ロシア軍、戦車大量損失の陰にウクライナ軍の電動自転車「アトム」、日産「ナバラ」の活躍

ロシア軍、戦車大量損失の陰にウクライナ軍の電動自転車「アトム」、日産「ナバラ」の活躍…世界が驚いた技術力とは
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/03101103/?all=1

『共同通信(電子版)は3月2日、「ロシア軍、東部で130両喪失か ウクライナ、要衝増派へ」との記事を配信した。文中には《ロシア軍が激戦地の東部ドネツク州ウグレダルでの3週間の戦闘で少なくとも戦車や装甲車130両を失った》とあるが、もはや驚くような話ではない。

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 ロシア軍がウクライナに侵攻してから1年を迎えることから、ロイター(日本語電子版)は2月16日、「ロシア軍、侵攻開始1年で戦車の半数失う 空軍ほぼ無傷=英研究所」との記事を配信した。

 記事では、イギリスの国際戦略研究所(IISS)でリサーチ・フェローを務めるヘンリー・ボイド氏の戦況分析が紹介されている。

 ボイド氏は《ロシア軍の最新の戦車の損失率は最大50%に達している》と指摘、この1年間で2000~3000両の戦車を失ったそうだ。担当記者が言う。

「昨年の2月24日、ロシア軍はウクライナに侵攻しました。その時、誰もがロシアの勝利を予想しました。何しろロシアは大国で、ウクライナは小国です。アメリカとイギリスは首都キーフに特殊チームを派遣し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領(45)に亡命を助言、空挺部隊による脱出作戦を立案していたことも分かっています」

 改めて両国の差を、人口と名目GDP、そして軍事力で見てみよう。

 まず人口は、ウクライナが約4379万人、ロシアが1億4344万人。IMF(世界通貨基金)が発表した2021年の名目GDPは、ウクライナが約1997億ドル(世界第54位)だったのに対し、ロシアは約1兆7785億ドル(世界第11位)だった。
ウクライナの奇跡

 年間の国防費は、ウクライナが約47億ドル、ロシアが約458億ドル。現役兵は、ウクライナ軍が19万6000人、ロシア軍が90万人。装甲戦闘車両は、ウクライナ軍が3309台、ロシア軍が1万5857台──という具合だ(註1)。

 まさに圧倒的な差としか言いようがない。アメリカやイギリスだけでなく世界中の外交や軍事の専門家が「ウクライナはロシアに蹂躙される」と予想したのも無理はないだろう。

 ところが、ウクライナ軍は粘り強く反撃を続けた。そして侵略から1年が経った今、ロシア軍に甚大な被害を与えていることが明らかになったわけだ。

 なぜウクライナ軍は奇跡を起こすことができたのか、どうしてロシア軍は弱いのか、軍事ジャーナリストが解説する。

「ウクライナの善戦に、アメリカを筆頭としたNATO(北大西洋条約機構)軍の支援が大きく寄与しているのは言うまでもありません。その上で、ウクライナ軍が民生品を巧みに活用して兵器化し、ロシア軍を撃退していることも重要でしょう。まさに“必要は発明の母”というわけです」』

『日産車が活躍

 兵器に活用されている民生品を具体的に挙げると、日産のピックアップトラック、Eバイク、そして民生用ドローンと3Dプリンターだという。順を追って見ていこう。

「1980年代、アフリカで起きたチャド・リビア紛争では、戦争の後半になると政府軍も反政府軍もトヨタのピックアップトラックを戦場に投入し、欧米メディアは『トヨタ戦争』と大きく報道しました。トラックの荷台に重機関銃、対戦車や対空のミサイルを積めば、相当な戦力になることが証明されたのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 戦車の購入には億単位の予算が必要だが、トヨタ車なら数百万円で済む。おまけに耐久性に優れ、整備も簡単だ。“兵器”としても実力が評価され、アフガニスタンやシリアの内戦でも活躍した。

「ウクライナ軍は日産車を活用しています。2021年まで日産がスペインで現地生産を行っていたこともあり、ウクライナはピックアップトラックの『ナバラ』を救急車などに採用していました。ロシア軍が侵攻してくると、ナバラは最前線で抵抗するウクライナ兵の貴重な足となっただけでなく、荷台に多連装ロケット砲を搭載してドローンを迎撃するなど、ロシア軍から戦果もあげています」(同・軍事ジャーナリスト)
Eバイクの大活躍

 Eバイクではウクライナのイリーク社が製造する「アトム」が大活躍しているという。

「日本でEバイクと言えば、『電動アシスト付きのスポーツバイク』という印象が強いでしょう。ところがアトムはペダルが付いているとはいえ、漕がなくても最大時速90~100キロで走ります。電動自転車と言うより電動バイクのほうが実情に近いのです。おまけにアトムはオフロード仕様なので戦場の悪路を苦にしません。ニューズウィーク誌の報道によると、イリーク社が在庫を軍に無償提供すると、たちまち兵士から高く評価されたそうです(註2)」(同・軍事ジャーナリスト)

 Eバイクはモーターで動く。そのためオートバイより走行音が小さく、高熱を発するエンジンがない。ロシア軍の兵士やドローンに、音で位置を割り出されたり、熱源センサーで探知されたりするリスクが減る。

 最初は偵察や伝令に使われていたが、しばらくすると荷台に対戦車ミサイルNLAWを乗せて運搬できることが分かった。

 ウクライナ軍がロシア軍の戦車を発見すると、兵士はアトムで射撃地点に向かう。現地でNLAWを下ろし、身を隠して発射。その場からアトムで迅速に離脱し、身の安全を守るというわけだ。

「驚くべきことに、ウクライナ軍はアトムに乗っていた兵士から改善点を募り、イリーク社に特注モデルの製造を依頼しました。ポイントはバッテリー容量の増大です。容量が増えたことで走行距離が伸びただけでなく、兵士が携帯するパソコンやタブレットの充電も可能になりました。NATOの支援を受けるウクライナ軍はIT化を急速に進めており、最前線でも電源が必要です。そのため、塹壕にEバイクがあると大助かりなのです」(同・軍事ジャーナリスト)』

『3Dプリンターも活用

 ちなみにアメリカ軍も“兵器の電気化”を進めているという。戦車や装甲車の場合はハイブリット化が検討されている。燃費が向上するので、兵站の負担が減る。さらに隠密行動が必要な作戦ではモーターだけで移動し、高い静音性を確保できる。

「21世紀の軍隊はIT化と電動化をさらに進めていくはずで、ウクライナ軍は期せずして先取りした格好です。ちなみに、商魂たくましいというか、イリーク社はウクライナ軍の特注モデルを『Atom Military』という商品名で発売しています。日本では道路交通法の関係から簡単には乗れないでしょうが、自転車のファンサイトでは『日本円で約67万円』と紹介されています(註3)」(同・軍事ジャーナリスト)

 民生用ドローンの場合、活躍は緒戦から大きく報道されてきた。ウクライナ軍は偵察に使ったり、爆弾を搭載してロシア軍の塹壕に投下させたりしている。

「ドローンの活躍を支えているのが3Dプリンターです。例えば、ドローンの脚部やアームが壊れたとします。ウクライナ軍の兵士はSNSを使って『壊れたから何とかしてくれ』と全世界に訴えます。すると有志から修理部品のデータが送られてくるのです。3Dプリンターで部品を作れば、最前線で戦いながら修理することができます」(同・軍事ジャーナリスト)

 兵士がケガをして大量に出血した際は、3Dプリンターで作った止血帯で処置をすることもあるという。
旧態依然のロシア軍

 ウクライナは戦費の調達でもネットを活用している。過去にはウクライナを支援するクラウドファンディングが大きく報じられた。

「映画『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカー役で知られるマーク・ハミル氏が、クラウドファンディングの“アンバサダー”に採用され話題を集めました。今、注目を集めているのは『サイン・マイ・ロケット』というサイトです。数十ドルの寄付でウクライナ軍の砲弾にメッセージを書き込む権利が得られます」(同・軍事ジャーナリスト)

 サイト上でカード決済すると、「テキサスからこんにちは」とか「プーチン大統領、誕生日おめでとう」といったメッセージを砲弾に書いてもらうことができる。そして最前線で戦うウクライナ砲兵が、実際にロシア軍に向けて発射するのだ。

 一方のロシア軍は、相変わらず旧態依然とした戦術で戦い続け、夥しい死傷者を出している。読売新聞オンラインは3月4日、「ロシア動員兵部隊、ドネツク州の激戦地で『ほぼ全滅』…兵士ら『我々は消耗品』訴え」との記事を配信した。

《ロシアの独立系調査報道専門メディア「インサイダー」は3日、ロシアの部分的動員でウクライナ東部ドネツク州の激戦地アウディーイウカに送られた部隊が「ほぼ全滅した」と報じた》

《部隊は東シベリアで動員され、数百人規模とみられる。動員兵らは2月からSNSを通じ、プーチン露大統領に対して「1日で部隊が組織され、軍の支援もなく戦闘に送り込まれた」「我々は消耗品と呼ばれている」などと繰り返し訴えていた》』

『最後は士気

「SNSで公開されているロシア兵とウクライナ兵の顔を比べると、前者の表情は沈鬱で、後者の表情は豊かです。これはひとえに士気の違いでしょう。侵略戦争に正義はなく、ロシア兵は士気が上がりません。だから多大な損害を被ります。一方、祖国防衛という大義があるウクライナ兵は、不屈の闘志で戦うことができます。ロシア軍が大軍で襲いかかっても、ウクライナが持ちこたえた最大の理由でしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 1991年に起きた湾岸戦争では、ハイテク化されたアメリカ軍の圧倒的な強さが世界に衝撃を与えた。

 一方、ロシア・ウクライナ戦争では、ウクライナ軍がIT技術などを活用して奮戦を続けたことで世界に衝撃を与えた。民生品のレベルが格段に向上し、小国と大国における軍事技術の差が小さくなったのだ。

「軍隊におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)化とはどのようなものなのか、世界に先駈けてウクライナ軍が具現化したとも言えます。民生品と軍用品のクオリティに差がなくなれば、最後に命運を分けるのは兵士の士気です。世界の軍事関係者は士気の重要性に改めて気づかされたと言えるでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

註1:軍事データの出典は全て「ロシア軍とウクライナ軍では『巨人と少年』、両国の戦力を比較」(CNN.co.jp:2022年2月26日)より

註2:ウクライナ軍、電動バイクを投入 最高時速90キロの特注品で無音移動(Newsweek日本語電子版:2022年5月31日)

註3:ロシアのウクライナ侵攻に対抗するE-Bike・電動オートバイブランド「ELEEK」を解説(シクロライダー:2022年6月3日)

デイリー新潮編集部 』