中印動かす将軍の死 ウクライナ侵略、ロシア軍の実力
政治部長 吉野直也
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA079310X00C23A2000000/
『ロシアがウクライナに侵略を始めてから24日で1年がたつ。ロシアの無差別攻撃は続き、多数の死者が出る。停戦の「出口」はいまだみえない。
世界各国のインテリジェンス部門が注目する数字がある。ロシア軍の「general(将軍)」の死者数だ。
英語のgeneralは大きな軍隊の指揮官に与えられる称号で、陸軍大将を指す軍の階級の意味もある。数百人から数千人規模の部隊の責任者であり、この将軍の死は軍の脆弱さ…
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『ロシアの将軍の死者数について英メディアは昨年6月の時点で10人を超すと報じた。
ロシア軍は将軍の死者数が20人以上との見方もある(写真はプーチン大統領と軍関係者ら)=ロシア大統領府提供・タス共同
日本政府は米欧との協議で得た情報などから将軍の死者数は20人以上いるのではないかと推測している。
岩田清文元陸上幕僚長は「将軍の死者数が20人以上だとしたらそれは信じられないぐらいに多い」と話す。米軍は過去に将軍の死がほとんどないからだ。
ロシア軍の将軍の死に関しては携帯電話が発する電波で居場所を特定され、標的になったという通説がある。
ロシア軍はサイバー戦で劣勢を強いられ、連絡手段として携帯電話を使わざるを得なくなった。それがあだとなり、今では使用を禁止したという。
将軍の死者数の異例さについて岩田氏は①ウクライナ軍がサイバー戦で圧倒し、将軍の位置情報を把握している②将軍が前線にまで出るというロシア軍の戦術に原因がある――と指摘し「将軍の死は部隊の士気を低下させる」と語る。
日本のインテリジェンス部門の高官は「東部2州はウクライナ側に情報をもたらす内通者がいるのではないか」とみる。
米国は2001年の米同時テロの首謀者で国際テロ組織アルカイダのビンラディン容疑者を11年にパキスタンで発見・殺害した。ワシントンに駐在して取材していたころ10年間を要した背景を何度か聞いた。
その主たる理由は米国に協力する内通者が乏しかったことだった。内通者づくりがうまくいくかどうかは国家の体制や宗教、人種など様々な要素が絡む。
ロシアが侵略したウクライナ東部2州などでウクライナへの内通者がいるのは驚くことではない。
ウクライナ東部ドネツク州スビャトゴルスクの修道院前に残る破壊されたロシア軍の戦車(2022年11月)=ゲッティ共同
将軍の死者数の多さに加え、ロシア製の武器の劣後も目立つ。ロシア製の武器が全体の半数を占めるインドがこの1年のロシア軍の実力に不安を抱いたとしても不思議ではない。
1月31日のホワイトハウス。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とインドのドバル国家安全保障補佐官は軍事を巡る技術の協力拡大や共同開発、生産の方法を議論した。
インドは旧ソ連時代からロシアに武器調達を頼り、米国はインドがカシミール地方の領有権を争うパキスタンを軍事支援してきた。ロシアの武器輸出はインド向けが総額の2割強を占める。
米欧はウクライナ侵略を巡りロシアに経済制裁を科してきたが、インドは加わっていない。米国にとって軍事支援はインド懐柔のカードになる。
インド太平洋地域で中国を抑止するための日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の核心であるインドを引き寄せる効果も期待する。
ロシア軍の将軍の死者数から浮かび上がる実力はインドとともに中国の動揺も誘う。前出の高官は漏らす。「中国がひそかにロシアへの軍事支援を始めたようだ」
政治部長 吉野直也
政治記者として細川護熙首相から岸田文雄首相まで15人の首相を取材。財務省、経済産業省、金融庁など経済官庁も担当した。2012年4月から17年3月までワシントンに駐在し、12年と16年の米大統領選を現地で報じた。著書は「核なき世界の終着点 オバマ対日外交の深層」(16年日本経済新聞出版社)、「ワシントン緊急報告 アメリカ大乱」(17年日経BP)。ツイッターは@NaoyaYoshino
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