米国、中国の対ロシア支援に警告 対抗措置辞さず

米国、中国の対ロシア支援に警告 対抗措置辞さず
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『【ミュンヘン=中村亮、北京=羽田野主】ブリンケン米国務長官は18日、中国との外交トップ会談でロシアへの軍事支援に対抗措置を講じる構えを見せた。ウクライナ東部でロシア軍の大規模攻勢を後押ししかねないとの危機感がある。米中は対話維持に一歩進んだが、偶発的衝突のリスクはくすぶる。

ブリンケン氏はドイツ南部ミュンヘンで、中国外交担当トップの王毅(ワン・イー)氏と会談した。中国からロシアへの「物資援助」や…

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『中国からロシアへの「物資援助」や「体系的な制裁逃れ」への支援に言及し、実行すれば「報い」を受けると断言した。物資援助は軍事支援を意味し、対抗措置をちらつかせて対ロシア支援を控えるよう迫った。

会談に先立ち、ハリス米副大統領もミュンヘン安全保障会議で演説して中国にクギを刺した。演説と司会者との質疑応答を合わせて約30分間の登壇で中国に唯一触れたのは中ロ協力の深化に懸念を示す場面だった。

「殺傷力のある(軍事)支援につながる全ての措置は侵攻を後押しし、殺害を継続させてルールに基づく秩序を弱体化させる」と語り、中国に懸念を示した。

ブリンケン氏も王氏との会談後に米NBCテレビのインタビューで「我々は中国がロシアに殺傷力のある支援の供与を検討していることを非常に懸念している」と述べた。

一方、王氏は会談で「我々は米国が中ロ関係に対して口を出したり、圧力を加えたりすることを受け入れたことはない」と述べた。中国はウクライナ侵攻についてロシア寄りの立場を示しつつ、米欧との関係に配慮して軍事支援に慎重だった。

中国の支援はロシア軍を勢いづけるリスクがある。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は13日、ロシアがウクライナで大規模な軍事作戦を始めたと言及した。米欧からウクライナへの主力戦車の引き渡しは時間がかかっている。米欧の弾薬在庫は減少し、ウクライナへの供与の余力が乏しくなりつつある。

アメリカン・エンタープライズ研究所のザック・クーパー上級研究員は、バイデン政権が中ロ協力に再び関心が集まるようにして中国に対ロシア支援をためらわせようとしたとみる。王氏はロシアを近く訪問してプーチン大統領と会談する見通しだ。ロシアへの支援が議題にのぼる公算が大きい。

偵察気球の問題で批判を浴びた習近平(シー・ジンピン)指導部はロシアとの関係を維持しつつ、米国に譲歩を迫る戦術を描いている。中国の軍事関係筋は「ウクライナを巡る情勢が好転せず、米国は焦っている。中国の協力をとりつけようとしている」とみる。

王氏とブリンケン氏との会談は気球問題で孤立を深める習指導部にとって渡りに船だった。王氏のロシア訪問では、同国が要請する習氏の訪ロ日程が議題になる可能性がある。ロシアとの接近をみせて、米国を引き寄せる狙いがある。

ジャーマン・マーシャル財団のボニー・グレイザー氏は会談に関し「米国の申し入れを断ることは中国の利益ではなかった」と指摘した。米国が中ロ接近に懸念を示したこともあり「(中国は会談を断れば)欧州から厳しい批判にさらされていた」と語った。会談を受け入れて批判にさらされるリスクを避けたと分析した。

バイデン政権は外交トップ会談の実現に腐心した。会談に先立つ演説で王氏は米軍が4日に中国の気球を撃墜したことに関し「国際的な慣習に違反する武力行使の乱用だ」と糾弾した。その後に登壇したハリス氏は米中関係や気球問題に触れず、目立った対中批判を控えた。外交トップ会談の地ならしに徹したのは明白だった。

偶発的衝突のリスクはくすぶる。クーパー氏は「米中の対話ルートは良好だとは思えない」と話す。オースティン米国防長官は気球撃墜の直後に中国の魏鳳和国防相に電話協議を求めたが中国が拒んだ。クーパー氏は「一つの気球を巡る危機を対処できなければ台湾海峡の情勢悪化などもっと深刻な課題に対処できると思えない」と述べた。

米議員団の台湾訪問計画が相次ぎ、バイデン政権は台湾の自衛力向上を支援する立場を堅持している。台湾に関して内政問題だとする中国と隔たりが埋まる可能性はほぼなく、米中対立は続く。

バイデン大統領は16日、気球問題をめぐり習氏と直接協議する意向を示した。18日の会談で首脳協議を調整した可能性があり、実現するかどうかが当面の焦点になる。

【関連記事】米中外交トップ会談 「気球は主権侵害」「武力の乱用」
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説 欧米のマスコミの報道をみると、会談の前、米中外交トップ会談への期待があったが、終わってみると、失望しかない。両者はまったく噛み合わない文法で会談した。王氏は、米国は事態を拡大させるならば、とことんまで付き合うと豪語。王氏らしい発言だ。なぜこうなっているかといえば、やはり両者が信奉する価値観が違うからである。米中はとっくに冷戦に突入している
2023年2月20日 7:22いいね
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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説 ブリンケンの言葉による「抑止」。もし本格的な武器支援となればウクライナをめぐる国際関係が大きく変化。中国自身がやり玉にあがるため、本格的なロシア支援は避けながらも、ロシアからエネルギーを買いたたいてきました。その結果、この1年で中国はロシアの生命線となり、ロシアは中国のジュニアパートナー化。このように、中国としては現状で既にメリットがあるため、ロシアに本格的に軍事支援をするのがどこまで賢明か分からないところ。
2023年2月20日 0:11 (2023年2月20日 6:54更新)
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