日銀新総裁に植田氏起用へ 海外から評価と驚きの声
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN110530R10C23A2000000/
『政府は日銀の新たな総裁に元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事を固めた。海外の有識者や市場関係者からは新体制への期待とともに、黒田東彦総裁が推し進めた大規模緩和策の修正がどのように進むかに強い関心が集まった。
植田氏は適任、23年中に政策変更も
アレン・サイナイ氏(ディシジョン・エコノミクス社長)
植田和男氏は学術の実績と実務経験を両方持つ、非常に適した人物だと思う。特に(1999年のゼロ金…
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『特に(1999年のゼロ金利政策や2001年の量的緩和政策の導入などの)金融緩和政策に携わった経験が生きるだろう。
日本のデフレは終わった。黒田東彦総裁率いる日銀は勝利宣言すべきだ。インフレは目標の2%を大きく上回り、日本経済は回復している。新総裁の仕事はインフレを制御し、超緩和的な金融政策を終わらせることだ。日本のように機関決定がゆっくり進む国では、一夜にしてできることではない。植田氏がまず黒田路線を引き継ぐと発言するのはうなずける。
植田氏の就任後1?2回の会合で変更が出てくるとは思わないが、23年中には金融政策の変更があるだろう。日本の金融政策の新たな章の始まりだ。物価目標を2%に据える限り、植田氏に利上げ以外の選択肢はないと思う。米国が利上げを終えるころに日本が利上げに動き、為替は円高に振れるだろう。円は1ドル=120円台になるとみている。
市場の政策変更圧力続く
ロバート・ティップ氏
ロバート・ティップ氏(PGIMフィクスト・インカムのチーフ投資ストラテジスト)
日銀の正副総裁候補は経歴と組み合わせを見る限り、非常にバランスの取れたチームといえる。総裁候補の植田和男氏は(日銀審議委員を務めていた)1990年代後半から2000年代前半における低インフレ・デフレがその後も続いたことを知っており、かつて早すぎる利上げに反対したこともある。時期尚早な(緩和的な)政策からの出口には敏感だろう。
副総裁候補の内田真一理事は政策設計に長く携わってきたため、今後の円滑な政策変更を探るうえで理想的だ。もう一人の副総裁候補の氷見野良三前金融庁長官は、銀行規制の幅広い経験を持つという点で他のメンバーと補完的で、政策変更時の金融機関への影響にも目配りできる。
日銀の政策の先行きに決定的な影響を及ぼすのは、国内要因よりも世界の経済情勢やインフレの行方だろう。日本はインフレが定着したとしても、物価上昇率は0?2%の間でとどまるとみている。一方、世界の金利が高止まりすれば、昨年の急速な円安進行時に見られたような内外の大きな金利差を放置できないかもしれない。長期金利の変動幅は一段と拡大される運命にあり、年内に金利誘導を終了する可能性もある。
日銀の首脳陣交代というタイミングと足元の物価上昇率が2%の目標を大幅に上回っていることを考えれば、市場は日銀に政策変更の圧力をかけ続けるだろう。金利の変動幅の上限を守るため、日銀は(国債の大量購入という)市場介入を迫られる。新体制は金利の上昇抑制を終えられる状況か半年から1年間は様子をみたいと思うかもしれないが、望むよりも早く行動を起こすかもしれない。
超緩和策脱し、日銀に新風も
マイケル・アシュレイ・シュルマン氏
マイケル・アシュレイ・シュルマン氏(ランニング・ポイント・キャピタル・アドバイザーズの最高投資責任者)
世界が金利上昇に向かう中で日本の金融政策は身動きが取れないワナにはまった状態で、日本の金融市場にとっては将来危機的な状況になる可能性があった。学界出身の植田和男氏が新総裁になることで極端に緩和的な政策から脱し、日銀に新風をもたらせるかもしれない。
日銀は昨年12月に長期金利の誘導幅の上限を引き上げた。これはある意味で、長期的な市場の安定を維持するために新総裁が新しい政策に移行することの黙認ともいえるだろう。
植田氏が新総裁に起用されるとの報道を受けて円相場が上昇した。市場関係者の承認と、金融政策が引き締め方向にシフトして金利が上昇するとの思惑を反映している。
インフレ低下で超緩和政策続く
マーク・チャンドラー氏
マーク・チャンドラー氏(バノックバーン・グローバル・フォレックス チーフ市場ストラテジスト)
2022年12月の日銀の政策修正に続き、またしても日本からのサプライズだ。植田和男氏の姿勢が未知数ということもあり、外国為替市場では円高に振れ、日本国債市場では金利が上昇した。植田氏の起用以上に驚いたのは、雨宮正佳副総裁の辞退だ。政策の見通しが大きく変わるのか、不透明になった。
金融政策は最終的にはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)で動く。日本では今後数カ月で物価上昇率が低下するだろう。植田氏は22年、早期の利上げをけん制する持論を展開している。日銀の新たなチームは、超緩和的な政策がまだ適切だと判断し、政策に継続性が出てくるだろう。
翌日物金利スワップ(OIS)市場では、(黒田氏の任期満了後となる)4月に短期金利がプラスになると予想されているが、これは行き過ぎだ。長短金利操作は継続されると思う。日本のマイナス金利政策は24年まで続く可能性がある。
不本意な引き締めが任務に
ジェースン・ベラミー氏(米コンサルタント会社ベラミー創業者)
経済学者である植田和男氏の総裁起用は市場関係者にとって驚きのニュースとなった。市場のコンセンサスでは雨宮正佳副総裁か中曽宏前副総裁が有力視されていただけに不意を突かれた格好だ。
ジェースン・ベラミー氏
新総裁が黒田東彦総裁の緩和的な政策から方向転換するのかどうかはわからない。外国為替市場では報道の直後に円が上昇した後は再び下落しただけに、今のところそうは見ていないようだ。ただ、日本の物価上昇率が4%を超えた現在、日銀が金融引き締めに動くのは時間の問題だ。植田氏は金融引き締めという自身にとっては不本意な任務を背負うことになるだろう。
(ニューヨーク=斉藤雄太、大島有美子、伴百江)』