「ロシア、NATO加盟国の供給路攻撃も」 国際政治学者

「ロシア、NATO加盟国の供給路攻撃も」 国際政治学者
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR22APV0S3A220C2000000/

『ロシアの国際政治学者であるドミトリー・トレーニン氏は日本経済新聞の書面インタビューに応じ、世界での武力衝突のリスクが冷戦終結後で最大規模に高まっていると指摘した。ロシアではウクライナ侵攻後に人材流出が進んだ一方、国内での愛国心が強まりプーチン政権の危機は現時点ではないと分析した。

――2024年3月のロシア大統領選に向けて、プーチン大統領の権力基盤が揺らぐ可能性はありますか。

「この1年で社会は…

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『政府の政策に不満を持つ人や、海外に重大な利害関係を持つ人は自らの選択で国外に脱出した。残った人たちの間では、愛国心がかなり強まっている。ロシアの自由主義はすでに反国家的な性格を帯びている。そのため、自由主義の政権反対者が海外へ出て行くことは、戦争状態にある国の政治的安定を強化することになった」

「戦線での部分的な後退や動員の動きにかかわらず、プーチン大統領への支持は根強い。彼はシンボルとしてだけでなく、国家構造全体の要として認識されている。現政権の崩壊や(別の大統領に)変わってほしいと思う人はほとんどいない。今のところロシアの政権における危機はない」

――ロシアのウクライナ侵攻が国際社会に与えた影響をどう見ますか。

「ロシアによる『特別軍事作戦』は世界秩序をめぐる闘争を激化させた。米国はかつての冷戦時代に比べても、対ロシアで西側諸国をより緊密に統合することに成功した。地政学的な不安定さと世界の主要国間の直接的な武力衝突のリスクは、冷戦終結後のどの時期よりも高まっている」

「対ロ制裁に加担していない国々はロシアにとって国際的に重要な存在で、彼らとの関係構築は外交の最重要課題だ。中国が経済的・技術的に米国に挑む存在となり、トルコやイラン、インドなど多くの国が独立路線を歩んでいる」

「ロシアと中国の関係は経済、金融、軍事、技術の各分野でより緊密なものとなっている。ロシアは輸出入ともに、これまで以上に中国市場に傾倒している」

――ウクライナ侵攻の戦況をどのようにみていますか。

「欧米は今後も重火器の供給をエスカレートさせ、ロシアの反応を試していくことになるだろう。米国は紛争に直接関与することを避けようとするだろうが、戦争への参加者の輪を広げようとする傾向はすでに明らかだ。ロシアはある時点で、ウクライナへの北大西洋条約機構(NATO)加盟国領内にある(兵器などの)供給ルートを攻撃する可能性はある」

――ロシアと独立国家共同体(CIS)諸国との関係は今後どう変わるとみていますか。

「ロシアと同じ立場のベラルーシを除くすべての国は、特別軍事作戦が始まって以来、米国の制裁を恐れている。カザフスタンやアルメニアなど反ロシア、親欧米のナショナリストが活躍している国もある。全体として、旧ソ連空間におけるロシアの影響力は、ウクライナ戦争の行方と結果に全面的に依存している。ロシアが優位に立てば、その影響力は大幅に強化されるだろう」

Dmitri Trenin  ソ連国防省軍大学卒、ソ連科学アカデミー米国カナダ研究所で歴史学修士。2022年に閉鎖された、カーネギー財団モスクワセンター所長を長らく務めた。
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