[FT]ウクライナのEU加盟 期待と現実のギャップ

[FT]ウクライナのEU加盟 期待と現実のギャップ
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『欧州連合(EU)加盟各国は、EUとウクライナの首脳会談に先立ち、同国に早期のEU加盟という非現実的な期待を抱かせないよう、EU指導部にくぎを刺している。ウクライナの首都キーウ(キエフ)で開かれる首脳会談では、同国のゼレンスキー大統領がEU加盟や復興支援について協議の進展を求めるとみられる。

ゼレンスキー氏は3日、フォンデアライエン欧州委員長とミシェルEU大統領をキーウに迎えて会談に臨み、ウクライ…

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『ゼレンスキー氏は3日、フォンデアライエン欧州委員長とミシェルEU大統領をキーウに迎えて会談に臨み、ウクライナのEU加盟、ウクライナ復興費用へのロシア凍結資産の活用、ロシア人を戦争犯罪で訴追するための法的仕組みの構築について働きかける見通しだ。
EU指導部が実現不可能な期待を助長

EU諸国の上級外交官らは、ウクライナが抱く実現不可能な期待(2026年までのEU加盟など)をEU指導部が抑えるどころか助長していることに懸念を示している。

「どんな政治指導者も、歴史の間違った側には立ちたくない。誰だって対応が不十分だと非難されたくはない」とEUのある上級外交官は語った。「だから(EU指導部は)すべてが可能だと(ウクライナに)伝えている」

22年2月のロシアによる侵攻開始を受け、EUはウクライナへの軍事、人道、財政面での支援を急いだ。その一環である対ロ制裁は域内経済に打撃を及ぼしている。EUはまた、ウクライナが加盟基準を満たしていないにもかかわらず、正式な加盟候補国に認定するという前例のない対応にも踏み切った。

ただ、中・東欧の一部加盟国がウクライナの要求を支持する一方で、北欧や西欧の加盟国は、ウクライナが抱える多くの貧困層や巨大な農業部門をEUに統合する方法について懸念している。

フランスのマクロン大統領は、ウクライナの加盟のスピードにとりわけ慎重で、正式に加盟候補国となる前の22年5月には、加盟手続きに「数十年」はかかる可能性があるとけん制している。

一方、EU指導部は楽観的な論調を打ち出している。フォンデアライエン氏は22年9月にキーウを訪問した際、「加盟プロセスは順調に進んでいる」との見方を示し、「進展のスピード、決断力、適正さに感銘を受けた」と話した。

EU大統領「早期加盟のための努力は惜しまず」

ミシェル氏は1月、ウクライナ議会で演説し、「この約束(EU加盟)を可能な限り早期に実現する」ために「いかなる努力」も惜しんではならないと強調した。「ウクライナはEUであり、EUはウクライナだ」とまで述べた。

こうした発言が、ウクライナは特権を持ち、早期のEU加盟に値するという期待を生み出している。ウクライナのシュミハリ首相は、加盟まで2年のスケジュールを想定していると明らかにした。

別のEU外交官は「ウクライナのEU加盟手続きが迅速に進むことはないだろう」と話す。「(EU側の)発言と現実に齟齬(そご)が生じる恐れがある」

フィナンシャル・タイムズ(FT)の取材に応じた複数の加盟国関係者は、欧州委員会はウクライナに対し、正式な加盟交渉を始めるにあたっては大きなハードルがあり、交渉を始めるだけでも10年以上はかかる可能性があることをはっきり知らせる必要があると語った。

さらに別のEU外交官は「(約束と現実との)ずれはすでに広がっており、もはや埋めることができないようなところまできている」と述べた。「(ウクライナは)あすにも加盟できると考えているようだ。もちろんそんなわけはない」

フォンデアライエン氏をはじめとする欧州委員は、キーウ訪問の一環としてウクライナ政府当局者と会合を開き、同氏とEU加盟27カ国を代表するミシェル氏が3日にゼレンスキー氏との首脳会談に臨む。

さらなる改革の必要性が浮き彫りに

あるEU高官は一連の会合に先立ち「我々は皆、ウクライナで改革の機運が続いていることに注目している」と述べ、法の支配や汚職防止への取り組みを例に挙げた。キーウでの協議では、さらなる改革の必要性が浮き彫りになる一方、EUとの経済協力や貿易障壁の削減にも話が及ぶとみられる。

ミシェル氏とフォンデアライエン氏は、欧州の銀行が凍結したロシア中央銀行の資産の運用益をウクライナの復興に活用する方法を検討するよう加盟国に呼びかけており、この点でも注目を集めている。

EU外交官の1人は「フォンデアライエン氏とミシェル氏は、どちらの方がウクライナ寄りの姿勢を示せるか競い合っているのかもしれない」と話す。

ウクライナ政府とEU、世界銀行は22年9月時点で、復興・再建にかかる費用が3500億ユーロ(約50兆円)近くにのぼると試算した。それ以降、ロシアが繰り返すミサイルやドローン(無人機)攻撃で重要インフラが損傷を受けるなか、復興費用は増加の一途をたどっている。

凍結資産の活用については、欧州委の内部で実現可能性を巡って大きな疑問が生じているにもかかわらず、求める声があがってきた。

レインデルス欧州委員(司法担当)は今週、FTに対し、ロシア政府の資産を利用するという考え方は「非常に複雑な問題」をはらむと述べた。これは「法的側面においてだけでなく、通貨制度を正常に機能させるうえでも言えることだ」という。

EU内では、ウクライナでの戦争犯罪疑惑でロシア人を調査・訴追するための特別法廷を設ける案についても、その形式を巡って意見が分かれている。

By Henry Foy and Sam Fleming

(2023年2月1日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2023. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation. 』