ロシア「脱ドル・ユーロ」進む 制裁受け決済9割→5割
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『【この記事のポイント】
・ロシアが「脱ドル・ユーロ」の動きを加速している
・米欧日の制裁で輸出決済に支障がでているのが理由
・影響緩和へ、人民元やルーブル建てにシフトしている
ロシアが「脱ドル」の動きを強めている。欧米日の金融制裁を受けて、輸出決済ではドルやユーロ建てが9割から5割に低下した。制裁の影響を受けにくい人民元やルーブル建てへのシフトが顕著だ。基軸通貨ドルの使用制限は貿易や資金調達に打撃となり…
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『基軸通貨ドルの使用制限は貿易や資金調達に打撃となり、中国依存を強めながら影響緩和を図っている。ウクライナ侵攻から1年、マネーでも世界の「分断」が進んでいる。
銀行間の国際送金網である国際銀行間通信協会(Swift)は2022年3月、米欧日の要請を受けてロシアの大手銀行を排除した。この制裁により、ロシアでは「かなりの割合の銀行が制裁下にあり、ドルやユーロ建ての輸出入決済の遂行能力が妨げられている」(ロシア中央銀行)。
制裁後、ドルやユーロ建ての輸出決済の割合は急低下した。ロシア中銀によると、22年1月はドルが52%、ユーロは35%だった。9月はそれぞれ34%、19%に低下した。
原油などの取引では制裁対象ではないロシア国内外の銀行などを通じてドルなどの支払いを続けている。国営ガスプロム傘下のガスプロムバンクはSwift制裁対象外で日本を含めガスはドルやユーロ建てでの決済が続いている。西側諸国の銀行のロシア内現地法人を使った支払いもあるようだ。ただ全体には比率が大きく下がった。代わって増えたのが人民元建てやルーブル建てで9月に合計で47%となった。
ガスプロムは中国向けガス輸出での決済を従来のドル建てから人民元とルーブル建てに切り替えた。欧州の輸入業者の一部でもユーロ建てからルーブル建てに切り替えたとした例もある。世界のエネルギー取引はドル建てが支配的だが、中ロの2国間中心に慣行を崩そうとしている。欧州連合(EU)などによるロシア産原油や石油製品の禁輸措置を背景に、ロシア産がアジアなどに向かったことも人民元建てなどの拡大につながった。
Swiftに対抗する送金網の活用にも弾みがついた。中国の国際銀行間決済システム(CIPS)の1月の取引件数は1日平均で2万1000件と侵攻前の約1.5倍だ。大和総研の中田理恵氏は「CIPSは基本的には中国元の決済しか対応しておらず、Swiftを代替できる範囲は限定的」とする一方、「将来的に米欧などの制裁対象となることを懸念する国では利用が広がる可能性」があると指摘する。
輸出によるドルやユーロの獲得が減った分、ロシア国内の外貨は不足気味だ。昨年10月の外貨による法人融資は同3月比13%減った。一方、ルーブル建ては11%増やし、全体では融資額を増やした。外貨融資の減少をルーブルで補い「信用収縮を回避した」(ロシア中銀)格好だ。ロシア当局は銀行の引当金や自己資本に関する規制の緩和などで後押ししており、銀行にリスクが蓄積している可能性がある。
海外からの資金調達は難しくなった。ロシア国債の取引では海外投資家の割合は侵攻前の約1割からほぼ消滅。ルーブル建て国債の海外勢の保有比率は2割から1割に減った。ロシア政府は侵攻後は国債発行をルーブル建てのみとしている。SMBC日興証券の秋本翔太氏は「米国を中心に多くの国がロシア国債の取引を禁止しており、ロシア国内で資金調達せざるをえない状況」とみる。
ロシアとの貿易や金融取引は日本企業にとっても難しくなっている。国内大手銀はロシアの現地法人への送金などで、制裁に抵触しない範囲でロシア内の取引先とのお金のやりとりを続ける。
ただ、送金ルートは狭まっている。みずほ銀行のロシア現地法人は22年10月、顧客などに対し「米ドル以外の通貨を利用するか、他行での送金をお願いする」と通知した。ロシアと国外の送金を中継する海外銀行がドル建て送金の取り扱いを停止したためだ。
第一生命経済研究所の西浜徹氏は「ロシア経済と中国経済の一体化が進んでいる」と指摘する。マネーでも権威主義国の経済圏を形作ろうとする「金融ブロック化」の動きが強まる。西側の制裁が効きにくくなるとともに、世界経済の効率を低下させる恐れがある。
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 ロシアは積極的に脱ドルを進めているというよりも、経済制裁を受け、ドル建て収入が激減したため、人民元やルーブルに切り替えざるを得ない。ロシア人に聞いてみれば、やはりドルがほしいと答える。ドル決済のウェイトは低下すればするほど、ロシア経済が窮地に追い込まれる証拠になる。ロシアは人民元を受け取っても、中国から商品を輸入するしかない。とくに、人民元は準備通貨としての機能が十分に強くなっていないため、ロシア人は金融資産を人民元建てで持つことに抵抗があるかもしれない
2023年2月23日 8:44いいね
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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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ひとこと解説 ロシアの「脱ドル」の動きに呼応して、中国は「ペトロ人民元」、即ち人民元での石油取引及び同通貨決済取引を拡大しようと目論んでいます。米国と距離を置き始めたサウジとの間で同取引を拡大。米国がロシアへの経済制裁にドル建外貨準備を「武器」として使用したことから、リスク対策として他通貨も決済手段としておきたいグローバルサウス諸国でも取引が拡大しています。BRICS、上海協力機構、東南アジア、さらに中東でも人民元取引を拡大させている中国。真の基軸通貨には国家への信頼が不可欠ななか、人民元にその資格はありませんが、少なくともロシアへの経済制裁効果低減と金融面での分断には威力を発揮していることに要注意です。
2023年2月23日 6:36 』