被侵略国に殺傷力ある武器 政府・自民、輸出緩和案浮上

被侵略国に殺傷力ある武器 政府・自民、輸出緩和案浮上
外交力底上げ、台湾有事みすえ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA075760X00C23A3000000/

『政府・自民党で殺傷能力のある防衛装備品の輸出先に侵略を受けた国を加える案が浮上してきた。米欧のように武器を提供しなければ外交の信頼を損ないかねないとの見方がある。台湾有事をみすえ、ロシアが侵攻したウクライナへの支援を求める声があがる。

岸田文雄首相は1日の参院予算委員会で輸出ルールの改定にふれ「結論を出していかなければならない」と言明した。

日本がウクライナに送ったのは防弾チョッキなど非殺傷の装…

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『岸田文雄首相は1日の参院予算委員会で輸出ルールの改定にふれ「結論を出していかなければならない」と言明した。

日本がウクライナに送ったのは防弾チョッキなど非殺傷の装備にとどまる。現在は戦闘機や戦車、ミサイルなどの武器を日本と共同開発・生産する国にしか引き渡せない。

首相は輸出拡大に関し「国際法に違反する侵略を受けた国への支援などのために重要な政策的な手段となる」とも強調した。

この表現は政府が2022年末に決めた国家安全保障戦略に盛り込んでいた。防衛装備移転三原則の運用指針など「制度の見直しについて検討する」と記した。』

『政府・自民党の念頭には5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)がある。日本はサミットの議長国を担う。日本が外交力を発揮しG7が足並みをそろえウクライナを支え続けると打ち出す機会になる。

米欧は携行型対戦車ミサイルなど侵攻を防ぐ装備から始めた供給を領土奪還のための戦車などに広げた。ロシアを刺激して自国のリスクが高まる恐れよりも民主主義陣営が結束し現状変更を許さないとの立場を鮮明にするのを重んじた。

英国の「チャレンジャー2」、ドイツの「レオパルト2」といった主力戦車が3月以降にウクライナに届く。ウクライナはさらに戦闘機を出すよう要求する。

武器供与ができないと日本は援助に消極的だと映る。議論を主導し外交上の交渉を推進する力を欠く懸念がある。首相のウクライナ訪問もG7の首脳で唯一実現できていない。』

『日本は1990年代の湾岸戦争時に自衛隊を派遣せず多国籍軍に130億ドルを拠出した。「小切手外交」と批判された。ウクライナ侵攻は再び日本の貢献のあり方を問う。

首相は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と指摘してきた。ロシアへの経済制裁に加え、軍事分野で米欧との協調を深めることは台湾へ圧力を強める中国などへの抑止力にもつながる。

自民党の佐藤正久氏は6日の参院予算委で「台湾有事、日本有事で日本は兵器や弾薬をほかの国に求めないと全然足りない」と話した。「ほかの国の危機のときはあげず自分が危機のときはくれ、というのは通じるか」と訴えた。

陸上自衛隊が29年度までに利用をやめる多連装ロケットシステム(MLRS)をウクライナに送るよう提案した。自民党の小野寺五典元防衛相らは2月に輸出を促進する議員連盟を新設した。』

『与党内で公明党は慎重な姿勢を示す。同党の主張により、国家安保戦略改定で「制度の見直し」の時期を巡り「可及的速やかに」との表記が原案から削られた。

政府・与党の具体的な協議の開始は公明党が重視する4月の統一地方選後の見通しだ。広島サミットで首相が踏み込んだ発信をするなら調整の時間は多くない。』

『世論の理解を得られるかも課題だ。日本経済新聞社の2月の世論調査で、ウクライナに「武器を提供すべきだ」は16%で「提供する必要はない」(76%)を下回った。

支援自体は「強化すべきだ」が66%に上ったが、武器提供には否定的な意見が目立つ。』

『政府は運用指針の改定で、共同開発・生産国だけでなく日本と安保上の協力関係にある国への輸出の拡大も検討する。

自民党内には日本との防衛協力の度合いによって各国を複数のカテゴリーに分け、輸出可能な装備品や要件を変える構想が浮かぶ。

英国やイタリアと共同開発・生産する次期戦闘機で両国が第三国に輸出しようとする際に妨げにならないような仕組みの整備なども論点になる。機体に日本の部品や技術が含まれ、現行の規則だと輸出が難しい。』