焦点:「腐った建物」と骨抜き規制、トルコ地震で建物多数倒壊

焦点:「腐った建物」と骨抜き規制、トルコ地震で建物多数倒壊
https://jp.reuters.com/article/turkey-quake-rotten-buildings-idJPKBN2UQ02B 

 ※ 今日は、こんな所で…。

 ※ 『2018年には建築基準関連法が強化され、地震の揺れを吸収する鉄骨や鋼柱の使用が義務付けられた。

しかし同年、政府は既存の不適格な建築物件について有償で義務を免除する仕組みを導入。1000万人を超える人々が申請し、政府は不動産税や登録費として30億ドル(約3980億円)以上を徴収した。

公式のデータによれば、トルコ国内にある1300万戸の建造物のうち半数以上が法令に違反している。多くの不動産所有者が免除を選び、これが政府の収入源にもなっている。』…。

 ※ それじゃ、「耐震基準」の、意味ねーだろ…。

 ※ まあ、「既存の」物件の話しではあるが…。

 ※ 現実と「妥協」した結果、「現実」が追い付いて来る(次の大地震が起きる)のに、「間に合わなかった」か…。

 ※ せめて、徴収した資金の、半分くらいは「基準合致」物件の建築助成に回す…、とかの策は、取れなかったのか…。

『[13日 トムソン・ロイター財団] – トルコとシリアの国境付近で6日未明に発生した大地震では、多くの建物が倒壊し、がれきに埋まった人々の救助が難航している。死傷者の数が近代史上最多に上る見通しとなったトルコ国内では、なぜこれほど多くの建造物が倒壊、崩落したのかを巡り、怒りの声が高まっている。
 2月13日、トルコとシリアの国境付近で6日未明に発生した大地震では、多くの建物が倒壊し、がれきに埋まった人々の救助が難航している。写真は地震で倒壊した建物の周囲で立ち尽くす人々。12日、トルコ・アディヤマンで撮影(2023年 ロイター/Sertac Kayar)

エルドアン政権は建物の倒壊について、責任の所在を詳細に調査すると表明。これまでに100人以上の逮捕が指示された。

一方で、建築関連の基準法の施行が不十分で、汚職を増長させ、1999年に発生した大地震発生を受けて建物の耐震性を高めるために課された特別税が不適切な用途に使用されてきたとして、エルドアン大統領を批判する声が上がっている。  

コラムニストのフェレイ・エイテキン・アイドアン氏は先週、トルコ国内の左派紙「ビルギュン」でこう述べた。

「大勢の命を奪ったのは地震ではない。『都市変容』という名のもとに街を共同墓地に変えてしまった人々、そしてあらゆる建築許可証の下部に署名をした人々だ」

クルム環境相は、17万戸以上を調査した結果、今回のマグニチュード(M)7.8の地震で、被災地域で2万4921戸の建物が倒壊ないし甚大な被害を受けたと発表した。

過去の地震を経験してきた多くのトルコ人にとって、今回の地震には気が重くなるような既視感があるという。

トルコ北西部で1万8000人以上が命を落とした1999年の地震の後にも、建築基準法の不備と汚職が被害を悪化させたとして多くの非難を浴びた。

あるトルコの大手新聞は当時、「またしても腐敗した建物、そして悪徳な建築業者による手抜き行為だ」と報じていた。

デベロッパーが基準法を守らない建築計画を行うことも常態化しており、腐敗した政治家や地方自治体の担当者がこうした違反に目をつむって賄賂を受け取っていることも多いとの批判もある。

2022年までの10年間、トルコでは建設ブームが広がった。非政府組織「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」による「腐敗認識指数」ランキングで、2012年に174カ国中54位だった同国は、22年には101位にまで転落。10年で47位も順位を下げた。

エルドアン大統領の事務所にコメントを求めたが、返答は得られなかった。

<「クリーンな始動」か>

エルドアン氏率いる公正発展党(AKP)を2002年に政権与党の座に押し上げたのは、1999年の地震などに起因する人々の怒りや経済的課題だった。同党は、まん延する汚職から距離を置く「クリーンな始動」を公約していた。

AKPは大規模なインフラプロジェクトに着手。新たな空港や港、道路、鉄道、公営住宅などが国内の至るところで次々に建設され、トルコ経済に重要な恩恵をもたらした。

「AKP政権初期の10─12年間、建設業がトルコ経済の高度成長を支える柱の一つだった」

こう分析するのはコンサルティング会社テネオのウォルファンゴ・ピッコリ氏だ。ピッコリ氏は政党と建設会社に「密接な関係」があると指摘する。

こうしたインフラの急成長は、他国の投資家からも称賛を集めてきた。

「これまでずっと、素早くインフラ整備ができるトルコの能力を評価してきた。ただ、後から考えれば本当に速すぎただけかもしれない」と、ブルーベイ・アセット・マネジメントのトルコ情勢アナリスト、ティモシー・アッシュ氏は言う。

「原因がコストカットと欲深さにあることは容易に想像がつく。それ以外に説明のしようがない。どれだけ代償を払っても、成長しようとする文化なのだ」

政府と親しい建設業者は政治的・金銭的な支援と引き換えにに、国家事業に参加し、利益を受け取れる。国内で「レンティア(不労所得生活)システム」ともやゆされる、こうした資金循環のモデルに対し、野党側からは追及の声も上がる。

最大野党・共和自民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首は、地震で被害を受けた南部訪問後の発言で、「倒壊したのは、組織的な『レンティア政治』の結果だ」と述べた。

エルドアン氏は、野党が政治的な思惑から情勢を利用していると主張。この災害で同じく打撃を受けた、野党が主導権を握る自治体で起きている汚職は無視していると非難した。

<建築基準法巡る規制と恩赦>

トルコ政府は2007年、建設セクターでの腐敗を一掃すべく新たな規制を導入した。新しく建築される建物には耐震性を持たせ、古い建造物の補強工事を進めることが目的だった。

2018年には建築基準関連法が強化され、地震の揺れを吸収する鉄骨や鋼柱の使用が義務付けられた。

しかし同年、政府は既存の不適格な建築物件について有償で義務を免除する仕組みを導入。1000万人を超える人々が申請し、政府は不動産税や登録費として30億ドル(約3980億円)以上を徴収した。

公式のデータによれば、トルコ国内にある1300万戸の建造物のうち半数以上が法令に違反している。多くの不動産所有者が免除を選び、これが政府の収入源にもなっている。

今回の地震を前に、昨年も新たな免除を導入する法令の改正案が提出され、批判を浴びながらも審議された。

1999年にトルコ北西部で発生した地震から23年が経った昨年8月17日、建築家組合は「建築基準関連法案の適用免除発令に賛成票を投じる議員はみな、殺人に加担した責任を負う」と表明していた。

エルドアン氏は、6月に予定されている大統領選と議会選がこの20年で最も苦しい選挙戦になると見られている。そこへ、今回の地震によって大規模な救助活動や復興という難題が降りかかった。

災害対応の不備や、建築基準法の不十分な取り締まりなどを巡る政府への批判がエルドアン氏への支持を揺るがすとの指摘もある一方、同氏が災害対応を通して国民の支持を集める可能性もあると一部の専門家は分析する。

地震によって甚大な被害を受けたハタイ県に訪問した際、エルドアン氏は、公営住宅建設に携わる建設業者を総動員してがれきを撤去し、1年以内に被災地域の再建させると表明。こう宣言した。

「私たちは、こうした問題で実績を上げてきた政府だ」』

スコットランド行政府のスタージョン首相、辞任へ

スコットランド行政府のスタージョン首相、辞任へ-独立運動の先導役
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-02-15/RQ4CNIDWRGG201

『英スコットランド民族党(SNP)の党首でスコットランド行政府首相を務めるスタージョン氏が15日、辞任を表明した。在任期間は8年以上に及び、スコットランド独立運動の先頭に立ってきた同氏による突然の辞任表明は、英国の政界に波紋を呼ぶとみられる。

  スタージョン氏(52)は記者会見で「十分に職務を果たすということの一部は、誰かに道を譲る引き際をほぼ本能的に知るということだろう」と語り、「自分の頭や心の中ではその時が今だと分かっている。自分自身や党、そして国にとって正しい決断だ」と続けた。

  同氏は後任が決まるまでは首相職を続けるという。

  SNPはスコットランド独立を問う住民投票の再実施に向けて、今後英国にどのように働き掛けていくかを決める特別会合を約1カ月後に控えている。スタージョン氏はこれまで、次回の英総選挙、もしくはスコットランド議会選挙を英国離脱を巡る事実上の国民投票にしたいと考えていた。

原題:Scottish Leader Sturgeon Resigns in Shock to UK Politics (2)

*STURGEON WILL REMAIN IN OFFICE UNTIL SUCCESSOR IS ELECTED

(抜粋)』

中国の退職者は、健康給付を削減する計画をめぐって街頭に出ます

中国の退職者は、健康給付を削減する計画をめぐって街頭に出ます
https://www.aljazeera.com/news/2023/2/16/chinese-retirees-take-to-streets-over-plan-to-cut-health-benefits 

『(※ 翻訳は、Google翻訳)

厳重な警備体制にもかかわらず、武漢と大連の都市では何百人もの高齢者が行進した。
武漢の地下道に集まる防寒着姿の群衆。 中には白髪もある

高齢者が武漢の中山公園の外に集まり、毎月の医療給付の削減に抗議している[ロイター経由のソーシャルメディアビデオからの静止画像]
2023 年 2 月 16 日公開2023年2月16日

何百人もの退職者が武漢と大連の中国の都市の街頭に繰り出し、医療給付の削減に抗議している.

武漢市の中心部では、水曜日にオンラインに投稿されたビデオが、市内中心部の中山公園の外にいる主に高齢者を何百人も映し出している。

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4 項目のリスト
リスト 1/4
WHOは、COVIDの起源について「答えが得られるまでプッシュする」
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スパイ気球の疑いで日本が中国に領空侵犯を警告
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フィリピン大統領、海上衝突で中国大使を召喚
リスト 4 の 4
中国、新型コロナウイルス騒動後、韓国人のビザを再開
リストの終わり

ロイター通信によって検証された、約1100万人が住む武漢からの1つのビデオは、抗議者と制服を着た警備員が互いに押したり押したりしている様子を示していました.

北東部の大連市でも、数百人が健康保険改革に抗議するために街頭に繰り出したと、地元の目撃者の話としてAFP通信が伝えた。

「医療保険のお金を返してください」という彼らの叫び声が 1 つのビデオで聞こえた。AFP はそのビデオを、多くの地方政府の建物がある市の人民広場に位置付けた。

中国では抗議行動はめったにありませんが、習近平国家主席のCOVIDゼロ政策の下で3年近く実施されてきた厳格なパンデミック対策に対する昨年の広範な抗議行動を含め、国民の怒りが噴出することがあります.

デモは、3 月初旬に開催される中国の年次議会集会の数週間前に行われます。

2019 年後半に COVID-19 が最初に検出された都市である武漢では、警察が複数の列に並び、一部は腕をロックし、ほとんどが高齢者の何百人もの抗議者が幹線道路にこぼれ、苦情を叫びました。あるビデオでは、1949 年の内戦終結時に共産党が権力を握って以来、中国で教えられ歌われてきた共産党の国歌「The Internationale」を群衆が歌い始めました。

武漢の住民によると、中国の高齢者は、退職者の毎月の個人医療手当が月額260元(38ドル)から83元(12ドル)に引き下げられた国の公的健康保険制度の改革に怒っている. 先週も市内でデモがありました。

「このお金はごくわずかですが、高齢者にとっては命を救うお金です」と武漢在住の張海氏はロイターに語った。彼は水曜日の抗議行動には参加しなかったが、彼の友人の何人かは参加したと述べた。

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「人々は繁栄していないので、少しのお金でも非常に重要です」と彼は言いました。

2021年から徐々に導入された保険改革は、何年にもわたるゼロCOVIDへの取り組みと、国内最大の開発業者の倒産の結果、地方政府の財政が圧迫されているときに行われます。

アナリストによると、武漢での抗議行動は、当局者が改革の影響をほとんど受けていないという事実によって悪化している.

「公務員と公共機関の職員は、従業員の健康保険制度に加えて、補助金付きの医療支援保険を利用する権利があります」と、政治リスクコンサルタント会社の SinoInsider はメモで述べています。

「CCP(中国共産党)の上級幹部や退職した幹部は、基本的な医療保険を支払う必要なく、公費で寛大な医療を受けることができました。」

出典:通信社

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意識が高くなって治療や支援が行き届いた社会だからこそ「なおすべきは、あなただ」と言えてしまわないか?

意識が高くなって治療や支援が行き届いた社会だからこそ「なおすべきは、あなただ」と言えてしまわないか? – シロクマの屑籠
https://p-shirokuma.hatenadiary.com/entry/20230216/1676512245

『www.kosehazuki.net

 昨夜、「セルフケアを持てはやすなよ」という文章を見かけたので読んだ。

その前にもtwitterで前哨戦のようなフレーズを見かけていたので(参照:これやこれなど)、ああ、そのあたりが意識されるフェーズなんだなと思うことにした。私も前から関心があって、もう少し調べてから言語化したいと思っていた。このセルフケアやアンガーマネジメントの話は、たとえば『チャヴ』でルポルタージュされたイギリスで新自由主義が進んでいった話などとも、自己実現や自己充足といったモチベーションの領域の話とも、自己啓発の領域とも地続きにみえてならないからだ。
 
チャヴ 弱者を敵視する社会

作者:オーウェン・ジョーンズ,Owen Jones
海と月社

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魂を統治する 私的な自己の形成

作者:ニコラス・ローズ
以文社

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日常に侵入する自己啓発

作者:牧野智和
勁草書房

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これらの書籍を「セルフケア」という角度から再読し、文章にまとめるのはちょっとした仕事量にはなるだろう。そうしたわけで黙っていたのだけど、冒頭リンク先に触発され、今、自分が思っていることを殴り書きだけでもしてみたい気持ちになったので、40分一本勝負でやってみる。
 
セルフケアやアンガーマネジメントは、一般に、進めれば進めるほど好ましいとされている。それらをとおして個々の労働者は自分自身の心身を守れるし、たとえば会社の上司が自分の機嫌の悪さを部下に押し付けるような事態を追放できる。そうすることによって職場の誰もがますます健康になり、気持ちよく働けるようになり、職場のコンプライアンスも守られる。個人間の暴力を禁じ、効率的な取引やコミュニケーションを推進する社会契約の理念にもかなっているだろう。
 
だからセルフケアやアンガーマネジメントを推進するのはおかしくないし、私も原則としては反対しない。たぶん多くの人もそうだろう。
 
ただ、良かれと思ってセルフケアやアンガーマネジメントを推進している人の裏には、ダブルミーニング的にこの流れに乗っかろうとしている人や、かえってこの流れを悪用しようとしている人も、想定しておかなきゃいけないとも思う。あるいは、こうしたことが極まった社会にどんな代償が伴うのかも考えに入れておくべきとも思う。そういったことをこれから書く。
 
セルフケアやアンガーマネジメントは、職場などで誰もが加害者にも被害者にもならずに気持ちよく働くための話だ。それらが難なくできる人にとっては特に好ましい話だろう。自分のメンタルヘルスもエモーションも易々と管理できる人には大した負担にならないし、そういうことができない連中から被害や迷惑を受けることがなくなる。なんとなればそういうことができない連中を職場や社会の表舞台から追放できる。バッチリだ。なにせ職場のコンプライアンス遵守から考えても、セルフケアができない個人、アンガーマネジメントができない個人が問題なのであって、私たちはセルフケアすべきだしアンガーマネジメントすべきなのである。それらができないやつはできてから来やがれ!
 
「自分の機嫌は自分で取る」なんか最近、「感情を処理できん人類は、ゴミだと教えたはずだがな」ぐらいのニュアンスで使われてない?
— 大刀🔞・ザ・ヒュージザンバー (@DAIGATANA) 2021年1月20日

……といった具合に、セルフケアやアンガーマネジメントをちょっとハードに適用すると、職場は最高にホワイトでコンプライアンスの守られた環境になるだろうけれど、その職場はセルフケアやアンガーマネジメントができる面々だけで構成されるようになり、できない面々が立ち入れない環境に変わる。

そしてセルフケアやアンガーマネジメントがしっかり定着した職場において、それらがちゃんとできないのは会社の問題でも社会の問題でもなく、個人の問題に帰するだろう。「おい、おまえちゃんとセルフケアやアンガーマネジメントができてないな。AさんもBさんもちゃんとできているんだぞ。できていなければおれらのコンプライアンスがなってないってことになっちまう。おまえもできなきゃだめだろ、できなきゃクビにしちゃうぞ」
──こんなことを慇懃無礼な言葉で警告されるようになるんじゃないだろうか。
 
セルフケアやアンガーマネジメントといった話には、たとえ会社や社会に問題があったりしても、まずは労働者個人に問題がないか点検し、個人をなんとかしようとさせる方向性があって、ともすれば、問題の個人化を促しているきらいがあるんじゃないか、と私は警戒している。

最近耳にするレジリエンスという言葉もそうだ。あの言葉はなんとなく聞こえがいいけれども、一歩間違えると問題解決を個人に強いるためのきれいごとになりかねない。気がする。
 
それから、セルフケアやアンガーマネジメントの定着した会社や社会は、資本家や経営者にとって非常に都合が良い点にも目配りしておきたくなる。

それらがひとたび定着すれば、労働者は上司も部下も自分で自分を修理したり制御したりしてくれるし、職場はブラックではなくホワイトとみなされコンプライアンスが守られる。

コンプライアンス遵守の差しさわりになりそうな人物を敬遠し、なんとなれば婉曲に追い出すことさえ可能になるかもしれない。

ホワイトな職場やコンプライアンスの遵守された職場は、生産性や効率性の面でも優れているだろうし、職場のコミュニケーションに感情というノイズが侵入するおそれも少なくなる。

それらが労働者のメンタルヘルスにどこまで貢献するのかはさておき、資本家や経営者にとっての面倒ごとを減らしてくれるのは間違いないだろう。
 
さて、そんなセルフケアやアンガーマネジメントを念頭に置きながら、もう少し私にとって間近な領域に目を向けてみる。

問題の個人化という視点でみた場合、メンタルヘルスに対する治療や診断の普及、メンタルヘルスに対する施策のかずかずも、問題の個人化を(一面としてだが)促していたりしないだろうか。
 
どういうことか。

今日ではメンタルヘルスへの行政的介入や福祉政策が充実し、たとえばストレスチェック、労働基準監督署、失業保険制度などをとおして私たちのメンタルヘルスはモニタリングされ、健康が絶え間なく促されている。それは良いことだろう。

また、発達障害も含めた精神疾患がどんどん診断されるようになり、それらが生物学的な背景のある疾患であり、遺伝子なり脳の機能なりの水準で問題が生じていると語られている。これも良いことだろう。

特に生物学的背景が説明されるようになった結果、多くの精神疾患において自己責任論がはびこりにくくなり、親責任論がはびこることも減っている。これも良いことだろう。
 
このように、メンタルヘルスをめぐる現況はおおむね自己責任論は回避できているし個人や社会にも貢献している。

しかし、こと、問題の個人化という事態は迂回しきれていないのではないか。個人に対し診断と治療と支援がなされる。それはいい。

だがそれが制度としても常識としても一般化していくなかで、そのメンタルヘルスの問題が起こっている状況について、会社の問題や社会の問題が含まれているとしてもそちらに目を向けるのはかえって難しくなってはいないだろうか。
 
つまり会社も社会も個人もメンタルヘルスについて意識がすごく高くなり、配慮も制度も充実した結果として、ひとつひとつの個人の不適応やメンタルヘルスの増悪はあくまで個人の問題でしかないと考えられやすくなり、そのぶん、会社の問題や社会の問題や体制の問題であるといった視点が、当事者からも医療従事者や福祉従事者からも遠ざけられやすくなってないだろうか。
 
もちろん、メンタルヘルスの諸問題は医療や制度をとおして何重にもバックアップされていて、それも良いことである。

しかし何重にもバックアップされている社会がここまでできあがったからこそ、右のように言い放つことが可能になっていないか心配なわけだ──「我々社会はこれだけやっています。それでもあなたがこうなるのはあなたの問題であって、社会の問題ではないですよね? なおすべきは、あなたであって社会ではない」
 
実地の医療や制度運用において、会社が悪い・社会が悪い・体制が悪いなどとシュプレヒコールをあげる余地は少ない。

どうあれ個人は個人としてメンタルヘルスの回復と向上につとめなければならない。生物学的背景の関与する精神疾患であれば尚更だ。

そのあたりは個人の問題として対処すればいいと思う。でも、これだって、会社や社会や体制の側が「そういうのは個人の問題に帰するものなんですよー」と頬かむりするにはなんだか都合の良い状況だ。

個人の救済のためのシステムをバッチリ発展させた結果、問題が生じた個人の治療やケアをすればいいだけで会社や社会や体制を省みるにはあたらない、と思い込みやすい状況ができあがってしまっていないだろうか。
 
もちろん個人も医療も行政機構も、会社や社会や体制の頬かむりを許すために頑張っているのでなく、あくまで個人の救済のために活動しているだろう。

セルフケアやアンガーマネジメントを推進している人達にしてもそうだ。でも、そうやってミクロな個人的救済を無数に積み重なった結果、マクロなレベルではまったく異なった結果が生み出され、まったく異なった目的のために通念や制度を利用してやろうと考えるプレイヤーも現れ……みたいなことはぜんぜんあり得る。

現状を否定すべきとは言わない。が、こうした変化の行き着く先と、こうした変化で一番得をしているのは誰かといった視点で振り返ってみることも、ときには必要じゃないかと私は思う。
 
前半でちょっと触れたように、この話は人間を働かせることとそれに付随する道徳や正義や正当性の話とも接続しているはずで、しっかりまとめるなら、そのあたりの過去と現在についても併記するのが望ましいと思っている。

それと資本主義が極まってきた現在、人間そのものが資本財となっているので、その資本財である人間は当然管理されなければならないはずで、その人間を資本財として管理運用するという視点からセルフケアやアンガーマネジメントについて考えると、今回とは違った、もっとディストピアみのある文章ができあがるはずだ。

けれども40分で書ききれるのはだいたいここまでなので今日はここまで。
 
シロクマ (id:p_shirokuma) 』

「セルフケア」を持てはやすなよ

「セルフケア」を持てはやすなよ
https://www.kosehazuki.net/entry/2023/02/15/%E3%80%8C%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%80%8D%E3%82%92%E6%8C%81%E3%81%A6%E3%81%AF%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%AA%E3%82%88 

 ※ 「人間の精神・身体」というものは、「限界」がある…。

 ※ その「限界」を超えると、「壊れて」しまう…。

 ※ オレが、「死にかけて」、「あの世」に行かずに済んだのは、単に「運が、良かった。」だけの話しだ…。

『2023-02-13 日記 考え事

 月曜日。今日は仕事でとても煮え切らない、腹立たしいとも悲しいとも違う、形容しがたい虚無感を覚える出来事があった。言葉で表現することがはばかられるような出来事だ。婉曲的に、平たくいえば、多忙な働き方を強いられることで健康を損なう人がたくさん出たことの帰結のようなことが起こった。

 そこで最終的に共有されたのは、「みなさんも抱えこまないように気をつけましょう」という耳触りのいい忠告だった。

セルフケアは大切だと思うし、方法はどうであれ自分の機嫌を自分でとっていけたらいいなと感じるけれど、セルフケアを持てはやしすぎると「社会に不満を持ってしまうのは自分のセルフケアが足りないからだ」的な話になりかねないから少し警戒している
— 八月 (@koseee_) 2023年2月12日

 ちょうど昨日から「セルフケア」の話をぐるぐる考えていたせいか、今日はいろいろな出来事にさらされて情緒がめちゃくちゃになった。

 セルフケア・セルフラブの定義はとても難しいので、とりあえずここでは日常的に使われている「自分の機嫌を自分でうまくとって、自分を大切にして、自己肯定感を上げてうまく生きましょう」程度のニュアンスで簡単に解釈しておきたい。

そのうえで、それ自体の重要性はとても分かる。とても大切だとも思う。頑張った自分へのご褒美として高価な買い物をすることや、嫌なことがあった時に食事やアクティビティに課金して息抜きをすることは、私自身もよく実践する。自分のために時間やお金を使って自己を高めていくことは否定しない。世をうまく生きていく処世術であり、自分自身をフラットに保つ防衛策としても有用だから、日々を健やかに生きるために少なからず必要だと思っている。

 私がなんだか嫌だな~と思っているのは、こういうセルフケアをできること=仕事ができる人、いい男・いい女の条件であるかのような言説が、急速に強くなっていること。(とりわけ女性については、美容や身だしなみを整えることといった美意識までもがセルフケアに取り込まれているところがグロテスクだ。このあたりの話は今回は触れないでおく。)

そうして挙句の果てには「自分で自分の機嫌をとれない(セルフケアできない)人が悪い」という風潮になってしまうことを恐れている。セルフケアを「やって当然」と思われてしまう。セルフケアは自分が自発的にやってこそ有意義なものであるはずで、他者から過剰に押し付けられてやるようなものではない。誰かに言われてやったり、誰かに搾取されるものでもない。

 これについての違和感はずっとあって、自分自身の中でこの違和感が具現化したのは就活期間だった。

どの御社で面接しても「お休みをどうやって過ごしますか」「息抜きやストレス解消法は何ですか」という質問をされる。要するに自分で自分をケアできますか?という問いだ。
もっと露骨に「職場の人間関係で悩みがあって、上司に相談してもなかなか解決できなかったとき、どうやって気持ちを切り替えますか?」と聞かれたこともある。まるで、弊社ではそこまでのケアは期待できないので、自分自身で何とかできる人を採用したい、と言っているかのようだった。(当時は「セルフケア」なんて言葉はそこまで流通していなかったはずだ。いつからそんな言葉で呼ばれるようになったんだ。)

 話は逸れるが、思えば、ストレス社会という言葉は自分の記憶のかぎりでは小中学生の時からあって、そのうちに「ストレス耐性」とか「スルースキル」とかがちらほら聞かれるようになった。

まるでストレスに圧しつぶされる人の方が「ストレス耐性」や「スルースキル」がないから悪いみたいな、個人の能力に責任を押し付けるみたいな感じがして心底嫌悪していた。その延長にセルフケア・セルフラブはあると思う。

 仕事ができる人は、自分で自分の機嫌を取って、気持ちを切り替えられる人!ストレスをため込まないからストレス耐性もある!嫌なことは適度に受け流せるから、気持ちの余裕があって、アンガーマネジメントもできる!

 本当にくそくらえって思ってしまう。

 話を戻して、セルフケア・セルフラブの一件については、竹田ダニエルさんの一連のツイートがとても分かりやすく参考になった。

日本での「セルフケア・セルフラブ」が完全に資本主義的な「消費を通した自己実現」、さらには「自分の機嫌は自分で(金を使って)取る」という構造に回収されてしまっていて本当に良くないと思う https://t.co/VCBQ9BEbKf
— 竹田ダニエル (『世界と私のA to Z』発売中) (@daniel_takedaa) 2023年2月8日

 特にこれはそうだなと思った。

ケアとは基本的にお金がかかるものだ。私たちが自分で自分の機嫌を取ろうとするとき、そもそも社会(例えば職場)がするべき対処をしてくれていたら要らなかったケアがたくさんあったはずで、なのに私たちはセルフケアをさせられている側面がある。ストレスやハラスメントがあってつらいけれど、職場はまともな対応してくれないから、自分で気分転換するしかない。気持ちの問題だから。課金してでもそれをする。それが社会人として望ましいから。そんな雰囲気をあちこちに感じる。なんでも個人のセルフケアに責任を押し付けることで、得をするのは誰なんだろうか。

 ところで、近年持てはやされている「アンガーマネジメント」という胡散臭い言葉にも同じことを思っている。社会で働くうえで感情のコントロールは大事だ。確かにもともとの性格的に怒りやすい、感情的になりやすい人はいる。そういう人は感情をコントロールすべきだ。

 そんな「アンガーマネジメント」も最近、「セルフケア」と同じように自己責任の話に取り込まれているように思える。

というのは、この社会で発生する怒りはすべて個人の性格や気質に起因するものとは到底思えないし、職場の劣悪な環境のなかで理不尽な扱いをされ続け、余裕がなくなった故に感情的になることはよくある。

それなのに何でも個人のコントロールの問題みたいされているような状況がある。アンガーマネジメントとセルフケアは本来別物として考えるべきだが、自己責任の名のもとに都合よく持ちだされている感じだ。怒りの根本原因を作った社会(例えば職場)に、「まあまあ、怒りを抑えて」と言われているような気分だ。

 セルフケアの問題は海外でも認識されるみたいだけど、とりわけ日本についていえば、そもそも広義のケア(育児、メンタルヘルス、介護など)が軽んじられている背景もあるし、自分で自分をケアできるのが有能な社会人云々〜と持てはやしたほうが、多方面に都合がいいんだろうなと、普段社会で生きていて感じている。

自分をケアして当たり前、潰れたらセルフケア不足。反吐が出る。

セルフケアやアンガーマネジメントだけじゃなく、ほかにも似たような言葉はたくさんあって、「愛され力」とか「後輩力」とかもそうだ。私たちがうまくいかなかったときに「〇〇力がないあなたが悪い」と責任のすべてを個人に収斂させるような、やたら耳触りのいい言葉を信用して持てはやしてはいけないと思った。

そして、それらができない、それらの力を持っていない自分を責めてはだめだ。それらを持てはやすときに、いったい誰にとって都合がいいのか、ちゃんと考えなきゃいけない。
 セルフケアの押し付けなんて書くから大層だけれど、実際、緩やかな押し付けは本当に普段からあると感じる。

例えば業務過多で忙しく、疲れた顔をしていると上司から「ちゃんと寝ろよ」「ちゃんと食べろよ」と言われる。これだけならとても気配りのできる上司だし、部下に「最低限自分の生活を律しようね」と諭しているだけだ。

でも、過酷な職場環境のなか、悲鳴を上げて訴えても「ちゃんと寝ろよ」「ちゃんと食べろよ」と言われ続けることが、私の職場では起きている。ちゃんと寝食できるように調整するのが管理職の仕事なのに。

 もちろん、自分たちにまったく責任がないとは言わない。職場や上司がすべて悪いなんて思わない。もっと仕事を早く切り上げる工夫ができるかもしれないし、早く帰ればしっかり食事ができるかもしれない。その人自身が十分に仕事をできていないだけの可能性もある。

全ての場合において、上司や職場が悪者ではない。万事において自分以外の他者を悪者にして自己責任から逃れたいわけでもない。

でも個人では絶対にどうにもならない状況というものが確実にあって、それさえ個人の責任にされてしまうことが往々にしてある。そういうものに異議を唱える必要があるし、まずはそういう状況を少しずつ認識できるようにならないといけない。

 今日は仕事でとても煮え切らない、腹立たしいとも悲しいとも違う、形容しがたい虚無感を覚える出来事があった。言葉で表現することがはばかられるような出来事だ。婉曲的に、平たくいえば、多忙な働き方を強いられることで健康を損なう人がたくさん出たことの帰結のようなことが起こった。

 健康を損なった人たちは、セルフケアが足りなかったんだろうか。スルースキルがなかった?アンガーマネジメントが下手で、愛され力や後輩力がなかったんだろうか。少なくとも職場で起こった件については、日ごろから問題視されていて、みんな改善を要求していて、それでも職場が対応しなかったゆえの結果だと思った。それでもすべて個人のせいにして、そういうことにして、全部個人のせいにすれば、社会(例えば職場)はとっても楽なんだろうけど。

  まじめな話をしてしまったので、最後に今日食べたおいしいお菓子を貼ります。RAU さんのお菓子です。これは自分を慰めるためじゃなくて、単純に食べたくて買いました。おそらく。

 私などよりも大変有意義にこの問題に言及くださっている記事がありましたのでシェアさせていただきます。とても勉強になります。

2月16日追記:
はてなブックマークでのコメントありがとうございました。
以下返信です。(IDコール失礼します!)

>id:inujin さま
ありがとうございました。自発的なセルフケア・セルフラブはブックマークで他の方に言及いただいたようにクイア・アイ的に大切にしたいところ、社会から要請されることにはもやもやしています。(以前にもブクマいただいておりありがとうございました。その際は返信等できておらず申し訳ありません…!)

> id:p_shirokuma さま
ありがとうございます。すでに都合のよい資本財として管理されているような気がするこの頃です…。管理というより消費されているだけかもしれませんが…

>id:hatsan8 さま
ありがとうございます。主体的なセルフケアは大事ですしよくやるのですが、社会から押し付けられたり、例えば職場でつぶれてしまったときなどに「セルフケアが足りない!」等と責任転嫁される風潮は違うよな~と思う次第です…

> id:roirrawedoc さま
ありがとうございます。一緒にするなといいますか、例えば職場で長時間労働やハラスメントが横行して潰れる人がいる場合に、職場として何も対策をしてこなかったのに「セルフケアが足りない」等と個人のケアにすべて責任を押し付ける感じが嫌だな、と思います。もちろん、自発的なセルフケアは生きるために大切だとは思っています。

> id:tvxqqqq さま
ありがとうございます。記事では掘り下げませんでしたが、クィア・アイ的な、自身を高めるためのの主体的なセルフケアはとても大切だと思います。私自身も実践します。ただ、個人のものであったはずのセルフケアが社会に求められ、健康な労働力としてやって当然のものとして扱われ出した最近の感じについては「個人のセルフケアにタダ乗りしやがって」と思っています。

> id:narukami さま
ありがとうございます。実際、セルフケアは主体的に行えばとてもポジティブなものなので厄介だなと思っています。ストレスに弱い人にすべての責任があるように仕向け、ストレスを生み出す側(例えば職場など)が個人のセルフケアに依存する社会は生きづらいですね。

> id:tecepe さま
ありがとうございます。そうなんです、自発的なセルフケアだからこそ有意義なんですよね。

~ (id:hazukikose) 2日前
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日米、中国偵察気球の対応協議 主権侵害と確認

日米、中国偵察気球の対応協議 主権侵害と確認
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA155NO0V10C23A2000000/

『外務省の森健良次官は14日(日本時間15日)、ワシントンで米国のシャーマン国務副長官と会談した。米国務省の発表によると、米国の上空などに飛来した中国の偵察用気球への対応を協議した。こうした行為は主権の侵害で国際法違反にあたると確認した。

日本外務省の発表によると両氏は中国を巡る諸課題への対応で緊密に連携していくと申し合わせた。

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東京23区の大学、デジタル系学部の定員増容認 政府検討

東京23区の大学、デジタル系学部の定員増容認 政府検討
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA13BI70T10C23A2000000/

『政府は東京23区の大学定員規制を2024年度にも緩和する検討に入った。原則禁止している学部新設や既存学部の定員増をデジタル分野に限り認める。IT(情報技術)企業が集まる都心部で産学連携を深め、成長産業の人材育成や国際競争力の向上につなげる。

内閣官房の有識者会議が近く定員規制の緩和案を示す。政府はこれに基づいて関連の政省令を改正し、定員増禁止の対象外となる基準を設ける方向だ。

内閣官房によると2…

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多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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鈴木亘
学習院大学経済学部 教授
分析・考察

デジタル関係学部の定員緩和ではなく、東京都23区内の大学の定員規制自体を撤廃すべきだ。デジタル学部に限らず、競争こそが教育にイノベーションを生み出す。競争を制限して良い結果が生まれることは何一つない。といっても、一度決まった政策を変えることは政治的に難しいから、まずは、地域大学振興法の施行から5年も経過していることを受けて、その効果をしっかりと検証することから始めてはどうか。果たしてそれで、都内大学への流入が減り、地方大学の流入が増…。』

『内閣官房によると21年時点で各大学の23区内にある学部への入学定員は約12万2千人で、全国(約62万3千人)の2割を占める。23区内に本部を置く大学は22年時点で101校あり、全体(807校)の1割強にあたる。

新設を認めるのはデジタル分野の人材を育てる情報系の学部や学科。既存の理工学部や情報学科、情報科などの定員拡充を認める案もある。増員は期間限定の臨時対応と位置づけ、一定期間を経た後に元に戻す。

経営余力のある大規模な私立大などを想定し、政府が全国知事会などと相談して判断する。

定員規制は18年に施行した地域大学振興法で導入した。28年3月末までの10年間の時限措置として23区内の大学の定員増を原則認めないと定めた。進学時に地方から東京への過度な人口流出を抑える狙いがある。

日本はデジタル分野の人材不足が指摘される。政府は30年に最大79万人ほど足りなくなると予測する。需要が旺盛な成長分野へ人材投入しにくい状態が続けば潜在成長率の低下を招きかねない。

データサイエンス系や情報系など「デジタル人材を育成する学部・学科」を有する大学は21年度時点で全国に137ある。入学定員は合計でおよそ2万1600人だ。企業にはこうした学部や学科からの人材輩出に期待がある。

20年度の大学発スタートアップの数は三大都市圏(東京、大阪、愛知)で平均422社だった。その他の地域は平均37社と差がある。

デジタル人材を活用する情報通信企業は東京に集中しており、実務家による講義やインターン受け入れといった機会提供の面でもデジタル教育は東京を拠点とするのが望ましいという見方がある。

政府によると海外で大学の立地だけを基準に定員抑制する規制はほとんど例がない。一極集中を抑える方策としては規制よりも地方大学自体の魅力向上、地方大学と企業の集積地づくりといった取り組みに軸足を置く。

【関連記事】

・デジタル時代、大学教育に変革迫る 公私立大理系拡充へ
・大学、データ人材育成に軸 実践型教育を産学で模索
・データサイエンス系学部、1900人増 17大学で23年新設
ニューズレター

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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鈴木亘
学習院大学経済学部 教授
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分析・考察 デジタル関係学部の定員緩和ではなく、東京都23区内の大学の定員規制自体を撤廃すべきだ。デジタル学部に限らず、競争こそが教育にイノベーションを生み出す。競争を制限して良い結果が生まれることは何一つない。といっても、一度決まった政策を変えることは政治的に難しいから、まずは、地域大学振興法の施行から5年も経過していることを受けて、その効果をしっかりと検証することから始めてはどうか。果たしてそれで、都内大学への流入が減り、地方大学の流入が増えたのか、地方大学に行った学生は地方で就職しているのか、学生達は満足しているのかなど、検証すべき点は多い。また、大学の競争力低下など、副作用もしっかりみるべきだ。
2023年2月15日 20:45いいね
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小黒一正のアバター
小黒一正
法政大学経済学部 教授
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分析・考察 コメント欄の鈴木亘先生のご意見に賛成です。そもそも、2014年から東京一極集中の是正を図りながら、出生率の引き上げなどを数値目標に掲げる地方創生(東京23区の大学定員規制を含む)が推進されてきましたが、2021年の合計特殊出生率は1.30となり、6年連続の低下となっています。また、以下の試算のとおり、東京の人口を地方へ移住させても、出生率はほとんど上昇しないという事実も理解する必要があります。

[Q8]政府は、地方創生や東京の一極集中是正等で出生数を増やそうとしていたが、それでは不十分ということか。https://www.fsight.jp/articles/-/49535
2023年2月15日 21:51 (2023年2月15日 21:53更新)
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ロッシェル・カップのアバター
ロッシェル・カップ
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング 社長
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分析・考察 日本の大学には定員抑制の規制がかかっていると聞いたとき、とても驚きました。それは適者生存効果を阻害することになりますね。まあ、それが意図されているのかもしれませんが。
2023年2月15日 20:49 』

迫られる脱・日銀緩和頼み 政府は成長の約束果たすとき

迫られる脱・日銀緩和頼み 政府は成長の約束果たすとき
岐路の異次元緩和㊥
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1314S0T10C23A2000000/

『【この記事のポイント】
・金融緩和の恩恵に甘え政府の財政規律は緩んだ
・成長戦略、財政健全化の政府約束は果たされず
・緊張感をもち履行を迫るのも新体制日銀の仕事

「補正予算が必要だ」。政府が新型コロナウイルス禍に始めた実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」。ただでさえ異例の策だが、その返済に困る経営者にせがまれた与党議員が補助金を求め声を上げる。

【前回記事】植田日銀、10年緩和の出口担う 市場のゆがみ限界に

2023年度予算案を国会審議するさなか与党議員

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多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
ひとこと解説

近年の成長戦略の世界的潮流は、財政政策を伴うものになっています。
代表的なのが、バイデン政権の元でイエレン米財務長官が進めているMSSE(モダンサプライサイドエコノミクス)です。
具体的には、財政健全性の見方を変えることにより、人的資本の蓄積やインフラ整備、R&D強化、温暖化防止面等での財政需要を拡大することでサプライサイドを強化し、長期の成長力を確保するというものです。
日本も見習うべきでしょう。』

『2023年度予算案を国会審議するさなか与党議員が補正予算に言及するのは本来ご法度だ。財務省も歯止め役を果たせない。

黒田東彦総裁が就任する直前、2013年1月に政府と日銀はそれぞれの役割を記した共同声明(アコード)を結んだ。日銀は2%のインフレ目標に向けて金融緩和に取り組み、政府は成長戦略を実現し財政健全化を進める。そんな相互努力の約束だった。

それから10年。市場機能の低下という副作用を生むほど金融緩和に突き進んだ日銀に対し、政府は約束を果たしたと言いがたい。

それどころか、金融緩和が生み出した恩恵に甘え、財政の規律は緩んだ。日銀が大量の国債を市場で買い、政府が簡単に借金を重ねられる状況は、事実上の財政ファイナンスだ。

黒田総裁の就任前の12年末に691兆円だった普通国債の残高は10年間で4割以上増え1000兆円を超えた。国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率は主要国で突出する。

財政の大盤振る舞いは経済を強くするどころか、逆に衰えを招いた面もある。帝国データバンクによると実質破綻状態で事業を続けるゾンビ企業は21年度に18万8000社。ゼロゼロ融資が拍車をかけた。

ゾンビ企業は全体の12.9%に達する一方、廃業率は先進国平均の半分以下の3%どまり。産業の新陳代謝が進まず、変革は生まれない。デジタル投資はこの10年は微増にとどまり、3〜5割伸びた米欧に劣後する。潜在成長率は0.3〜0.5%に低迷する。

グリーン革命と呼ばれる脱炭素の社会づくりの停滞は象徴的だ。再生可能エネルギーへのシフトに逆行するガソリン補助金は3カ月の予定だったが延長を繰り返し、1年以上も続いている。使われる国費は当初の計画の70倍にあたる6.2兆円に膨らんだ。

米欧はコロナ対応から財政健全化にかじを切り、世界が日本に送る視線は厳しい。「金融支援策の対象は存続可能な企業に限定されるべきである」「エネルギー補助金はもっと対象を絞ることができたはずだ」。国際通貨基金(IMF)は1月に発表した声明で日本への注文を並べた。

英国債の投資家向け広報(IR)で来日した英債務管理庁長官が9日、財務省を訪れた。金融引き締めに動く中央銀行の国債売却と英政府の国債発行が重なって市場が混乱しないよう「中銀とよく連携している」と説明した。

市場の英国売りで政権が倒れた22年の出来事は関係者の記憶に生々しく残る。英国のような激しいショックに見舞われる前に、日本の財政を立て直し経済を成長に導けるかどうか。

共同声明でうたった約束を政府に迫る緊張感はこの10年、日銀にも足りなかった。独立性と適切な距離感を保ち政府と向き合うところから、植田和男氏の総裁としての仕事は始まる。

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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ひとこと解説近年の成長戦略の世界的潮流は、財政政策を伴うものになっています。
代表的なのが、バイデン政権の元でイエレン米財務長官が進めているMSSE(モダンサプライサイドエコノミクス)です。
具体的には、財政健全性の見方を変えることにより、人的資本の蓄積やインフラ整備、R&D強化、温暖化防止面等での財政需要を拡大することでサプライサイドを強化し、長期の成長力を確保するというものです。
日本も見習うべきでしょう。
2023年2月16日 8:33 (2023年2月16日 8:35更新)
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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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今後の展望さまざまな捉え方は可能でも、日銀は2013年1月アコード以降、一貫して緩和をし、深掘りし、日本の景況感を下支えしてきたのは確か。この間に経済成長出来なかったのは、むしろ政府の経済対策に問題があったと言われても仕方がない。更に問題は財政再建が出来なかったどころか、悪化の一途を辿ったことだ。その意味で、日銀幹部が新しくなったところで、アコードの見直しをするのなら、政府のコミットメントは欠かせないものとなる。ただし、アコードはなくていいもの、である。それを設定するとすれば、何のために設定し、何があればアコードの終了となるか、も考慮しておくべきではないだろうか。
2023年2月16日 9:43いいね
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説日本経済にとってもっとましな政策がなかったのか。これまでの30年間、景気が後退すると、いつも輸血しかされない。人、物、金のなかでいつも金に頼っている。しかし、そのツケがこれから回ってくる。物価は上昇している。デフレからインフレになっている。低所得層の生活が脅かされる。でも、財政は巨額の赤字。しかも、国家の債務はGDPを大きく上回っている。それでも、国家予算は毎年最多更新。そろそろ政策を転換しないといけないのでは。
2023年2月16日 7:03いいね
146 』

気球撃墜の要件緩和、空路安全確保で可能に 政府検討

気球撃墜の要件緩和、空路安全確保で可能に 政府検討
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA14DRN0U3A210C2000000/

『防衛省は15日、日本に他国の気球が飛んできた場合の武器使用基準を緩和する方針を示した。現在は戦闘機など有人機の飛来を念頭に正当防衛と緊急避難のみに限定している。人が乗っていない気球や無人機に撃墜などの対応をとりやすくする。

自民党の国防部会などの合同会議で説明した。過去に日本の領空内で確認された少なくとも3つの飛行物体が中国の無人偵察用気球と推定されるとの分析も提示した。

日本に中国の気球が飛来…

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『日本に中国の気球が飛来したり米軍が中国の偵察気球を撃墜したりした状況を踏まえて対策を強化する。

気球は国際法で航空機と位置づけられ、許可なく日本領空に侵入すれば国際法違反になる。自衛隊は戦闘機の緊急発進(スクランブル)による警戒監視などの対領空侵犯措置をとる。

自衛隊法84条は領空侵犯機を着陸や退去させるために「必要な措置」を講じられると定める。その際の武器使用の権限は明記しておらず、政府は正当防衛と緊急避難に限ると解釈してきた。

政府はこれまでの国会答弁などで具体例として領空侵犯機が実力で抵抗したり、弾倉を開いて爆弾を落とそうとしたりするケースを例示した。実態は警戒監視にとどまっている。

現行の政府解釈では偵察用気球の領空内飛行を止める手段は乏しい。気球が日本国内で電波情報の収集などにあたれば安全保障上の懸念になる。政府内では「航空機の飛行経路の安全確保に影響を及ぼす」場合には武器使用を可能とする案が浮上する。

浜田靖一防衛相は「国民の生命と財産を守るために必要と認める場合には所要の措置をとる」と話す。

自民党は16日に改めて合同会議を開き、政府と具体的な要件について協議する。松野博一官房長官は15日の記者会見で気球対策について「同盟国・同志国と緊密に連携しつつ、これまで以上に情報収集・警戒監視に努める」と強調した。

政府・自民党内には気球による領空侵犯対応の実効性を疑問視する声がある。飛行機などに比べて速度が遅い気球はレーダーなどで把握しにくいためだ。

米軍は今回撃ち落とした気球より以前の4回の飛来はいずれも即時に探知できていなかった。米軍が2月に入ってから気球などを次々と撃墜しているのは高い高度をより入念に調べるなどレーダーの監視体制を強化したからだとされる。

領空侵犯した気球を発見できたとしても、いきなりミサイルで撃つわけではない。まずは退去を求める警告などの手順を踏む必要がある。無人の気球では意思疎通できない可能性が高いうえ、飛行の意図や軍事用か民生用かといった識別も難しい。

15日の自民党会合では領空侵犯した気球について「すぐに撃墜すべきだ」との意見が出た。その一方で他国の飛行体に武器を使えば事態のエスカレーションを招く恐れがあり、厳格に運用すべきだとの指摘もある。

撃墜するための技術も課題となる。米軍は4日にF22戦闘機から空対空ミサイルを発射しておよそ6万フィート(1万8000メートル程度)の高度の気球を落とした。機内装備なども含めて高高度での戦闘に適しているのがF22戦闘機だが、日本は保有していない。

自衛隊が持つF15戦闘機なども高高度で対応すること自体は可能であるものの、気球や無人機などを標的にした訓練もしていない。武器使用基準を緩和しても実際の対応をすぐに変えられるわけではない。

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