中国外交、「戦狼」が「微笑」に急旋回 ロシア不信募る
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM1185P0R10C23A1000000/
『中国が米国や欧州への外交姿勢を修正している。相手国に威圧的に振るまう「戦狼(せんろう)外交官」を異動させ、米欧との対話に動く。「微笑外交」に急旋回した背後には中国のロシアへの不信感がありそうだ。
2022年12月末、北京の中国外務省。記者会見場の裏で報道官と外国メディア記者の交流会が開かれた。普段は厳しい表情を崩さない汪文斌副報道局長や毛寧副報道局長から笑みがこぼれるなかで、姿を見せなかった報道…
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
分析・考察
戦狼外交が行き詰まっているのは事実である。本来、外交は友達を増やすのが仕事だが、戦狼外交は友達を敵にして、敵を増やしてきた。これでは、中国経済も成長が難しくなる。戦狼外交より微笑外交のほうがいいに決まっている。ただし、急旋回しても、失われた信頼を取り戻せるか、時間がかかる。都合が悪くなったから旋回するとすれば、信頼を取り戻すことができない。ほんとうに友達を増やすならば、グローバルルールに従う覚悟が必要である
2023年2月2日 8:16 』
『普段は厳しい表情を崩さない汪文斌副報道局長や毛寧副報道局長から笑みがこぼれるなかで、姿を見せなかった報道官がいた。「戦狼外交官」として有名な趙立堅氏だ。
理由はまもなく判明した。中国外務省が1月上旬、趙氏が国境海洋事務局に異動したと公表した。世界のメディアが注目し、退任後に主要国大使などに就くことも多い報道官と比べ、地味な部署との印象は拭えない。
趙氏は20年に報道官に就き、こわもてで威圧的な発言を繰り返して有名になった。20年春には湖北省武漢市で新型コロナウイルスがまん延する中、根拠も示さぬまま「米軍が武漢に持ち込んだ可能性」とツイッターに投稿したこともある。
趙氏の交代だけではない。昨年12月30日に外相に就いた秦剛氏は、年が明けると真っ先にブリンケン米国務長官に電話した。「率直で建設的な話し合いに感謝する。密接な協力関係を続けたい」。電話後はツイッターに投稿し、低姿勢で協力を呼びかけた。1月29日には停止していた日本人向けのビザ発給を再開した。
唐突に思える中国の「微笑外交」。共産党関係者は「習近平(シー・ジンピン)指導部がロシアへの不信感を高めており、米欧との緊張緩和を進めてバランスをとろうとしている」と明かす。
秦剛外相は1月上旬、対ロ外交について「同盟を結ばず、対立もせず、中ロで第三国には対抗せず」の3方針を外務省内部の会合で示した。ウクライナ侵攻前の22年2月上旬、中ロ首脳会談で「中ロ友好には限りがない」と蜜月を誇ったのが遠い昔かのようだ。
中ロ首脳会談では「蜜月」をアピールしたが……(2022年2月、北京)=ロイター
習指導部はロシアからウクライナ侵攻について具体的計画を事前に知らされていなかった。欧米からはロシアとの関係を批判され、経済制裁までちらつかされた。
一方のロシアは中国を欧州に代わる資源輸出先にして戦費調達した。中国との友好関係があったから国連でも孤立しなかった。「ロシアに利用されている」。中国では不信感が広がった。
すでに中央アジアでは両国がさや当てする。
「天然ガス協力の拡大は双方の長期的利益にかなう」。1月6日、習氏は国賓として北京に招いたトルクメニスタンのベルドイムハメドフ大統領に伝えた。会談後の共同声明では同国を「エネルギー戦略パートナー」と位置づけ、パイプライン増設やガス田開発の加速を盛った。ロシア産ガスに依存しない態勢をつくるのが狙いだ。
実はロシアのプーチン大統領が侵攻後初の外遊先の一つに選んだのもトルクメニスタン。同氏は旧ソ連諸国を「勢力圏」とみなしており、内心では中国の接近を警戒しているとみられる。
中国メディアの1月の報道によると、海運大手の中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)はロシア産石油の輸送契約を拒絶した。米欧の経済制裁に巻き込まれる事態を懸念したとみられる。
中ロは4200キロの国境を接し、戦火も交えた。ロシアを「安全保障上の脅威」とみる中国の識者もいる。バランスを取り戻す観点からは「微笑外交」は自然ともいえる。
もっとも、ウクライナ侵攻後、米欧は人権や民主主義を強く意識した外交を展開しており、これらの普遍的価値観に距離を置く習指導部と折り合える余地は大きくない。米国が華為技術(ファーウェイ)への全面禁輸を検討中だと報じられるなど「ハイテク封鎖」も止まっていない。
中ロ蜜月は「ロシア以外に親しくしてくれる国がなかった」という中国外交の厳しい現実の裏返しでもある。ロシアと離れたら誰もいなくなった――急ごしらえの「微笑外交」にはそんな危うさもつきまとう。
(北京=羽田野主)
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