アダニ・ショックがインドに与える影響 モディ首相と大富豪の怪しい関係が白日の下に晒されるか
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『人口世界一となったとされるインドを「世界経済を牽引する存在」として位置づける風潮が日に日に高まっている。
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インドの国内総生産(GDP)は昨年、旧宗主国の英国を上回って世界第5位に浮上し、2025年にドイツ、2027年に日本を追い越すことが見込まれている。
インドは有望な投資先として世界の注目を一身に集めている感が強い。
インドとこれまで縁遠かった日本でも同様だ。日本企業にとってもインドは最も有望な海外の事業展開先となっている(国際協力銀行調べ)。
だが、そのインドが1月下旬から大逆風に見舞われている。
インドの大手財閥アダニ・グループが米投資会社による不正会計疑惑の指摘を受けて窮地に立たされている。いわゆる「アダニ・ショック」だ。
アダニは1988年に創業以来、港湾・空港運営やエネルギー分野などのインフラ関連事業を中心に積極的な買収攻勢を仕掛けてグループ全体を急成長させてきた。2021年度の主要7社の売上高は約2兆ルピー(約3兆1000億円)に上ったと言われている。
今やインド経済を担う存在となったアダニだが、米ヒンデンブルグ・リサーチが1月24日に「同グループは数十年にわたって大胆な株価操作と不正会計を実施してきた」とする報告書を発表すると事態は急変した。
ヒンデンブルグは、事前に企業に空売りを仕掛けた上で疑惑を提起して株価下落につなげる手法で知られている。2020年に「米国の新興電気自動車企業のニコラが技術力に関する虚偽の説明で投資家を欺いた」と指摘し、創業者を退任させたという実績を持つ。
アダニ側はヒンデンブルグに対し「単に特定の企業ではなくインドの成長物語に対する計画された攻撃」と猛反発、413ページに及ぶ反論書を開示したが、空振りに終わり、信用の低下に歯止めがかからない状態が続いている。』
『大荒れのインド市場
アダニ・グループの株式時価総額はあっという間に半減した。消失額は8兆ルピー(12兆4000億円)を超え、インド史上最大級の規模に達している。予定していた2000億ルピー(3100億円)規模の公募増資を撤回せざるを得なくなっている。
アダニの昨年度の負債額は2兆ルピー(3兆1000億円)に上っているが、疑惑発覚後、海外の金融機関はアダニとの取り引きに極めて慎重になっている。アダニ疑惑により国営銀行の株価が急落しており、「インドの金融システム全体に深刻な影響が出るのでないか」と懸念が広がっている。
インドの株式市場は大荒れになっており、皮肉にもアダニが主張したとおり、インド経済そのものに対する信頼問題へと発展している。
インド経済を大混乱に陥れた張本人は一代で世界屈指の富豪に昇りつめたゴーダム・アダニ氏だ。アダニ氏の個人資産は昨年一時世界第2位(1470億ドル)となったが、1月24日以後に急落し、13位と大きく後退している。
アダニ氏にとってさらに悩ましいのは政治との関係が取りざたされていることだ。
「アダニが急成長した背景にはモディ首相との密接な関係があった」との指摘がかねてなされていた。両氏は同じ西部グジャラート州の出身で、アダニは同州を基盤に事業を拡大してきたからだ。
2月1日のインド議会では野党議員が政府の成長計画へのアダニの関与を激しく追及したことから、審議が中断を余儀なくされた。インド政治を大きく動揺させるスキャンダルに発展するリスクが生じており、モディ政権にとって大きな足かせとなりつつあるが、「その悪影響を最も受けるのは雇用対策だ」と筆者は考えている。』
『アジアで最も低い労働参加率
インドは成長著しいものの、雇用創出の速度が人口増加の速度に追いつけず、深刻な雇用問題に悩んでいる。
インドの2021年の労働参加率(生産年齢人口(15歳から64歳までの人口)に占める労働力人口の割合)は46%とアジアで最も低い水準だ(日本は84%)。
雇用問題 の打撃を被っているのは総人口の半分を占める30歳未満の若年層だ。2021年の15歳から24歳までの失業率は28%とのデータがある。
マッキンゼーグローバル研究所によれば、インドが現在の雇用問題を解決するためには年間8%超の経済成長率が不可欠だが、アダニ・ショックで今年の成長率は6%台を維持できるかどうかあやしくなっている。
インド政府は2023年度の予算案で雇用創出効果が高いインフラ整備費を大幅に増加している(前年比33%増の10兆ルピー(約15兆5000億円))が、二人三脚でインフラ整備を進めてきたアダニとの関係が不調になれば、この野心的な雇用創出計画は「絵に描いた餅」になりかねない。
「若年層が雇用への不満を募らせれば募らせるほど政情が不安定化する」ことは過去の歴史が教えるところだ。インドの都市部では若年層の失業増加で治安が極端に悪化しつつある。
モディ首相の支持率は今のところ高いが、雇用環境の悪化が深刻になれば、インドの政情が不安定化する可能性は排除できない。
日本にとっても大きな存在になりつつあるインドだが、アダニ・ショックはブームに安易に流されることなく、等身大のインドに向き合うことの重要性を教えてくれているのではないだろうか。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。
デイリー新潮編集部 』