アメリカ本土領空に進入して撃墜された中国の気球 専門家は米中関係崩壊の危機と分析

アメリカ本土領空に進入して撃墜された中国の気球 専門家は米中関係崩壊の危機と分析https://www.dailyshincho.jp/article/2023/02120701/?all=1

『2月5日に予定されていたブリンケン米国務長官の訪中が中止になった。もちろん中国の大型気球がアメリカ領空を飛行し、重要な米軍基地の上空を通過したためだ。それにしても、このタイミングでなぜ中国は気球を飛ばしたのか。

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 1月28日、中国の気球はアラスカ州西端にあるアリューシャン列島から米国領空に進入した。30日にはカナダの領空を通過して、31日に米アイダホ州に入り、2月1日、モンタナ州へ。ここには大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ミニットマン3」を配備しているマルムストローム空軍基地がある。

 2日は、「ミニットマン3」を配備しているF.E.ワーレン空軍基地のあるワイオミング州へ。そして、ステルス爆撃機を運用する空軍・陸軍基地のあるミズーリ州上空を通過したため、オースティン国防長官は、アメリカ本土の戦略的拠点を監視する目的で中国が飛ばしたと断定。気球は4日、サウスカロライナ州沖で世界最高の戦闘機「Fー22」のミサイルによって撃墜された。

中国の大失態

 一方、中国外務省は、気球は民間の気象を観測する飛行艇で、西風によって航路を大きく外れて不可抗力でアメリカに迷い込んだことを遺憾に思うと説明した。ところが、米軍機に撃墜されると、中国外交部は5日、「民間の無人飛行船を攻撃したことに強い不満と抗議を示す」と表明を出した。

「気球をアメリカ本土上空に飛ばしたのは、中国の明らかなミスでしょう」

 と解説するのは、中国事情に詳しい評論家の石平氏。

「中国は、ブリンケン長官の訪中を歓迎していました。習近平も自ら会談したいと言っていたのです」

 中国は、昨年10月の中国共産党大会以後、米中関係の安定化を図っていたという。

「昨年12月に外務大臣に任命されたのは駐米大使の秦剛氏。これもアメリカとの関係を最優先に考えた人事とみるべきです。それがあろうことか、ブリンケン長官の訪中直前に気球が発見されてしまったので、これはまずいと思ったようです」

 米軍に気球が撃墜されると、中国外務省は北京のアメリカ大使館に、過剰な反応をしたと抗議した。

「私に言わせれば、この抗議はポーズでしょう。本当に怒っていたら、アメリカ大使を外務省に呼びつけるはずです。いつもの中国にしては、ずいぶん弱腰の対応でした」』

『中国を敵と見なす

 そうはいっても、アメリカの国民を激怒させたことは紛れもない事実だ。

「アメリカ人からすれば、2001年の同時多発テロを思い起こしたはず。中国は怖い国と認識したと思います。いきなりアメリカの領空に気球を飛ばして、タダで済むと思う方がおかしい。中国はアメリカの虎の尾を踏んでしまったわけで、米中関係に心理的にも、政治的にも大きな影響を与えるでしょう」

 それにしても、なぜこのタイミングで気球を飛ばしたのか。気球には太陽電池やプロペラも装着されていて、舵をとることも可能だった。

「飛ばしたのは人民解放軍です。中国はこれまで4回、アメリカ本土に偵察気球を飛ばしていたと言われていますが、ブリンケン長官の訪中の時期を考えていなかったのでしょう。そうでなければ、こんな馬鹿なことはしないと思いますね」

 昨年の党大会で3期目を迎えた習近平国家主席にとっては、深刻な事態に陥るという。

「最悪のタイミングでアメリカ領空に入ってしまった。習近平にとっては誤算というほかないでしょう。米中関係の改善どころか、悪化する可能性大です」

 1972年、中国はピンポン外交(1971年、中国が欧米の卓球選手を中国に招待したことで米中関係が緩和された)によってニクソン大統領が訪中し、その後79年に両国の国交正常化が実現した。

「中国は小さなボールで米中関係を改善しました。ところが習近平は気球という大きなボールで、米中関係を崩してしまったのです。これは簡単には修復できないでしょう」

デイリー新潮編集部 』