「人民日報」元論説委員が明かす権力闘争の内実
「習近平政権は“内部分裂”を起こすだろう」元政権ブレーンが危惧していること
https://courrier.jp/news/archives/318294/
※ 『外部世界を政治的に従わせようとする試み。』とか、カンベンしてほしい…。
『2023.3.6
Text by COURRiER Japon
「習近平体制は決して盤石ではなく、むしろ“内部分裂”を起こすリスクを孕んでいる」──そう警鐘を鳴らすのは、かつて「人民日報」で論説委員を務めた呉国光氏だ。
昨年の党大会で異例の3期目が決定した習近平政権。3月5日から始まった全国人民代表会議(全人代)の審議では、李克強首相の退任など、政府の要職をはじめとする人事が正式に決定される見通しだ。昨年の党人事に続いて、習近平氏に近しい人物で固めるものと見られている。しかし、そこには大きなリスクも……。
1980年代には中国で政権ブレーンを務めた呉氏。1989年の天安門事件の直前にアメリカに渡り、現在はカナダ・ビクトリア大学で教鞭をとっている。今回、クーリエ・ジャポンは呉氏にインタビューを実施。3期目を迎えた習近平体制が目指しているもの、そして“内部分裂”が起きるリスクについて聞いた。
習近平が直面する「3つの挑戦」
──今回の全人代をもって、習近平政権の第3期目がいよいよ本格的に始動します。習近平氏はいったいどのような体制を目指しているのでしょうか。
習近平が目指しているのは、“新全体主義”と呼ぶことのできる体制でしょう。
この体制には当然、伝統的な全体主義の特徴も備わっており、たとえば、1人の指導者のもとでの共産党一党独裁、暴力装置に頼って体制と社会をコントロールすること、さらには習近平個人の思想を共産党のイデオロギーとして打ち立て、それを社会全体に強制的に受け入れさせる個人崇拝などが含まれています。そのなかで、習近平は明らかに次の3つの重大な挑戦に直面しています。
1つ目は市場経済からの挑戦です。伝統的な全体主義では国家は経済を完全に掌握しますが、一方で自由な取引を前提とする市場経済は国家の経済への統制を弱体化させます。したがって、習近平はさまざまな手段を講じて、市場を政治的に飼いならし、統制できるように、強く働きかけているのです。
2つ目はIT革命、IT技術からの挑戦です。伝統的な全体主義では、党国体制は情報の拡散を全面的に統制してきました。しかし、IT技術は、この統制に穴をあけたのです。そのため、中国共産党政権がこれまでも重視し続けてきた情報統制に、習近平もより一層力を注ぎ、締め付けを強化しています。
3つ目は、外部世界からの挑戦です。外部世界とのつながりは、国家による社会の全面的な統制をより困難にさせます。だからといって、外部世界とのつながりを断ち切れば、中国の経済発展は深刻な影響を受けざるを得ません。そうなれば、中国の技術面における発展は瞬く間にアメリカをはじめとする西洋の先進国に大きく後れをとることになるでしょう。
習近平は、以上の3つの挑戦に直面しています。その3つの挑戦を克服できる方法を探し出して、実行することで、習近平は彼自身の目指している“新全体主義体制”を実現しようとしているのではないでしょうか。
亡命中の中国人学者が語る「習近平の“失策”で中国は重大な転換点を迎えている」
習近平は部下同士をわざと競わせる
──昨年、中国共産党の党大会が行われたあとで、あなたは「習近平の新体制はすぐに内部分裂を起こすのではないか」と指摘しました。このように分析した理由や根拠についてお話しいただけますか。
昨年12月に「The China Leadership Monitor」に寄せた文章(“New Faces of Leaders, New Factional Dynamics: CCP Leadership Politics Following the 20th Party Congress“)の中で、そうした考えを示しました。
主な論点は、「中国共産党第二十回全国代表大会が閉幕し、習近平に近しい人物を除いて、古い中共幹部の派閥は基本的にすべて排除された。しかし、習近平に近しい人たちは、新たにそれぞれの派閥を形成し、その派閥同士で新たに争いが生じることは避けられないのではないか」というものです。
たとえば、国務院の新しい指導層には、李強首相、丁薛祥副首相、さらに経済・金融担当として何立峰副首相が任命されるものと見られています。
彼らはみな習近平に重用されていますが、この3人には異なる背景、経歴、人脈がそれぞれあります。彼らは今後、実務にあたるなかで必ず自分自身がよく知っている人脈を使うはずです。それが派閥の“原型”を形成します。そこへいったん権力闘争や政策論争が生じれば、これらの原型はすぐに本物の派閥へと変化するのです。
習近平の特徴に、権力を持った部下同士をわざと牽制させ合うというのがあります。そうすることで、習近平本人が強い権威と権力を保持できるだけでなく、部下の権力や地位が高まって習近平の地位を脅かすことを防げるのです。国務院の新しい人事は、当然、習近平が主導して取り決めます。彼が選んだ部下たちは、それぞれが横のつながりが強い仲間同士なのではなく、1人1人が習近平に責任を負っているのです。
さらに、中国共産党の政治の特徴の1つに、「ルールに則らずに物事を行う」ことがあげられます。特に、習近平はこの傾向が顕著です。昨年の党大会の人事でも、これまでにあった多くの慣例が破られました。たとえば、68歳以上は引退するという慣例(“七上八下”)があったにもかかわらず、69歳の習近平自身が続投を決めました。
一方で、比較的若い官僚であっても指導部から退出させられたりもしました。これまでの慣例がほとんど機能しないのであれば、指導部のメンバーたちはなおさら自身の人脈を強化することで、安心感を得ようとするはずです。それが彼らにとって自身の権力基盤を保つことになるのですから。
これらに加えて、もうひとつ忘れてはいけないことがあります。習近平体制は3期目に突入しますが、「習近平以後」という問題が、これから時間の流れとともにどんどん顕在化し、重みを増していくということです。
特に習近平に近しいメンバーたちは、この問題に向き合わざるを得なくなります。そこでも必ず力の争いが生じますし、そのなかを生き残るためには、やはりそれぞれの人脈が重要となってきます。そこから、人脈同士の争いか、あるいは人脈同士の結託が生じるでしょう。
私が言う“内部分裂”とは、指導部の各メンバーの人脈が顕在化することで、派閥同士の争いが生じることを指すのです。
中国経済の終焉
──習近平体制は今後、中国にどのような変化をもたらすのでしょうか。
この質問に答えるには、最初の質問の回答に戻らなければなりません。そこで述べた3つの挑戦に対して、習近平政権はすでに、いまも、そしてこれからも手を打っていきます。
具体的には、次の3つの行動がとられると私は考えています。
1、国家による市場統制の強化。
2、より厳格な情報統制の実施。
3、外部世界を政治的に従わせようとする試み。
中国政府がこうした行動をとることで、次のようなネガティブな変化が中国自身にもたらされると私は考えています。まず、中国の経済発展においては、過去数十年にわたって続いてきた素晴らしき日々は完全に終焉を迎えます。また、上述の行動をとったうえで、それでも中国自身が技術革新での競争力を維持しようと望むならば、国家としてますます“軍事工業体制”の方向に近づいていくでしょう。
さらに、中国国内でのさまざまな問題に直面するなかで、中国政府は大衆の民族主義をさらに煽る形で、政権の正当性を保持しようと試みるでしょう。そうなれば、外交上で強硬な立場を取ることが予測されますし、世界にも影響が及びます。そこで、かりに中国が対外的に冒険的な行動をとったとしても、まったく不思議ではありません。
以上のように、3期目に突入した習近平体制は、内政・外政ともにさまざまなリスクを孕んでいます。近しい人物で人事を固めたからといって、決して盤石な体制が出来上がったわけではないのです。』