中露で手一杯の米国 だが中東は無視するには重要すぎる

中露で手一杯の米国 だが中東は無視するには重要すぎる
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29233

 ※ 安全保障の観点からは、「地中海ダイアローグ(7か国)」と「イスタンブール協力イニシアティブ(4か国)」という枠組みで、影響力を保持する体制だ…。

『米バード大学のミード教授が、1月9日付け米ウォールストリートジャーナル紙掲載の論説‘The Peril of Ignoring the Middle East’で、米国の中東における影響力が低下しているが、中東は無視するには重要すぎるとし、米国が影響力を回復するためには、米国が武力に訴えてもイランの覇権主義や核開発を阻止する用意があるというメッセージを伝えるべきであると主張している。要旨は次の通り。

 中東地域全体が流動化している。エネルギー価格の高騰により膨大な資金が域内に流れ込み、その結果、産油国の指導者達は自信を深め、その一方で中国は中東地域での経済的、政治的なプレゼンスを高めている。

 アラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、ロシアは、シリアのアサド政権を強化する方向で米国のシリア政策を妨げている。また、長年のイランに対する欧州の憧憬は、イラン国内での残酷な弾圧で冷めてきており、イランによるロシアのウクライナ侵攻への支援は、欧州のイランとの平和的かつ有益な関係を築くという期待を打ち砕いている。他方、カタールの欧州議会に対する大がかりな贈賄スキャンダルは、欧州連合(EU)を驚愕させた。

 この15年間、米国の中東地域に対する影響力が低下し続けており、イスラエル、アラブ諸国、イラン、トルコは、昔ほど米国を重く見ていない。オバマ政権の優柔不断さとトランプ政権の支離滅裂な政策の後、域内の指導者達は米国の知恵や一貫性に疑問を持っている。

 バイデン政権はジレンマに陥っている。米国は、ロシアのウクライナ侵攻とインド太平洋地域での中国の野心により、既に手一杯になっており、中東方面への関与は最小限にしたい。しかし、中東は無視するには重要すぎる。米国が中東から手を引けば、それだけ米国の世界的な影響力も低下する。

 バイデンが中東で米国の影響力を回復したいのであれば、まだ可能である。米国は、アラブの隣国を脅かすイランの能力を妨害するための断固とした効果的な政策と、イスラエルとその友好国がイランの核開発計画を阻止するために軍事行動をとれるようにするための措置を組み合わせることで、再び中東の秩序の中心に戻れるだろう。

 影響力回復のコストは高いが、無気力は長期的にはより高くつく。バイデンが以上のラインで真剣に協議する用意があるとのメッセージを伝えることができれば、イスラエルとその他諸国は米国の懸念により大きな注意を払うだろう。

 そうでなければ、イスラエルとその近隣の諸国は米国の利益に構うことなく決定をし続け、バイデン政権はその結果の管理に苦闘することとなろう。

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 中東地域に関する時宜を得た論説である。確かに「米国は、ロシアのウクライナ侵攻とインド太平洋地域での中国の野心により、既に手一杯になっており、中東方面への関与は最小限にしたいところである」というのが米国の本音であろうが、同時にミードが指摘する通り、中東地域は無視するには重要すぎる。

 脱炭素化が進んでいるが、しばらくの間、化石燃料への依存は続き、ペルシャ湾地域はその間、石油・天然ガスの安価かつ安定した、代替のきかない供給源であり続ける。

 米国は世界最大の石油・天然ガスの生産国になり、米国にとってはペルシャ湾地域の石油・天然ガスの戦略的価値はなくなった。しかし、日本を初めとした米国の同盟国の多くは、中東の石油・天然ガスに依存しているので、米国が中東への影響力を失うことはこれらの諸国の失望を招くことになる。その結果、米国が中東から手を引けば、それだけ米国の世界的な影響力も低下する。』

『しかし、ロシアのウクライナ侵攻や中国の台頭に目を奪われて中東が視野の外に追いやられているのは米国だけではない。

いつの間にか日本のホルムズ海峡依存度(日本のエネルギー源の37%を占める原油の内、中東のホルムズ海峡を通る割合)が過去最高の95%に上昇しているのにも関わらず、日本で中東に対する関心は全くと言って良いほどない。しかし、ペルシャ湾地域からの石油の安定供給が止まれば、日本経済に致命的なダメージを与えるのは間違いない。

武力行使以外のカードがそもそもあるのか?

 ミードの主張は、パレスチナ問題や中東の人権や民主化の問題も含め、まずはこの地域における米国の影響力を回復させることが先決であり、そのためには、イランの覇権主義、とりわけ核武装の危険性を孕むイランの核開発を、武力を使ってでも阻止するということである。

 しかし、「イランが近隣のアラブ諸国を脅かすことを断固として止めさせなければならない」と言うのは易しいが、米国は、既に制裁カードを切ってしまっており、軍事力の行使しか残されていないのではないか。

 イラン核合意(JCPOA)再開交渉は、昨年夏前、米国の中間選挙後まで中断されたが、その後、イラン国内の反政府デモ、イランのロシアへのドローンを供与から、バイデン大統領自身、「JCPOAは、ほとんど死んだ」と発言しているように、とても交渉を再開出来る状況とは思われない。

 イランの核問題の外交的解決が米国の一貫した立場だが、既にイランは、核爆弾製造に必要な濃縮ウランを手に入れている。米国に何か良い手立てはあるのだろうか。ミードは、「オバマ政権の優柔不断さ」と書いているが、同じ民主党政権のバイデン政権も手をこまねいて、ますます事態を悪化させるのであろうか。

 その場合、直接の脅威を受けるイスラエルやアラブ諸国は納得するとは思われない。やはり、「不作為はもっと高くつく」ことになろう。』