人間の行動の殆どは、論理的な理由より習慣の産物 : 机上空間
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『テレビのメディアとしての退潮が言われて久しいですが、最近では、さらに進んでいて、そもそもテレビを持たない若者も増えています。面白い事、ワクワクする事、楽しい事は、ネットにあるのであって、一方的な情報の受け手でしかなく、しかも必要な情報にアクセスするのに、こちらから時間を合わせなくてはならない番組という縛りのあるテレビは、今のライフスタイルに合わなくなっています。
今のライフスタイルは、思い立った時、好きな時間に、好きな場所で、必要な情報にアクセスできる事です。買い物も、予約も、閲覧も、時間・場所を選ばず、膨大に広がる情報の渦の中から、自分に必要な情報を随意で取り出せるのが、当たり前になりつつあります。この条件が満たされていれば、画質とか、音質とか、そういう事は、二の次です。テレビというAV家電のくくりだと、性能に拘る方が多いですが、ちょい見をする場合は、閲覧できる事が重要で、ディティールは、さして重要ではなくなります。
つまり、テレビの衰退は、「面白い番組が無い」とか「情報が遅い」とか「情報に偏りがある」といった、質の問題よりも、いつでも、どこでも、いくらでもという視聴スタイルの変化によるものです。そういうのが、当たり前になると、余程のお気に入りでも無い限り、テレビ番組のスケジュールに合わせるという事をしなくなりますし、録画してタイムシフトする手間も惜しむようになります。
人間の行動は、論理的な理由があって、キチキチと行われているわけではなく、こうした日々を過ごす態度に引きずられるケースが多いです。なので、物事を継続するには、「理屈よりも習慣化」が重要だったりします。毎日、風呂に入って、下着を新しくしないと気持ち悪いと感じる人には、外国人のように2~3日に一回、シャワーだけという生活は、苦痛に感じるでしょう。まぁ、理屈を語れば、清潔でいる事による恩恵を、箇条書きで書けるくらい並べ立てられますが、普通、そんな事をいちいち考えて行動をしていません。
ちなみに、外国の中世の都会が、定期的にコレラやチフスの大流行で、死人に溢れた理由は、公衆衛生に関する認識の違いが大きいです。便壺に溜めた排泄物を、街路に捨てていたので、街中が汚れていて、非常に不衛生でした。女性のヒールが排泄物避けの為に開発されたという話もあります。水が豊富に使えて、公衆衛生意識の高かった江戸時代の日本は、そういう疫病の大流行というのは、抑えられていました。恐らく、何かしらの理屈に沿って、皆が行動していたわけではありませんが、結果として、公衆衛生意識の高さが、人命を救っていた事になります。
同じ理屈で、昨今のアメリカの経済の予想が、非常に難しくなっています。アンケート調査による市民の意識や、各種の経済指標が、バラバラの結果を指し示して、アメリカの経済の現状が、掴みにくくなっています。
アンケートを取ると、皆が「生活が苦しいので節約します」、「インフレで物価が高くて生活がキツイです」と言うのですが、実はクレジットカードの使用額は、24%も増えています。このブログで何度も書いているように、インフレ対策として、アメリカはドルの金利を、物凄いペースで上げています。これによって、消費が抑制される事で、インフレが抑制される効果を狙っているからです。よく言われる加熱した経済を冷やす効果です。しかし、多くの人が生活が苦しいと言っているのに、決して消費が衰えているわけではないのです。
この理由なのですが、武漢肺炎で、多額の支援金を出した為、一時期、職種によっては、無職でいるほうが、収入が多いような状態が作り出されました。つまり、金がジャブジャブ状態だったわけです。それで、ドルの価値が下がってインフレになったのですが、タイムラグがあるので、感染症で色々と大変でしたが、市民の貯蓄というのは、外出ができなかった事もあって、自然に上がっていきました。この時の消費の行動パターンが、貯蓄を取り崩す状態になっても修正されていないからと思われます。つまり、貯蓄が乏しくなっても、相変わらずの日常を過ごしているわけです。
しかし、貯蓄が潤沢な人ばかりではないので、カード社会のアメリカでは、気軽にカードで借金をしてしまうわけです。何かを買う為ではなく、普段と変わらない日常を過ごす為に、借金を増やすわけです。その為、全体のカードローンの負債額は、9300億ドルに達しています。これは、住宅ローンなどを除いた、家計債務の総額です。全てを含めると、16兆5000億ドルに達します。
特に、ここ最近の負債の増加ペースは、2008年のリーマンショック時に迫る勢いになっています。このインフレで生活が苦しいのに、消費が抑制されないという不思議な現象は、政治で経済を弄り過ぎると、予測不可能な後遺症が出るという典型例です。例えば、中古車の価格を見ると、物流が混乱して、新車製造が追いつかなかったパンデミック最盛期に比べると、壊滅的に値下がりして、業者の経営が傾くぐらいインフレが収まっています。品目で見ると、確かにインフレの抑制効果が確認できるのですが、一般の小売は、横ばいか微増だったりします。
この理由を、論理で説明するのは、難しく、敢えて理屈を付けるなら「ローン負債が少し増える程度の負担では、人々は以前の生活習慣を変える理由にならないから」とでも言うしかありません。経済に敏感な人は、根本から生活態度を改めて、厳しく生活を律しているでしょうが、そういう人ばかりではありません。そして、消費が抑制されないという事は、FRBが進めるドルの政策金利の引き揚げ幅と、高金利を維持する期間が伸びる事を意味します。FRBは、各種経済指標に基いて、金融政策を決定するので、消費が冷えない以上、高金利政策を続ける事になります。
決して好景気で、経済が順調でもないのに、インフレが収まらず、消費も落ちないという歪な状況は、まさに政治で経済を弄り過ぎた結果と言えます。今は、まだ、リーマン・ショックの時のように、急激に負債が増えているわけではないので、返済が不可能になるローン破綻者は、少ないのですが、生活費で負債が増えていく状況は、一気に借金が増えるより、社会としては不健全と言えます。好転する見通しが無いのに、借金だけが除々に増えていくという事に他ならないからです。なので、ここ最近のチャートの予想は、実に難しいです。』