ドイツ「盟主の責任」不可避 安保、敗戦国の呪縛弱まる

ドイツ「盟主の責任」不可避 安保、敗戦国の呪縛弱まる
防衛・大転換 激動の世界③
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR230DS0T20C23A1000000/

『ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州の安全保障は新時代に入った。1月16日、象徴的な場面があった。

世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に出席するため、スイスを訪ねたドイツのハベック副首相とスイスの経済閣僚の会談だ。議題はウクライナへの武器供与。平和主義を掲げたドイツと永世中立国・スイスが軍事支援を話し合った。

ハベック氏が所属する緑の党は本来、冷戦期の反戦・反核運動に原点がある。…

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『「時代の転換点(Zeitenwende)」。2022年2月27日、ショルツ独首相はロシアの侵攻3日後に宣言した。国防費で1000億ユーロ(当時で約13兆円)の基金を設けて軍備の拡張に転じた。

戦後のドイツは経済力の突出とは対照的に、欧州の安保に口を挟まない「沈黙の巨人」だった。ナチスの記憶で周辺国は警戒する。その反省で国際秩序の構築と距離を置いた。平和主義は国家戦略だった。

「欧州の司令塔はフランスか英国だ。ドイツがやりたいと言ってはいけない」。初代西ドイツ首相のアデナウアーは閣議で戒めた。ブラント西独首相は共産圏と融和する「東方政策」でソ連との対話にこだわった。

11年には徴兵制を停止した。直近の国防費は北大西洋条約機構(NATO)の目安の国内総生産(GDP)比2%を大幅に下回る1%強で推移し、軍では整備不足で潜水艦や輸送機が動かない問題も浮上していた。こうした戦後ドイツは過去のものになる。』

『周辺国に配慮しながら大胆な一歩を踏み出すドイツの姿は、日本に重なる。日独はともに第2次世界大戦の敗戦国で、戦後は長く平和主義を歩んできた。米国との関係を支えに軽武装の経済大国になった。

欧州の危機でドイツは覚醒を強いられた。東西冷戦後の欧州秩序は崩れ、対話や通商だけで権威主義国の横暴は阻止できないと分かった。安保も米国に頼りきりでは済まされない。相応の負担がいる。

岸田文雄首相は「ウクライナは明日の東アジア」と説く。欧州でのウクライナ侵攻は、東アジアでの台湾侵攻を連想させる。日本も防衛政策を大転換する。その先はドイツと同様、いばらの道が待ち受ける。』