中国・王毅氏、プーチン氏と会談へ 習主席の訪ロ調整も

中国・王毅氏、プーチン氏と会談へ 習主席の訪ロ調整も
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『【北京=羽田野主】中国の外交担当トップ、王毅(ワン・イー)共産党政治局員はロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する見込みだ。中ロ間で対米連携を確認する狙いがある。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは21日、王氏が習近平(シー・ジンピン)国家主席のロシア訪問について調整する可能性があると報じた。

中国の偵察気球の撃墜を巡って米中関係は緊迫している。習指導部には、ロシアのウクライナ侵攻から1年の節…

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『習指導部には、ロシアのウクライナ侵攻から1年の節目となるこの時期に王氏を派遣し、ロシアとの連携を内外に示す思惑がある。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると習氏が数カ月以内にロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する計画を準備しているという。関係者の話として報じた。ウクライナ侵攻の終結に向けた和平交渉を後押しする狙いという。王氏は21日にロシアに到着した。習氏の訪ロについて調整する可能性がある。

王氏は訪ロに先立ってドイツでブリンケン米国務長官と会談した。王氏は米国の気球撃墜を非難し、ブリンケン氏は中国がロシアに殺傷力のある武器を供与する可能性に懸念を表明。会談は平行線をたどった。

王氏は18日にウクライナのクレバ外相とも会談した。「中国は常に和平交渉の促進を堅持している」と語りかけ、事態収束に協力する構えをみせた。中国は近くウクライナ情勢を巡る「政治解決案」を公表し、西側との緊張緩和を探る。

対米カードでロシア利用
中国外交担当トップの王毅(ワン・イー)氏がロシアを訪問したのは、バイデン米政権から懐柔策を引き出すための「ロシアカード」を手元に引き寄せておく狙いがある。2024年の米大統領選を前に成果を挙げたいバイデン米政権の足元をみて、揺さぶりをかける作戦だ。

王氏は訪ロで中ロの経済連携の強化をアピールする。22年の中ロ貿易額は1903億ドル(約25兆円)と21年比3割増え、2年連続で最高を更新した。欧米による経済制裁で割安になったロシア産原油の調達を増やし、集積回路の輸出を急増させている。中国はウクライナ侵攻で経済が疲弊するロシアへの協力姿勢を示し、同国への経済的影響力を広げたい考えだ。

中国政府関係者によると、このほど中国人民解放軍の直属のシンクタンクはウクライナ情勢を巡り最新のシミュレーションを実施した。その結果、今年の夏ごろにロシア軍が優勢のままウクライナ情勢が終局に向かう可能性が高いとの結論が出たという。

中国の軍事関係筋は「ウクライナ情勢が好転せずに米国は中国の協力を取り付けようと焦っている」とみる。24年秋の米大統領選が迫り、バイデン大統領はロシアのウクライナ侵攻をいかに食い止めたか実績を求められる。中国がロシアと近づく構えをみせるほど、米国は中国を取り込もうと譲歩せざるを得ないとの読みがある。

実際に中国の偵察気球を巡って批判を強めていたバイデン政権はトーンを弱め、中国のロシアへの武器提供の可能性に懸念を示すようになった。ドイツ南部のミュンヘンで王氏は向き合ったブリンケン米国務長官に「中ロ関係に対する米国の口出しや脅迫、圧力を一切受け入れない」と突っぱねてみせた。

2月17日から10日間の日程で中国はロシア、南アフリカと合同軍事演習をしている。3カ国の軍事演習は19年11月以来。ウクライナ侵攻からちょうど1年の時期に中国がロシアとの軍事演習に応じたのは米国をけん制するためだ。

ロシアと一定の距離

もっとも、ウクライナ侵攻を巡り中国がロシアと「一枚岩」とみられるのは習近平(シー・ジンピン)指導部にとって避けたい事態だ。ロシア外務省はプーチン大統領が習氏の今年春の訪ロを要請していると発表したが、中国側は沈黙している。今回の訪ロで王氏がプーチン氏と調整に当たる見通しだが、米国の出方をにらみつつ、習氏の訪ロカードを切るか探る戦術とみられる。

中国政府は近く「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」と題する和平案を発表する。核兵器や原子力発電所への攻撃に反対する内容が盛り込まれる見込み。和平交渉を促す立場を強調し、ロシアと一定の距離を保つ姿勢もみせる。

中国政府内ではすでにウクライナ情勢の終局を見据えた経済復興策の検討も始まっているという。ある政府関係者は「人権問題などで中国を批判をしないウクライナは貴重な存在だ。中国はロシアと同じようにウクライナを失うわけにもいかない」と指摘する。ウクライナへの支援を通じて欧米の悪化した中国の印象を好転させようとする思惑ものぞく。

中国の狙い通りにいくかは見通せない。国力の低下するロシアは中国に抱きつく戦術で、中国も関係を断ち切るのは不可能に近い。ウクライナの和平案も抽象的な内容にとどまればかえって欧米から本気度を疑われかねないリスクをはらんでいる。

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説 米中関係、中国と西欧諸国の関係を左右するカギは実は中国の対ロ政策にある。アメリカが警告を発しているように、もし中国がロシアに殺傷性の持つ武器を提供するなら、米中関係はかつての米ソ冷戦のような最悪の状況に陥る。また中ロがさらに接近すれば、ドイツとフランスなどの西欧諸国も対中政策を強硬化させていくであろう。中国としては、米中関係の悪化で中ロ関係を強化したいところだが、中ロ関係を強化することは中国にとって必ずしも得策ではない。こうした情勢のもとで、昨今の一連の動きの中でも、王毅のロシア訪問と習近平の訪ロは最も重要な意味を持つイベントと言っても過言ではないだろう。
2023年2月22日 8:27 (2023年2月22日 8:30更新)
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説 まさに合従連衡のゲームである。バイデン大統領のキーウ電撃訪問も、習主席のモスクワ訪問もかなりのリスクを伴うものである。民主主義の国の世論は価値観が軸になる。しかし、国際政治は勝負が重要である。バイデン大統領は議会での演説で民主主義は絶対に強くなると述べた。戦略的にそういえるかもしれないが、戦術的には必ずしもそうはいえない。したがって、新冷戦は両陣営の戦術によって勝負が決まるのではなかろうか
2023年2月22日 8:07いいね
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