「新中華圏」とのつきあい方 中国の統制がつくる新勢力

「新中華圏」とのつきあい方 中国の統制がつくる新勢力
風見鶏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM190580Z10C23A1000000/

『中国のIT(情報技術)政策が大転換している。

中国共産党は2023年の経済運営方針の重点項目として「プラットフォーム企業の発展、雇用創出、国際競争での能力発揮を支持する」と掲げた。

景気回復のためIT業界への締め付けを緩めたように見えるが、実態はその逆だ。清華大学の李稲葵教授は「政府はIT企業が社会的統治に与える影響を懸念していたが2年かけて是正は終わった」と説明する。

企業を統制下に置く段階が…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り1181文字

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料! https://www.nikkei.com/promotion/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM190580Z10C23A1000000&n_cid=DSPRM1AR07 』

『昨年、テック関係者や投資家の注目を集めた論文がある。タイトルは「web3.0と中国は無関係」。

「量子学派」を名乗る話題の科学者グループからの情報発信で、各国が開発を競う次世代インターネット「web3.0」を巡り技術者に中国からの脱出を呼びかけた。「シンガポールや中東にいけば資金はいくらでも得られて好きな技術開発ができる」

web3.0はブロックチェーン(分散型台帳)を使った分散型ネットワークで、ネットを国家の監視や巨大IT企業の独占から解き放つと期待されている。中国も国家戦略としているが、開発するのは本来の理念を覆す「統制可能なweb3.0」だ。

論文は技術の冒瀆(ぼうとく)への失望と技術者の矜持(きょうじ)がにじんだ。すぐに削除されたが、思いは社会に広がった。

イノベーションと統制を同時進行しようとする中国の矛盾に満ちた戦略は今後、世界にどのような影響を与えるのだろうか。』

『「世界に新しい中華経済圏が出現する」。東京財団政策研究所主席研究員の柯隆氏は予測する。

理不尽な統制下、海外でも活躍できる人材は次第に出国意欲を高めている。web3.0といった自由志向を持つ分野の技術者はその代表だ。アリババ集団の創業者、馬雲氏のように中国の統制から押し出された人材もいる。

バイタリティーにあふれ、人脈も資金力もある彼らは「新世紀の華僑」として世界経済をけん引する新勢力となるだろう。どう向き合うかは日本も想定しておくべき課題となる。』

『日本で先行するのは「防御」を巡る議論だ。中国政府は国民を国家利益のために総動員することが法律的に可能であり、警戒を怠ることはできない。日本の社会や経済が混乱しないよう土地や企業の売買における規制の見直しも必要だ。』

『一方で「攻め」の準備も求められる。ネットや電気自動車(EV)など中国のイノベーション能力は高い。基礎技術よりアプリケーション開発に強く、日本とは得意分野が違う。祖国から飛び出したアントレプレナー(起業家)たちへの支援や取り込みは相乗効果が期待できる。』

『新中華圏が中国と世界を結ぶ情報流通の新たな結節点となる可能性もある。中国内の情報を得る一方、世界の情報を中国の人々に伝えるルートとなる。情報は安全保障の根幹だ。米国はいち早くネットワークを築くだろうが、日本がやらなくていいわけではない。

なによりも自由な人生を求めて統制社会から逃れてきた人々は、すでに民主主義社会の一員といえるのではないだろうか。

あらゆる個人が受け入れられ、夢を追求できたのが自由主義社会の強さだった。「国家の夢」のために個人を犠牲にする。そうした国とは一線を画す柔軟な姿勢で新しいチャイナ・ワールドと向き合いたい。

(中国総局長 桃井裕理)』