植田日銀、10年緩和の出口担う 市場のゆがみ限界に

植田日銀、10年緩和の出口担う 市場のゆがみ限界に
岐路の異次元緩和㊤
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB110YO0R10C23A2000000/

※ ここら辺の「異次元緩和(アベノミクス、第一の矢)」の功罪については、「金融と社会」第15回(最終回)が詳しい…。

『【この記事のポイント】
・政府、日銀総裁に植田和男氏を起用する案を国会に提示
・債券市場は「売り」で反応 異次元緩和の修正を予想 
・どう動く植田氏 昨年は「出口に向けた戦略必要」と指摘

政府は14日、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を次期日銀総裁に起用する人事案を国会に提示した。10年続いた異次元緩和は発行済み国債の半分を日銀が買い占めるという異常事態を招き、市場のゆがみも限界に近づいてきた。市場…

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『10年続いた異次元緩和は発行済み国債の半分を日銀が買い占めるという異常事態を招き、市場のゆがみも限界に近づいてきた。市場や経済へのショックを避けつつ、どう政策を修正していくのか。金融政策の正常化に向けた「軟着陸」が新体制に託される。

【関連記事】日銀総裁に植田氏、政府提示 副総裁に氷見野・内田氏
歴代最長の10年間、日銀総裁を務めた黒田東彦氏の後継に、政府は初めて学者出身である植田氏を選んだ。異次元緩和の10年で日銀の国債保有額は4倍超となった。上場投資信託(ETF)購入で、日銀が多くの企業の主要株主になるというひずみも生まれた。

植田氏に期待されるのが、膨れあがった副作用を取り除くための異次元緩和の修正だ。だが、投機筋はそのタイミングを見計らって国債を売り浴びせようと構えている。植田氏は就任初日から市場との戦いに身を投じることになる。

「植田氏は経済情勢を見極め、就任後は長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の撤廃に踏み切るだろう」。日本国債の空売りを進めてきた英ヘッジファンド、ブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング氏は取材にこう話した。日銀の緩和修正を見越し、国債売りを継続する姿勢を崩していない。

植田氏の起用が伝わると、債券市場は売りで反応した。長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは14日、連日で日銀が上限とする0.5%を付けた。英投資会社、Abrdnのジェームズ・エイシー氏は「信じられないほど金融緩和に積極的な黒田総裁ですら(昨年12月に)政策を修正した」と指摘し、植田日銀はさらなる政策修正に踏み込むと読む。

修正観測が高まっているのは、市場のゆがみが広がり、日銀も放置はできないと踏んでいるためだ。昨年12月の日銀の政策修正の直前には、これまで金利低下の恩恵を受けてきた財務省でさえ「市場機能の阻害が大きくなっている」との懸念を日銀に伝えた。

長短金利操作による10年物国債の利回り抑制が20年物や30年物国債の入札不調を招いていた。20年物など超長期債を買うときは10年物国債や先物を売って損失リスクを避けることが多い。流通する国債が少なくなり、10年債や先物の値動きが不安定になった結果、リスクヘッジできなくなった証券会社や投資家が超長期債を買い控えるようになった。

ゆがみは債券市場にとどまらない。昨年10月には日米の金利差の拡大を反映して円安・ドル高が止まらなくなり、円相場は1ドル=151円台と32年ぶりの安値を付けた。

市場の経済・物価見通しを映すはずの長期金利を無理やり固定しようとすると、マネーの圧力は外国為替市場に集中する。景気を支えるはずの金融緩和が、円安加速と物価上昇の連動を通じて経済を不安定にした。

植田氏はどう動くのか。昨年7月の日本経済新聞「経済教室」では「日銀は出口に向けた戦略を立てておく必要がある」と指摘。「多くの人の予想を超えて長期化した異例の金融緩和枠組みの今後については、どこかで真剣な検討が必要だろう」と記した。短期金利はゼロ近辺に据え置きながら、長期金利の柔軟性を高める方向で政策修正を探るというのが市場参加者の相場観だ。

もっとも軟着陸は簡単ではない。日本経済研究センターは昨年12月、日銀が長短金利操作を廃止した場合、長期金利は最大で1.1%まで上昇するとの試算を公表した。企業の利払い負担が増し、経常利益を最大で年3%程度、設備投資を9%程度押し下げる可能性がある。

金利上昇は財政の持続性への懸念も高めかねない。いまや日銀の国債購入は「日本国債の格付けを支える要因のひとつ」(大手格付け会社フィッチ・レーティングスの担当者)だ。財政健全化の道筋がみえないままに日銀の緩和が出口に向かえば、格下げと金利上昇の負の連鎖に入り込むリスクも否定はできない。

問われるのは、植田氏の対話力だろう。当面は緩和的な金融環境を維持していくと約束しながら、持続性の乏しい政策は修正し、サプライズに翻弄されてきた市場参加者に安心感を与えられるかどうか。金融政策だけでこの国の経済構造を変えられない以上、時には政府に必要な改革を求めていく大胆さも求められるはずだ。

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 まだ総裁に就任していないから、ほとんど記事はこれまでの植田氏の発言を踏まえ、推察したものである。実際に総裁に就任して、今の経済状況を鑑みて、単なる黒田政策を継承するだけでいいとは思えない。どれほど利上げするのではなく、金融政策の柔軟性を確保することで政策の正常化からスタートしなければならない。そして、中央銀行の独立性も確保する必要がある。あとは黒田時代の負の遺産をどのように処理するかである。負の遺産とはこれまで買い込んだ証券である
2023年2月15日 7:56 』