プーチン大統領、長期戦に焦り 激怒の裏にじんだ危機感
編集委員 池田元博
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD16A3B0W3A210C2000000/
『ロシアがウクライナに軍事侵攻してから、24日で丸1年となる。短期決戦でウクライナを敗北させようとしたプーチン大統領の当初の計画は失敗した。その後はウクライナ東・南部の占領地域の維持や拡大を主要目標に掲げる。21日に予定される年次教書演説でも「勝利」に向けた戦闘継続を訴えるとみられるが、長引く戦争への焦りも垣間見える。
動いたゼレンスキー氏
「プーチンの侵略は我々の時代と米国、そして世界への試練だ…
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『「米国はあなたの国(ウクライナ)を支援するために結束している。我々は必要な限り、いつまでもあなたたちと共にある」。米国のバイデン大統領は7日の一般教書演説で、ロシアと戦争を続けるウクライナを見捨てず、今後も支えていく構えを表明した。
2022年12月、ホワイトハウスでバイデン米大統領に歓迎されるウクライナのゼレンスキー大統領㊧=ロイター
ウクライナのゼレンスキー大統領も動いた。2022年12月、侵攻後初めて出国し、最大の支援国の米国を訪問した。2月8日には英国とフランスを歴訪した。9日はベルギーに行って欧州議会で演説し、欧州連合(EU)の首脳会議にも参加。「自由なウクライナなくして自由な欧州はない」と訴え、支援の継続を求めた。
9日、欧州議会で歓迎されるウクライナのゼレンスキー大統領(前列㊨)Daina Le Lardic/European Union 2023=ロイター
「ウクライナは歴史的にロシアの領土」とみなすプーチン氏は、1年前の侵攻当初、南・東部とともに首都キーウ(キエフ)を集中攻撃した。数日間で首都を制圧し、ゼレンスキー政権を倒して親ロ派のかいらい政権を樹立する思惑だった。
首都制圧にも、ゼレンスキー氏の排除にも失敗すると、こんどはロシア系住民の多い東部などで攻勢を強めるようになった。22年9月末には東部のドネツク、ルガンスク、南部のヘルソン、ザポロジエの4州のロシアへの併合を宣言。とくに東部2州は完全制圧をめざし、ロシア支配を固めようとしている。
長期戦を覚悟
プーチン氏は今は、かなりの長期戦も覚悟しているとみられ、部分動員令によって30万人超の予備役を確保した。侵攻が長引けば、米欧ではウクライナへの関心が次第に薄れ、支援も急減していくと踏んだ面もある。22年10月からはウクライナ全土で発電所などインフラ施設へのミサイル攻撃も本格化し、市民の間で厭戦(えんせん)ムードを広げようとした。
ロシア軍の攻撃で破壊されたアパートの前で、兄弟の救出作業を見守る女性(15日、ウクライナのドネツク州)=ロイター
だが、侵攻から1年が過ぎようとしているのに、米欧の支援の動きは後退していない。それどころか、当初は慎重だった強力兵器の提供も次々と始まっている。ロシアが攻勢を強めれば強めるほど、米欧がより強力で高性能の兵器をウクライナに提供するという構図だ。米欧は先に、主力戦車の大量供与も決めた。
「ばかにしているのか」
「全く信じられないことだが、事実だ。我々は再び、ドイツのレオパルト戦車の脅威にさらされている」。プーチン氏は今月2日、第2次世界大戦の独ソ戦の激戦地だった南部ボルゴグラードで演説し、ドイツなどによるウクライナへの戦車供与を痛烈に皮肉った。内心では相当な危機感を抱いているのだろう。
「スターリングラード攻防戦」の勝利記念行事で演説するロシアのプーチン大統領(2日、ロシア南部ボルゴグラード)=タス共同
プーチン氏の焦りがうかがえる場面があった。1月11日にオンラインで開かれた政府会議だ。マントゥロフ副首相兼産業貿易相が軍事用と民間用の航空機やヘリコプターの調達契約について説明すると、プーチン氏は「まだ発注を受けていない企業がある」と反論。「対応が遅い、遅すぎる」「ばかにしているのか」などと激怒したのだ。
ウクライナ戦争について、早期終結を求める動きも出ている。米国防総省に近いとされる米シンクタンクのランド研究所は先月、「長期戦争を避ける」と題した提言書を発表した。
ロシアもウクライナも完全に勝利する見込みはない。戦争が長期化すれば、ロシアが核兵器を使用したり、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の紛争に発展したりする恐れがある。米国は中国を筆頭に他の外交政策に焦点を当てる必要もある――。こうした理由から、ウクライナ戦争の交渉による解決を促した。
米国はウクライナには将来の支援計画を明確化するとともに、安全や中立化を保証。ロシアには制裁緩和の条件を設定し、交渉を促すのが望ましいとしている。一見、ロシアにとって都合の良い提言のようにもみえる。
ところが、提言書は「ロシアが被った軍事、経済的損失を回復させるには数十年はかかる」と分析。欧州のエネルギー調達のロシア離れ、スウェーデンやフィンランドのNATO加盟の動きなどもあり、ロシアはすでに経済の損失、国際社会での信用失墜、軍の弱体化といった戦争の代償を払っていると断じた。
来春にロシア大統領選
ロシアの有力紙コメルサントは先に、現在は実質4期目のプーチン氏の大統領再選に向けた準備が大統領府内で始まったと報じた。次期大統領選は来年3月に実施される予定だ。
ウクライナ侵攻の影響で国は疲弊し、選挙戦に向けてプーチン氏が経済・社会分野で国民にアピールできるものはほとんどない。そこでウクライナ軍事作戦の「戦果」を誇示しようと、焦っているのかもしれない。
ロシアでは軍事侵攻により、西側企業の撤退も相次いでいる(閉店したモスクワ郊外のイケアの店舗)=ロイター
だが、当の軍事作戦には「保守派とリベラルなエリート層の双方で、政権への不満が強まっている」(政治評論家のアンドレイ・コレスニコフ氏)という。核兵器使用を含めてより強硬路線に傾斜するのか、逆に停戦への道筋を探るのか。プーチン氏自身、振り上げた拳の落としどころがまだ見えていないようだ。
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ロシアによるウクライナ侵攻から24日で丸1年となります。首都キーウの状況、情勢の今後の行方について21日(火)午後5時からオンラインイベントを開きます。お申し込みはこちらです。https://www.nikkei.com/live/event/EVT230201004
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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察 長期戦になって不利になるのが、ロシア側なのか、それとも長期的な結束の維持が求められる米欧の支援に頼るウクライナ側なのかの、判断は難しいと思います。ロシア内にも焦りがあるようですが、戦争の長期化は、人口規模がロシアに比べて小さく、兵員の維持が難しいウクライナに不利だという認識が米国内にもあります。プーチン大統領、ゼレンスキ―大統領、そして米欧の思惑が一致すれば、停戦への機運が生まれるはずですが、そう簡単にはいかなさそうです。だからこそ、米欧と国際社会は、停戦の可能性を常に探っていく必要があります。G7議長国の日本の仕事でもあることを忘れてはいけないでしょう。
2023年2月20日 8:23いいね
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