GAFAM襲う「中年の危機」 米テック大手に地殻変動
米州総局編集委員 阿部哲也
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN301HK0Q3A130C2000000/
『米国のテック業界では、こんな見方が長く常識とされてきた。「テクノロジーにバブルは絶対起こりえない」。米カリスマ起業家、ピーター・ティール氏の言葉だ。しかし現実の各社はいま、長いバブルの後遺症ともいうべき厳しい冬の時代に直面している。
史上最悪ペースの人員削減
異変は史上最悪ペースの人員削減にあらわれる。グーグル、メタ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト……。「GAFAM」と呼ばれる大手はほぼ…
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『異変は史上最悪ペースの人員削減にあらわれる。グーグル、メタ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト……。「GAFAM」と呼ばれる大手はほぼ総崩れとなり、2023年に入ってからもリストラ計画が止まらない。
世界のデータ経済の成長を引っ張り、米国の繁栄の象徴でもあったテック業界だ。いったい何が起きているのか。現象をひもとくキーワードが「midlife crisis(中年の危機)」である。
「最も興味深く重要な山を征服し、次を探して苦しんでいる」(米アトランティック誌)
「激しい気移りに、衝動的な決断、そしてひどい後悔にさいなまれている」(米ブルームバーグ通信)
中年の危機とは老いを自覚し、気力を失った精神状態をさす。人生の折り返し地点を過ぎ、生き方に揺れる。米国では昨年末以降、テック各社を惑う中年になぞらえ、論評する声が増えた。
「コロナブーメラン」響く
短期的にみれば、足元の相次ぐリストラは単に悪環境が重なったからだとする解釈は多い。
グーグルのピチャイCEOは大規模リストラについて、新型コロナ特需を見越した事業の急拡大が原因と釈明した(写真は22年10月、東京)
「過去2年間の劇的な成長に見合うよう、いま直面する現実とはまったく異なる判断を下してしまった」
1万2000人を削減するグーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)が釈明するように、とりわけ「コロナブーメラン」が各社を悩ます。新型コロナウイルス禍でリモートワークが普及し、各社は自社サービスの利用増を見越して競うように大量採用に踏み切った。だがその特需は過ぎた。
時を同じくして急ピッチの利上げが始まり、新事業に欠かせないイージーマネーも断たれた。業績は伸びが鈍り、株主のフラストレーションはたまる。経営者ともども長期への余裕をなくし、株価を保つには人件費をはじめとするコスト削減でしのがざるをえない。
3つの地殻変動
問題はなぜ、こうした負の連鎖が一斉に業界全体へ広がっているかにある。背景にはコロナやインフレだけでは片付けられない構造的な変化、各社を襲う中年の危機があるというのだ。
フェイスブックを展開するメタをはじめ、ビッグテックは大きな構造変化に悩まされている=ロイター
米テック業界、とりわけビッグテックをめぐっては、3つの地殻変動がその基盤を根本から揺らしている。
第1は市場の成熟だ。グーグルは世界の検索の9割を独占し、各国で普及するアップル端末は20億台を超す。メタのフェイスブックは月間30億人が使い、アマゾンだけで消費大国である米国のネット通販の4割を担う。
もはや各社とも大きくなりすぎて、互いの事業領域を食い合うカニバリズムも深刻になっている。ブルーオーシャン(未開拓市場)を謳歌できたこれまでのようにはいかない。
さらに内なる危機、巨大化に伴う文化の変容も強まる。
「従来型の企業にはならない」。共同創業者のラリー・ペイジ氏がこう言ってスタートしたグーグルも、いまでは兄弟会社含めて19万人が働く。
遊び場のようなオフィスに無料のカフェテリア、医療保険など福利厚生も手厚い。斬新な職場づくりで一世を風靡したが、現在は昼食の牛肉ひとつに異論が出る。人工知能(AI)やドローンで米国防総省と接近し、大規模な反対運動も招いた。多様化への対応と責任は膨らむ。
テック業界が存在感を増すにつれ、各国政府との関係も微妙になってきた。第3の逆風が世界的な監視網である。
グーグルに対し、ガーランド米司法長官は「15年にわたり反競争的な行為を繰り返してきた」と鋭く批判した=ロイター
包括的なテック規制で先行する欧州だけにとどまらない。米司法省もついにグーグルのネット広告事業に対し、分離分割を求めて訴訟に動いた。主要各社が過去最高額のロビー活動を展開していたにもかかわらずだ。
いまや各社のサービスは各国の政治や社会をも動かす。シリコンバレー流を前面に、自由奔放にやってこられた時期は終わった。
短命化する米主要企業
米コンサル会社、イノサイトの調べによると、S&Pの株価指数を構成する主要500社は短命化が進む。1970年代後半の「平均寿命」は30〜35年だったが、今後10年間は15〜20年にまで短くなる。
メタ19歳、グーグル24歳、アマゾン28歳、アップル46歳、マイクロソフト47歳……。主役交代の激しい米国経済にあっては、各社とも決して若くはない。むしろすでに全盛期を過ぎたと見られてもおかしくない局面にさしかかっている。
テック各社はスマートフォンとアプリによる新たな情報革命を推し進め、広告、娯楽、金融とあらゆる分野を一変させてきた。これまで成し得たものが大きいだけに、次に挑む山もなかなか見つからない。
アマゾン創業者のベゾス氏(左から2人目)は宇宙開発ビジネスへ転身した=ロイター
迷いは何より有力経営者の相次ぐ転身にも見て取れる。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は宇宙開発のためにCEOを辞し、メタをネット広告の巨人に変えたシェリル・サンドバーグ氏も引退した。高く険しい山を登り切った経営トップらがテック各社を次々と離れていく。こうした傾向は業界全体が惑いのさなかにあることと無縁ではない。
消えるムーンショット
気になるのは、次代を担うはずのムーンショット事業も次々と消えている点だ。たとえばアマゾンは22年秋、社内の極秘研究所を大幅に縮小し、エネルギーや環境関連の一部プロジェクトを取りやめた。
「テック企業が夢と野心を失えば、何が残るのか」。グーグルのニューヨーク拠点に勤めていた元従業員は病気の家族を救うため、ヘルスケア関連の新興企業に転職するという。老いるビッグテックを去った人材が各地で新たな種をまけるか。米国のみならず、世界の経済の「次」にも関わってくる。
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堀越功
日経BP 日経クロステック副編集長
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分析・考察 今のビッグテックに起きている人員削減や分離分割を求める動きは、過去の歴史に照らし合わせると、1984年の米AT&Tの分割に匹敵する動きにつながるかもしれません。当時世界最大の企業で米国の通信市場を独占していたAT&Tの分割は、ベビーベルと呼ばれる地域通信事業者を生んだほか、その後のインターネット革命を生む土壌になったと言われています。現在のビッグテックを襲う地殻変動は、次の産業を生みだすという米国流のダイナミズムにつながる可能性があります。
2023年2月8日 9:16いいね
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南川明
インフォーマインテリジェンス シニアコンサルティングディレクタ
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別の視点6万人強の人員削減は大規模であるが全社員220万人の3%である。株価維持の為には更なる人員削減が必要なほどに見える。GAFAMと言われる5社が次のプラットフォームを構築して全社が生き残れるとは思えないが、次のプラットフォーム構築に向けた開発は着実に進んでいると見ている。
近年のコンピューティング能力の向上で医療の進歩は急速に高まっているようだ。2035年にはほとんどの病気は治療可能とまで言われるようになってきた。そんな事を実現できるテック産業が終わるとは思えない。
2023年2月8日 8:51 』