NATO、国防費目標2%から引き上げ論 ロシアの脅威対処
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『【ブリュッセル=中村亮】北大西洋条約機構(NATO)は2025年以降の国防費目標の策定に向けた議論に入る。現状の対国内総生産(GDP)比2%から2.5%程度に上げる意見があるが、2%に達していない加盟国は多い。新しい目標でロシアの脅威拡大に対処するNATOの本気度が試される。
NATOは14〜15日にブリュッセルで開く国防相理事会で国防費をめぐる議論を本格化させる。7月の首脳会議で合意を目指す。ロシアが14年にウクライナ領クリミア半島を併合すると、NATOは各国が24年までに国防費をGDP比2%に引き上げる目標を掲げて防衛力強化を申し合わせた。
NATO当局者によると、水面下での協議では東欧やバルト3国の一部から新目標を2.5%程度に引き上げる案が出ている。バルト3国の政府高官は「我々が防衛や抑止に真剣であれば防衛にもっと資金を使う必要がある」と断言した。ロシアのウクライナ侵攻で欧州の安全保障が揺らぐとの危機感は根強い。
NATOのストルテンベルグ事務総長はこれまでに2%の国防費目標に関し「上限というよりも、一種の下限として維持されるだろう」と語り、目標の引き上げに前向きな考えを示してきた。
米国のジュリアン・スミス駐NATO大使は13日、記者団に「これまでより恒久的な目標にするなどさまざまな選択肢がある」と語った。これまでの約10年間から目標期間を延ばして国防費を安定的に高水準で維持する案があるとみられる。
NATO当局者は「米国は目標の引き上げを強く望んでいる」と指摘する。バイデン米政権は中国との競争を最優先し、台湾海峡や南シナ海の安定を重視する。インド太平洋地域に戦力や人員を増やす方針で、欧州が自衛能力を増すほど欧州からアジアへシフトを進めやすくなる。
1月から米議会下院の多数派を握る野党・共和党は、欧州諸国がウクライナ支援で負担を増やすべきだと訴えている。米軍はウクライナ侵攻後に欧州駐留部隊を大幅に増やしてロシアの脅威に対応しており、米国では欧州にも自衛力強化を求める声は多い。
国防費目標を引き上げればバイデン政権は欧州に負担増を求めていると国内にアピールできる。「米国第一」を掲げた共和党のトランプ前大統領は欧州が公平な負担をしていないと痛烈に批判し、米欧の亀裂が鮮明になっていた。
一方でNATOが22年6月にまとめた各国の国防費の見通しによると、2%目標を22年に達成するのは加盟国の3割にあたる9カ国だった。ロシアのウクライナ侵攻を受け、各国で国防費を引き上げる機運は高まっているが、2%の水準に届かない国は多い。バルト3国の高官は「新目標の水準や達成のスピードをめぐって溝がある」と認める。
国防費に関連し、防衛産業の強化も大きな課題になる。ストルテンベルグ氏は13日の記者会見で「ウクライナの弾薬の使用量は我々の生産速度の数倍にのぼっている」と危機感を表明した。NATOによる弾薬の在庫の緊急調査が完了し、国防相理事会を通じて在庫の目標を引き上げると話した。
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