米当局、不安解消へ預金全額保護 緊急融資枠新設

米当局、不安解消へ預金全額保護 緊急融資枠新設
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN122WD0S3A310C2000000/

『【ニューヨーク=大島有美子】10日に経営破綻したシリコンバレーバンク(SVB)の全預金が米金融当局により保護されることになった。米連邦準備理事会(FRB)が金融機関に対して緊急の融資枠を新設し、米国債などを担保に融資して流動性を供給する。米金融当局は銀行の預金者や市場に広がる不安の連鎖解消に向け、早期の対応に動いた。

「本日の措置は、預金者の貯蓄の安全性を確保するために必要な措置を講じるという我…

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『「本日の措置は、預金者の貯蓄の安全性を確保するために必要な措置を講じるという我々の決意を示すものである」。米財務省は米連邦準備理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)との共同声明で強調した。イエレン財務長官は発表に先立ち、12日の米CBSテレビで「預金者が気がかりだ。その必要を満たすべく注力している」と話していた。

新たに導入する「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」は金融機関を対象に、米国債や住宅ローン担保証券を担保として最長1年の融資をする。政府の基金から最大250億ドルを利用できるようにする。

預金保険で保護される預金額は25万ドル。同上限はドッド・フランク法(金融規制改革法)で定められている。法人顧客が多いSVBでは総預金の9割に相当する1500億ドル(約20兆円)超が保護の対象外で、SVBの事業や資産売却を通じた預金返還の手当てが喫緊の課題となっていた。

米報道によるとFDICは週末にかけ、SVBを売却するための競争入札を進めている。米大手地銀が有力な候補との見方も浮上する。一方、買い手が見つからなかった場合、現在の制度では保険対象外の預金の回収は難航する可能性があり、米当局は救済策の検討を急ピッチで進めていた。

米カリフォルニア州当局の資料によると、破綻前日の9日にSVBから420億ドルもの預金が引き出され、同日の営業終了時点で9億5800万ドルの現金不足に陥った。SVBはテクノロジーやヘルスケアなどの米スタートアップによる預金が6割超を占め、個人と異なり大口預金が多い。22年末の預金残高1750億ドルのうち約9割が保険対象外だった。

SVBに預金していたスタートアップは給与支払いという喫緊の課題に直面している。給与を期日に支払わなければ連邦法や州法で罰則を科される可能性や、訴訟リスクを抱える。足元ではベンチャー企業が当面の現金確保に奔走しており、ファンドが保険対象外の預金を割安に買い取る動きも出ていた。

破綻企業の債権を取引するプラットフォームを提供するチェロキー・アクイジションの担当者によると、米東部時間12日午後3時時点で、SVBの保険対象外の預金は「1ドルにつき60〜70セントで取引されている」という。給与支払いのための短期融資サービスには破綻後、問い合わせが殺到した。

当局は銀行の連鎖破綻を警戒しており、金融システムへの影響に目を光らせる。FRBは10日、傘下の地区連銀が米国に拠点を置く銀行に足元の流動性についての聞き取り調査をした。米ブルームバーグ通信によると、FDICは11日、SVB破綻と連動して株価が急落したファースト・リパブリック・バンクなど複数の金融機関に財務状況を聞き取った。

イエレン財務長官は12日のインタビューで、リーマン・ショック時に米政府が公的資金を注入して投資家や金融機関を救済したことに触れ、今回は「検討していない」との方針を示した。一方で「ある銀行に存在する問題が、健全な他の銀行に伝染しないようにしたい」とも述べた。

元FRBで銀行審査に携わっていたボストン大学のマーク・ウィリアムズ教授は「当局の最優先事項は米銀の健全性を強調して市場を落ち着かせ、必要な流動性を当局が提供すると伝えることで預金流出を防ぐことだ」と指摘する。当局の措置は市場が開く13日の月曜日までに不安を払拭する狙いがある。

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