アメリカで確実に進む貧困と、資本主義の崩壊
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『私は、常々、思うのですが、恐らく資本主義が健全に発達するには、単なるシステムや思想としての要因とは別に、その国を構成する国民の資質みたいなものも大きく関係してくると考えています。アメリカはは、共産主義との抗争の中で、軍事力や謀略で他国を支配下に置き、傀儡政権を作りまくりましたが、資本主義や民主主義が根付き、国が安定した成功例の方が少ないです。
誤解されないうちに言っておきますが、これは良い悪いの話ではないです。思想は思想のみで成立しないという事を言いたいだけです。人が好きで行っている生活習慣に、客観的な評価なんか付けられるわけがありません。それが、著しく一部の人達に不利に働いていたり、虐待や差別に繋がっていない限り、優劣で決めるような事でもありません。
恐らく資本主義という言葉も無く、商業として最初に世界的な繁栄を迎えたオランダですが、他のヨーロッパ諸国と較べて、やはり際立った特徴を持つ民族でした。一つには、ケチという事です。良くオランダ人の特徴と言われています。無駄な出費をしないのですね。お金が無いとか有るとかではなく、外食は高くつくという理由で、余りしません。ホテルなどの外泊も、必要が無い限りしないですし、中にはキャンプ場に持参したテントで外泊を済ませる人もいます。これが、良くケチに見られる理由なのですが、一方で、募金や困っている人を助ける事に対する出費は惜しみません。つまり、必要の無い事に出費をするのが、嫌いなのです。質実剛健と言い換えたほうが、耳障りが無いかな。あと、産業にとって重要な、時間に厳しく、規則正しい生活を送っています。これが、面積が決して広くないオランダが、世界に君臨し、近代資本主義前の時代の経済を制した理由です。
その後に、覇権を取った、イギリス、アメリカは、プロテスタントというキリスト教宗派が社会に大きな影響を持った国です。プロテスタントの中にも、分派があるのですが、イギリスを追い出されたピューリタンが移住した土地がアメリカです。物凄く、大雑把なくくりで分けると、両国ともプロテスタントの国と言えます。プロテスタントの信条は、勤労と禁欲です。つまり、個人の利益を追求せずに、社会に還元する事を美徳とする文化です。アメリカで成功した億万長者が、物凄い額の寄付をするのは、この教えがあるからです。
つまり、資本主義社会の下で、経済的に覇権国になった国は、必ず強欲を抑制し、勤労で稼ぎ、禁欲で自分を律する社会の規律を、民族として持っている社会であるという事です。これが、資本主義というシステムや思想だけ、他国に輸出しても、なかなか、うまくいかない理由です。資本主義は、構造的に富の独占が起きやすいし、それを防ぐのが難しいです。なので、文化として、それを抑制し、自主的に分配する事が、道徳として根付いていたり、その価値観が美徳でないと、必ず富の独占が起きてしまいます。つまり、手段を問わず、儲かるなら倫理観を捨ててでも、儲けに走るという社会になりがちです。
アメリカの経済が荒れてきたのは、その価値観が崩壊してきているからです。例えば、学校の給食は、ジャンクフードに溢れていて、学校の校内にはコーラの自動販売機があります。これは、学校に援助金を出すのと引き換えに、コカコーラ社が、校内に設置して、いつでもカロリーの高い清涼飲料水が飲めるようにしているのです。また、給食にしても、食材の提供会社に買収された栄養士組合が、ピザを野菜にカウントするように法律を変えてしまいました。トッピングに野菜が入る事があるからです。大部分は、小麦ですけどね。その影響で、アメリカの小学生などで、太り過ぎで成人病になる子供が出ています。しかし、起業側からすれば、子供の健康よりも、自社の製品が売れたほうが良いわけです。
その仕組は、幼少期に味覚の嗜好を形成してしまえば、その人物は、一生涯に渡って、コーラとピザを消費し続けてくれる期待があるからです。その利益たるや、学校に出す援助金程度は、軽くペイできてしまいます。言い方は悪いですが、自社製品を消費する機械に変える絶好のチャンスなのです。実は、マクドナルドなどのファースト・フード業界も、この戦略をとっています。とにかく、子供連れを集客する為に、子供向けのオマケを配ったり、イベントを開催します。店の内装には、原色を使ったハッキリとした特色を出します。これは、将来の長い期間、消費をし続けてくれる子供に、マクドナルドの味を刷り込み、餌付けする為の演出です。楽しい体験と、食事をセットにする事で、恐らく生涯に渡ってマクドナルドを利用しますし、彼らの子供も親に習うでしょう。
今、アメリカ社会を崩壊させている薬物のフェンタニルは、年間で7万人の命を奪っています。この薬は、ヘロインの何十倍も強力で、依存性も高い物質です。麻酔・鎮痛薬として優秀だったので、手術や集中治療時など、専門家しか処方ができなかったのですが、これを、医師の処方箋があれば、服用できるようにしたのが、アメリカの製薬会社です。建前としては、医師の的確な指導があれば、鎮痛剤(オピオイド)として使用する事に問題が無いとの事でしたが、結局は社会に大量の中毒患者を発生させてしまい、今の惨状になっています。これも、結果が予想できなかったわけではなく、規制から外してしまえば、大量に売れる事が、製薬会社には判っていたから、認可をさせたわけです。一部の人間の人命と引き換えに、ビッグ・マーケットを手に入れたわけです。フィラディルフィアなどは、薬物中毒でゾンビと化した市民が、白昼から街を徘徊しています。そのまま、道端で中毒症状が悪化して、死ぬ人も多いです。
つまり、社会よりも商売。命よりも利益みたいな価値観が出てきてから、アメリカ社会は、おかしくなってきています。資本主義の制度的な欠陥もあるのですが、社会が壊れてきた理由は、こちらのほうが大きいです。明確に人の命を脅かしていないものの、社会に害が発生すると判っていて、「個人の責任」という事で、商売が成立する以上、それを妨害しないという価値観になってしまいました。ありていな言葉で言えば、道徳の低下です。これは、その社会における自身の命を守るコストを引き上げる、目に見えない大きな要素です。
先日の記事で、アメリカの消費者は、インフレで生活が厳しいのに、経済指標で数字を見ると、まったく消費を自粛していないという事を書きました。その大きな要素が飲食です。それも、いわゆるジャンク・フードです。ポテトチップスやポップコーンの消費は、むしろ増えています。これは、ストレスの解消に役立つからと言われていますが、大きな理由に生活困窮者に支給される食料引換券のフード・スタンプと交換しやすい食品だからという話もあります。小麦・トウモロコシ・ジャガイモなどの農家は、材料として大量消費されるジャンク・フードが売れると、収入が増えます。つまり、政府が支払いを保証してくれる上、高い食材が買えない、フード・スタンプ利用者が、ジャンクフードを食べてくれると、安定した売上が維持できます。その代わり、高カロリーで、栄養の偏った食事を毎日のように摂る生活困窮者は、体だけブクブクと太る事になります。体も壊すでしょう。でも、農家にとっては、安定して消費してくれるから、その方が儲かるのです。つまり、消費者には、消費してくれる事しか期待しておらず、それが一番、生産者にとって利益が出るという事です。
米国でのアルコール飲料の消費も増えるばかりです。米国の20~49歳で死亡した人のうち、5人に1人は飲み過ぎが原因でした。つまり、アメリカの今の消費が衰えないのは、経済が強いからというより、消費が止められないからです。その証拠に、カードローンの残債が、物凄い勢いで増えています。つまり、今までと同じ生活するのに、カードで借金しないと賄えないのです。もちろん、政策金利が上がっていますから、借金の金利も上がっています。次々とカード破産する人が出るのも、時間の問題です。
そして、福祉にかける予算の削減から、小さな犯罪は、取り締まるのを諦める地域も出ています。カリフォルニア州などでは、刑務所が足らないので、10万円以下の窃盗は、重罪に問わないという法律を施行しています。通報しても、直ぐに釈放です。そもそも、警察の手が足らないと、逮捕しに来ません。なので、警備員がいる眼の前で、棚にある商品を、大量にリュックに詰める万引き犯も普通に出ています。ここまで、極端でなくても、アメリカの小売店全体で、万引きは増加していて、ナイキやウォルマートなどの大手小売は、万引きが原因で、店舗の閉鎖を余儀なくされています。
つまり、資本主義という欠陥のある制度を、補っていた規律・道徳・美徳という社会の価値観が、利益の追求の前で矯正する力を失った結果、まるで、どこかの未開発国のように、市民の生活が荒れて、安全に生きる為のコストが上がっているのです。「生存する為のコスト」というのは、あらゆる意味で、消費を促進します。犯罪が多ければ、自衛の為に武装したり、防犯設備が必要です。農薬や遺伝子操作された食材を避けたければ、コストを払ってオーガニックにする必要があります。自分の命が脅かされる事は、それから守る為に、色々な消費が増える事を意味します。これは、いずれは、アメリカの社会全体を揺るがす大きな問題になると思います。資本主義は、システム的に、その中に自壊する仕組みを持っています。それを、押し留めるのは、運用する社会の価値観なのです。それが、力を失った時、その社会は崩壊します。』