話題書「エルドアンのトルコ」が描く強権国家への転換
世界の話題書・ロンドン発
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR180ND0Y3A210C2000000/
『トルコはわかりにくい。北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だが対ロシア制裁には後ろ向き。強権的だが人権を重んじる欧州諸国との決定的な対立は避ける。トルコはどこへ向かうのか。
穏健な民主主義から強権へ。親欧州から西側社会と距離を置く国粋主義へ。本著『エルドアンのトルコ(Turkey Under Erdogan)』は、なぜトルコという国家が変質したのかを現代史を踏まえながら解き明かしていく。
まず首…
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『まず首相、次は大統領と過去20年にわたって政治の中心にいたエルドアン氏が「トルコの転換」をもたらしたのは間違いない。だが著者の英オックスフォード大学講師のディミタル・ベチェフ氏によれば変化の兆しは、かなり前からあったという。
トルコは一時、欧州連合(EU)の一員になることに情熱を傾けたが、いま加盟交渉は停滞している。野党を締め付け、人権を軽んじればEUには入れない。
イスラム圏を見下すような欧州勢への反発だけが理由ではないようだ。「西側の辺境」になるよりも「地域大国」になることを選んだ新オスマン主義の原点は1980〜90年代の積極的な周辺国外交にあると本著は指摘する。中東やバルカン諸国、南コーカサスの要でありたいというのは、かつてのオスマン帝国への郷愁にみえる。
老練な大衆迎合主義者(ポピュリスト)のエルドアン氏の巧妙な人心掌握術もトルコを変えた。空港や高速道路などのインフラを整備し、経済的な豊かさをもたらして有権者の不満が爆発しないようにコントロールする。欧米と対話を続け、時には難民問題で協力して現実主義者であることをみせる。
選挙で選ばれた強権体制はいつまで持つのか。本著はエルドアン政権下の「新しいトルコ」はしばらく続くと予想する。仮にそうなら近代化を進め、なお建国の父と国民から慕われるアタチュルク初代大統領を超える存在感を示すかもしれない。
足元ではトルコ南部の大地震が政治にどう影響するか見極めが必要だろう。果たして大統領選は予定通り5月に行われるのか。エルドアン大統領は再選されるのか。
行方は世界秩序に大きな影響を与えることになりそうだ。ロシアはトルコ政治に注意を払う。エルドアン大統領が負け、トルコが親欧米・民主主義路線に戻ればロシアのプーチン体制にとって痛撃。ウクライナの戦況も大きく変わる。
(赤川省吾)
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