説する。

アリババ集団などに対する統制は、共産党・政府に比肩するほど強い存在となった巨大IT企業をたたくことが目的だった。一方、ハイテク新興製造業に対する統制は、米中対立が激しさを増すなかで、中国の「自立自強」を何としても実現することが目的だ。

同時に、習氏が鄧小平の権威を超え、毛沢東並みの権力集中を目指す野心の表れでもある。中国では治安維持や金融監督も含め、鄧小平が提唱した「党務と政府の分離」が逆回転している。

米国が対中制裁を連発するなか、習氏は「外国に首根っこを押さえられている問題を解決しなければならない」とする。この危機感は誇張ではないだろうが、「自立自強に向けて科学技術政策の新型挙国体制を確立する」(全人代政府活動報告)との宣言にもつなげた。全人代が10日可決した国務院(政府)の組織改革案では、党中央が科学技術政策を集中統一指導するために「中央科学技術委員会」を新設し、科学技術省も改組する。

党の力を強める一連の組織改革を、本土の市場参加者は「上場企業にとって中長期的に有利となる」(中国銀河証券)と礼賛する。一方、外国人は不安を強める。国家の過度な関与はかえってイノベーション(技術革新)を抑圧し、人口減少下に残された数少ない成長原資である生産性の改善を犠牲にするからだ。

日銀の18年のワーキングペーパーによると、中国の国有企業は民間企業に対して(技術革新などを反映する)全要素生産性(TFP)水準が平均的に17%低いという。同ペーパーは「国有企業の存在が、中国の経済全体でみた資源配分の効率性を悪化させていた」と指摘する。

実際、国有企業の収益力は民営企業を下回る。中国の調査会社Windの定義に基づき、上場企業を国有企業と民営企業に分類し、収益力を調べた。国有企業は、高速道路や港、資源など独占的な権益で守られた企業が多い。にもかかわらず、営業利益率が2割以上の割合は国有が17%と民営(23%)より少ない。営業損益が赤字の企業の割合も国有の方が16%と民営(14%)よりも多い。

株価指数でも差は鮮明だ。中国の民営企業で形成する中証民営企業総合指数の2019年からの上昇率は国有企業を上回る。

中国株式市場では、「ゼロコロナ」政策終了後の経済再開(リオープン)をはやす買いが一巡した。1月に1413億元(約2兆7600億円)と月間で過去最大を記録した香港経由の外国人の買越額は、3月は10日時点で約7億6000万元の売り越しに転じた。UBSの孟磊ストラテジストは「外国人は明確に中国株をアンダーウエート(弱気)にしている」と分析する。

1月にはアリババのグループ企業の1社に中国政府系企業が1%出資したことが明らかになった。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、通常の議決権より強い権限を持つ「黄金株」に似るという。CATLは株式時価総額がアリババの7割近くに迫る有力企業に成長した。新興製造業にまでアリババ同様の足かせをはめれば、投資家の失望は避けられない。(上海=土居倫之)

【関連記事】

・1強・習近平氏を待つ「失われる30年」
・中国、甘くない5%成長 ゼロコロナで「発射台」低く
・中国全人代「現実路線に転換」「安定を最優先」の声
・開国中国がもたらす「平和プレミアム」「無回答リスク」
ニュースレター登録

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

田中道昭のアバター
田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
コメントメニュー

分析・考察 中国によるサウジとイランの外交正常化合意仲介を受け、NYタイムズでは11日に「中国との対立で誰が利益を得るのか」との社説を発表。同仲介含め足元で重要な外交を行っていることを評価した上で、安全保障面では警戒する一方、世界的に重要な核心的利益に係る協議からは撤退すべきでない等の意見。今回副首相に登用された習氏側近の丁氏は中国製造2025立案者の一人とも目されており、リヤド宣言や米制裁の最中にファーウエイ通信機器の大型商談をまとめた昨年12月の中東訪問にも同行しています。習氏は優先順位でアメとムチを使い分けしていると見るべきであり、日本も冷静な分析評価に基づいて中国に対峙することが重要だと思います。http://cpc.people.com.cn/BIG5/64192/448523/index.html
2023年3月13日 8:12 (2023年3月13日 8:16更新)
いいね
11

柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
コメントメニュー

分析・考察 経済学の命題の一つは政府役割と市場の役割という論争がある。市場経済の国では、大きな政府か小さな政府かについて考え方が分かれている。しかし、今の北京をみると、大きな政府か小さな政府かを通り越えて、政府は市場統制を強化している。政府によって統制されると、民営企業がしぼんでしまう。なによりも、統制経済では、市場メカニズムが機能しなくなり、資源配分が効率化しなくなる。現在、海外に滞在して帰国しないアリババのジャックマーはかつて、講演のなかで政府に迎合して、将来、ビッグデータを分析すれば、計画経済を実現できるというような趣旨の話をしたことがある。まるでブラックユーモアの話である。
2023年3月13日 7:22いいね
35 』