台湾総統選にらみ軍拡緩めず 中国、23年国防費7.2%増

台湾総統選にらみ軍拡緩めず 中国、23年国防費7.2%増
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM041P00U3A300C2000000/

『【北京=羽田野主】中国の軍備増強が止まらない。5日公表した2023年の国防費は前年比7.2%増の1兆5537億元(約30兆5500億円)だった。経済成長が鈍るなかでも3年連続で伸び率が拡大した。24年1月の台湾総統選を見据え、軍拡の手を緩めない姿勢を示した。

国務院(政府)が全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に予算案を示した。中国の国防費は日本の23年度の防衛予算案の約4.5倍となる。22年…

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『22年に比べて日本円で約2兆円の増額となる。

金額だけでなく、伸び率も22年より0.1ポイント高まった。20年(6.6%)を底に3年連続で前年の伸びを上回った。中国政府は23年の経済成長率の目標を「5%前後」とした。22年の目標(5.5%前後)を下回るが、国防予算の伸びはこれに「逆行」して拡大する。』

『全人代の報道官は4日の記者会見で国防費の伸び率を明かさなかったものの「適度で合理的」と説明していた。防衛大学校の佐々木智弘教授は「西側諸国がウクライナへの軍事支援を強め、中国は米欧の軍備の先進性を痛感した。米欧に対抗できる軍事力を備えるとの危機感から国防費が上乗せされた」と分析する。』

『習近平(シー・ジンピン)指導部がにらむのは24年1月の台湾総統選だ。習氏は昨秋の党大会で、台湾統一を巡り「決して武力行使の放棄を約束しない」と表明していた。あくまで和平統一を迫るのが基本方針だが、武力による威嚇を強めるためにも国防予算の大幅な増額は譲れない。

中国にとって台湾与党・民進党の候補者が勝つのは避けたいシナリオだ。民進党の有力候補とみられる頼清徳氏は党内でも独立志向が強いとされる。民進党が勝てば、和平統一はさらに遠のき、武力統一が現実的な選択肢として浮上する。』

『5日の政府活動報告で李克強首相は「独立反対、祖国統一促進」と話す一方、「(大陸・台湾の)両岸の経済・文化の交流・協力を促す」とも語った。22年にあった「外部勢力の干渉に断固反対する」との表現も消え、融和的な発言が目立った。「軍事的な圧力を強めすぎると、対中強硬の民進党に有利に働くと習指導部は感じているようだ」(佐々木氏)』

『中国は2月、訪中した台湾野党・国民党幹部を厚遇し、台湾農産品の輸出規制の解除にも前向きな姿勢をみせた。大陸と融和的な国民党に秋波を送り、選挙戦で後押しする思惑とみられる。』

『台湾有事をにらんだ装備増強にも余念がない。米国防総省によると、中国は台湾の上陸作戦に必要な戦車揚陸艦や揚陸輸送艦を22年に計52隻と19年より約1.5倍に増やした。大量の兵員や装備を輸送できる強襲揚陸艦は22年に3隻目を就役させた。陸軍の兵士削減を進めるなか、台湾担当の2戦区の陸上兵力は41万6000人と19年より8000人増員した。』

『米軍の介入を防ぐ武器も増やす。南シナ海などで秘匿行動し、米国を奇襲攻撃できる弾道ミサイル潜水艦を6隻と同1.5倍に増やした。米グアム基地を射程に収める中距離弾道ミサイルは250基以上保有し、米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)は300基と同3倍以上に増やした。

5日の活動報告ではウクライナ情勢を念頭に置いた外交方針も説明した。李首相は何度も「和平」に言及したうえで「中国は終始、世界平和の建設者、世界発展の貢献者、国際秩序の擁護者であり続ける」と主張した。

中国は2月に独自の仲裁案を公表した。李首相は5日も「独立自主の和平外交を進める」と述べ、米欧と距離を置いた。停戦を呼びかけ「ロシア寄り」との欧米の批判をかわし、中間的立場の途上国の支持を集める狙いもあるとみられる。

李首相は2月に米国が撃墜した偵察気球の問題にも言及しなかった。』