南シナ海で中国と対峙するインドネシア 日米も援護射撃

南シナ海で中国と対峙するインドネシア 日米も援護射撃
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29312

『ウォールストリート・ジャーナル紙の1月11日付け解説記事‘Indonesia Risks Confrontation With China Over Gas Project in South China Sea’は、最近インドネシアが、南シナ海の同国の排他的経済水域(EEZ)で、中国が南シナ海の境界線として一方的に主張する「九段線」内と重なる海域での外国企業による海上ガス田開発を承認したことを、中国の拡張主義への対抗の一環として解説している。概要は次の通り。

 南シナ海でインドネシアは中国の拡張主義を押し返している。1月初め、インドネシアはナトゥナ諸島近海での大規模ガス田開発計画承認を発表した。ガス田はインドネシアのEEZ内にあり、国際法上は同国に開発権限がある。しかし中国は南シナ海のほとんどに権利を主張しており、中国から約1000海里離れたこの海域もその一部だ。

 中国はこの種の海上プロジェクトに対し中国海警局や武装漁民の派遣で応じ、リスクを高めている。中国はナトゥナ諸島の領有権は主張していないが、周辺海域で漁業を含む海洋権益を主張。2016年にはナトゥナ海域の中国漁船をインドネシア当局が拿捕するのを中国海警局が阻止した。

 これを受けインドネシアは同地の軍事的経済的プレゼンス強化に努めた。2018年にはインドネシアは大ナトゥナ島に軍司令部を新設し、海・空双方で警戒を強化。ナトゥナ諸島の水産物のジャワ島への海上輸送、漁船修理などの訓練も開始した。

 2019年には200トン規模の冷蔵施設や漁網修繕所がある漁業センターを作り、手付かずの自然が残る島へのヨットツアーを進めている。

 ガス田開発はこのような戦略の一環で、中国を苛立たせてきた。2021年にはインドネシアから免許を得た会社が「ツナ・ガス田」の探鉱用試掘のため派遣した掘削装置は、中国の中国海警局船舶に追尾され、これに対しインドネシアは海軍と法執行機関の船舶を派遣し、中国船舶を追跡した。

 それにもかかわらず、英国企業は探鉱用ガス井2本を試掘し開発段階移行を決定。これをインドネシア政府は承認した。専門家によれば、インドネシアの決定は、中国の脅しに対抗する決意を示すものだ。中国は再度嫌がらせをするかもしれないが、インドネシアは物理的対応未満の行為に屈することはないだろう

 インドネシア政府は2021年の事件にはコメントしておらず、南シナ海での中国の行動についてほとんど語らない。これは最大の貿易相手との関係維持努力の一環だ。同国が中国の侵入を強調しない結果、中国対抗のための近隣諸国との効果的協働が妨げられていると言う専門家もいる。

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 南シナ海を巡るインドネシアと中国の関係についての興味深い記事だ。ここにも、ここ数年の中国による「やり過ぎ」の影響が見て取れる。

 上記の記事も指摘するように、ナトゥナ諸島自体は中国が一方的に主張する九段線の外(南側)にあり、さすがの中国もその領有権は主張していないが、同諸島の周りの200海里のEEZの北側部分は九段線と重なり、好漁場でもあるその海域に中国が権益を主張している。

 元々は中国も、地域の大国であり領土問題の係争相手ではないインドネシアとあえて事を構えるには慎重で、以前は、主にインドネシア側の反応をチェックすることを目的として、数年に一度、その度に少しずつ対応をステップアップしながら周辺海域に出没していた。』

『しかし、ここ数年は毎年のように大漁船団が押し寄せ、それを中国海警局が支援するようになっている。それを受け、インドネシア側の現地での軍事・経済各側面での体制強化も格段に進んだし、元々親密ではない両国関係をさらに緊張させる要因の一つとなっている。正に、日本や米国にとっては敵失である。
進む日米インドネシア3カ国の協力

 実は、日本は、インドネシア政府から頼まれ、ナトゥナ諸島を含むインドネシアの戦略的に重要な国境周辺の離島開発に協力している。インドネシア側によれば、これは日本にしか頼めない(中国には頼めない)重要案件ということで、日本側も戦略的意義を認め、着々と協力を進めている。

 具体的には、まずは現地経済の底上げだ。この記事が触れるような漁業センター建設支援を行い、その成果を見た上でその後についても考えるということだ。

 これに加え、ナトゥナ諸島では日本は観光産業育成のための現地調査も実施し、巨石が海岸周辺にある珍しい景観や周辺に多くあるダイビングスポット活用とそのための方策についてインドネシア政府に提言を提出している。この記事が指摘する各種プロジェクトの背景には日本の努力と協力があるのだ。

 もう一つ、この記事が触れていない点について言えば、実は、米国もナトゥナ諸島の戦略的重要性を認め、そこに空港を作るプロジェクトへの関心を表明している。それを踏まえて、ナトゥナ諸島開発を巡っては、日米で戦略的方向性などを含めた意見交換・情報交換を実施しており、実際上、日米インドネシアの三カ国の間の共同プロジェクトのような様相を呈している。

 その関係でいえば、最初に述べた中国の「やり過ぎ」の結果、インドネシアのナトゥナ諸島に対する立場は、上記の記事が言うほど対中考慮にのみ偏ったものではなく、非常に明確かつ強硬になってきている。』