全所的プロジェクト研究成果 『20世紀システム』内容紹介
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/publishments/jrp/twentieth/contents.html
『内容紹介
構想された「世界秩序」と動態
1 構想と形成
(Design and Formation)
序 20世紀システムの形成と動揺 〈橋本壽朗〉
I 部 構想
世界戦争と世界秩序
——20世紀国際政治への接近 〈藤原帰一〉
アメリカニズム:その歴史的期限と展開 〈古矢 旬〉
ソ連システムの挑戦とコスト 〈和田春樹〉
「連盟式外交」と「アメリカ式外交」の狭間で
——戦前日本の外交と内政 〈坂野潤治〉
近代日本の国際秩序観と「アジア主義」 〈平石直昭〉
II 部 形成
冷戦構造の形成とパワー・ポリティックス
——西ヨーロッパVSアメリカ 〈田中孝彦〉
20世紀の国際通貨システム
——国際金本位制からブレトン・ウッズ体制へ 〈小林襄治〉
国際開発体制と自由貿易体制の形成 〈中川淳司〉
(1998.1 既刊)
持続的成長を支えたシステムの力
2 経済成長 I 基軸
(Economic Growth I : Core System)
I 部 経済成長の歴史と理論
経済成長の時代 〈橋本壽朗〉
経済成長の理論と日本の高度成長 〈大瀧雅之〉
II 部 アメリカ的生産方式
アメリカにおける大量生産システムの形成基盤
——自動車産業の生成を中心として 〈大東英祐〉
大量生産方式の普遍性と特殊性:
アメリカ自動車産業を中心に 〈鈴木直次〉
III 部 アメリカ的生産方式の条件
アメリカ的競争秩序の確立
—— 56年自動車ディーラー法を素材として 〈森田 修〉
アメリカ的労使関係の確立 〈仁田道夫〉
アメリカ連邦政府の役割:「大砲とバター」 〈渋谷博史〉
(1998.3 既刊)
〈アメリカ〉のインパクトとシステム間の相剋
3 経済成長 II 受容と対抗
(Economic Growth II : System Spread and Counter-responses)
序論 アメリカのインパクトとシステムの攪乱 〈橋本壽朗〉
I 部 日本とアメリカ:比較と受容・改善
技術開発と技術の国際的伝播 〈猪木武徳〉
アメリカの工場、日本の工場 〈尾高煌之助〉
「流通革命」と「消費革命」
——消費と流通のアメリカナイゼーションと日本的変容 〈橘川武郎〉
教育と労働市場
——日本における新規学卒者の就職と職安・学校 〈石田 浩〉
II 部 ソ連:反発と学習そして崩壊
指令的計画経済の蓄積メカニズム
——戦後ソ連経済の成長と停滞 〈二瓶剛男〉
ソ連第2次高度成長
——国営企業とその労使関係 〈大津定美〉
(1998.9 既刊)
新たなプレイヤーの台頭とそのドラマ
4 開発主義
(Developmentalism)
序論 開発主義とは何か 〈末廣 昭〉
I 部 「開発」のイデオロギーと成立根拠
発展途上国の開発主義 〈末廣 昭〉
経済開発理論の展開と国際機関 〈絵所秀紀〉
ナショナリズム・冷戦・経済開発 〈藤原帰一〉
II 部 開発体制の地域的展開
開発体制の起源・展開・変容
——東・東南アジアを中心に 〈岩崎育夫〉
経済発展の政治的起源
——韓国・メキシコの比較から 〈恒川恵市〉
中国・台湾2つの開発体制
——共産党と国民党 〈田島俊雄〉
中東の開発体制
——エジプトにおけるエタティズムの形成 〈長沢栄治〉
III部 開発体制から見た日本
後発国工業化と中央・地方
——明治期日本の経験 〈中村尚史〉
経済開発政策と企業
——戦後日本の経験 〈橘川武郎〉
(1998.5 既刊)
システムの波及と〈社会〉との軋轢
5 国家の多様性と市場
(National Diversity and the Global Market)
序論 支えられた多様性から模索する多様性へ 〈平島健司〉
I 部 アメリカ・モデルの波及
表現の自由をめぐる「普通の国家」と「特殊な国家」
——合衆国における表現の自由法理の動揺の含意 〈阪口正二郎〉
競争法の普遍化
—— 資本主義の発展と20世紀システム 〈広渡清吾〉
戦後改革と農村民主主義 〈西田美昭〉
II 部 変容する国家
行政手続法の構造転換 〈宮崎良夫〉
コミュニケーション過程としての行政システム 〈大橋洋一〉
司法システムをめぐる「法化」「非=法化」 〈田中成明〉
III 部 グローバル化と国家
生産方式の変化と労使関係
——グロ—バル化への対応 〈田端博邦〉
脱社会主義と生活保障システムのゆくえ
—— ポーランドの場合 〈小森田秋夫〉
欧州統合と民主的正統性
—— 国家を超える民主的ガヴァナンスの試み 〈平島健司〉
(1998.7 既刊)
世界システムの揺らぎのなかで
6 機能と変容
(Function and Transformation)
序論 システムの再編はその動揺か精緻化か 〈橋本壽朗〉
I 部 機能と変容
国際通貨・金融体制の再編
——アメリカの非対称性の希薄化とその影響 〈河合正弘〉
自由貿易体制の機能とその修正 〈伊藤元重〉
日本型多国籍企業による国際的技術伝播 〈安保哲夫〉
ヨ—ロッパ統合の射程
—— 覇権代替の可能性 〈工藤 章〉
II 部 統合と覇権
20世紀システムの中のヴェトナム戦争 〈松岡 完〉
冷戦の終わりかた 〈藤原帰一〉
ヘゲモニーとネットワーク 〈藤原帰一〉
(1998.12 既刊) 』
『刊行にあたって
20世紀のその終わりを間近に控えて、我らの時代の意味が様々に問い直されている。今世紀は世界大戦と社会主義の成立によって始まり、アメリカ的な国内・国際秩序の確立とその国際的伝播とによって特徴づけられる。この世紀をパックス・ルッソ=アメリカーナの時代として、即ち二つの対抗的な構想が構造化(システム)し、さらに構造のサブシステムの組み替え(システムの変容)が進行していくプロセスとして捉えるのがこの研究のねらいである。
対抗的な構想にもとづいた、二つの世界システムの設計は、まずは国際的な政治・軍事システムの構築における対立となった。冷戦体制がそれである。
ただ、その際、われわれは、冷戦体制の深部で、二つの世界システム構想の優劣を決する変化が進行していたことを重視したい。そのプロセスの主要動因を、広義の技術体系としてのアメリカ的生産方式が、それを支える市場・労働・国家システムとともに、地球の全域に波及していったところに求める。自由競争と多角的で無差別な貿易体制をシステム設計の基本とする。この構想はそれ自体極めて歴史的に規定された性格を持つにも関わらず一つの〈普遍〉として構造化されていった。20世紀システムの軸は、アメリカの進めた構想にあったのである。
しかし、アメリカを中心とする20世紀の世界システムが、強烈な固有性を持つアジア・ヨーロッパなどの地域を、サブ・システムとして包摂しようとするに際しては、ヨーロッパでは頑強な抵抗を受け、日本ではその学習の結果逆に大きな変容を受けた。また、アジアの開発の試みもしばしば障害に遭遇し、挫折にまで至った事例もある。システムの均衡はつかの間達成されたかに見えながら、直ちに撹乱されずにはいなかった。加えてこのシステムは常に社会主義という対抗システムとの経済的軍事的な対抗のもたらす緊張にさらされていたことはいうまでもない。にもかかわらず、ソ連型社会主義の崩壊を見る以前において、今世紀は「アメリカの世紀」と呼ばれなければならない。
少品種大量生産を中核とする経済力の巨大な発展は、そのもたらした直接間接のインパクトに着目するならば、この時代を経済成長の時代として捉えることを可能にする。19世紀の国際社会の範囲を超えて群生した新生国家の年代記もまたこれを開発主義の歴史として把握できるであろう。そして、そこにはドラマがあった。「アメリカの世紀」が黄昏を迎えようとするとき、アジア諸国はかつては想像することもできなかったような急速な経済発展を実現しつつある。
もちろんサブ・システムの外延が拡がり、包摂の対象地域が自律性を増すにつれ、またその包摂の深度が市場取引の領域から家族・コミュニティー・環境といった取引が困難な領域におよぶにつれて、この強力な政治的経済的システムに対する抵抗は強まっていく。こうして、20世紀はそのような地域・領域においてアメリカ的世界秩序の波及から独立した変化が進行した時代でもある。グローバリゼーションの中で揺らぎながらも存続している国民国家にわれわれが注目するのも、そのような多様な意味を明らかにするためである。』
『書評
岡田裕之
「20世紀とは何であったか(I)——比較経済体制の観点から——
東京大学社会科学研究所『20世紀システム』全6巻、1998年に寄せて」
法政大学経営学会『経営志林』第36巻3号、1999年
脇村孝平
「開発主義の歴史的展開を描出」
『経済セミナー』1998年11月号〔第4巻〕
南亮進
「20世紀世界経済のシステムの解剖」
『日本経済研究センター会報』1998年12月15日・1999年1月1日号〔第2巻、第3巻〕
河村哲二
「経済成長を基軸に20世紀資本主義をみる」
『経済セミナー』1998年9月号〔第2巻〕
編集委員の発言
藤原帰一
「論争起こせれば成功——『20世紀システム』無謀で刺激的試み」
『読売新聞』1999年3月4日夕刊
橋本寿朗〔インタビュー〕
「20世紀システムと製造業——『20世紀システム』全6巻完結——
東京大学社会科学研究所 橋本寿朗教授に聞く」
『金属プレス』1999年3月号
橋本寿朗〔インタビュー〕
「社研『20世紀システム』を刊行——全体研究まとまる」
『東京大学新聞』1998年2月3日号
平島健司
「国家と市場の多様性」
『UP』第311号、1998年9月号
森田修
「市場の法的再設計」
『UP』第314号、1998年12月号
末廣昭
「アジアの『開発主義』——その成立と揺らぎ」
『UP』第307号、1998年5月号
藤原帰一
「戦争は終わった」
『UP』第305号、1998年3月号
橋本寿朗
「神の『見えざる手』は知恵ある人の手で甦るのか
——20世紀システムの動揺とシステム再編の未来」
『UP』第303号、1998年1月号 』