[FT・Lex]「悪魔との契約解消」がドイツに残す高コスト

[FT・Lex]「悪魔との契約解消」がドイツに残す高コスト
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB190CU0Z10C23A1000000/

『ファウストは悪魔と取引したために劫(ごう)罰を受けた。ドイツは数十億ドルの損失と新たな出資という、もっと小さな代償でロシアへのエネルギー依存を断ち切ろうとしている。最近の例は化学大手BASFが、石油・ガス開発大手の独ウィンターシャル・デアの持ち分について73億ユーロ(約1兆円)の評価損を計上したことだ。ウィンターシャルはもともと、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)、ミハイル・フリードマン氏との合弁事…

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『ウィンターシャルはもともと、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)、ミハイル・フリードマン氏との合弁事業だった。

独シュバルツハイデにあるBASFの工場=ロイター

ドイツは長年、有利な取引をしてきた。安価なエネルギーで産業は繁栄できた。グローバリストは、ロシアとの貿易関係は双方に礼節をもたらすものと考えた。ところがウクライナ戦争でそれが誤りだったことが証明され、不信とコスト増大の時代が到来した。

早い段階で犠牲になったのは、ロシアからドイツに天然ガスを送る新パイプライン「ノルドストリーム2」だった。95億ユーロのプロジェクトは、ウクライナを迂回してロシアの天然ガスをドイツに輸出することを可能にするはずだった。プロジェクトは完成したが、損傷を受け、うち捨てられた。

一方、長期ガス契約をより高価なスポット契約に切り替えなければならなかった電力会社ユニパーの救済によって、ドイツの納税者は510億ユーロを負担することになる。

BASFは、ウィンターシャルの73%の株式を通して垂直統合を図ろうとしていた。しかし、投資家が現実に即した株価をつけた数カ月後、BASFはその夢が失敗に終わったことを認めた。

ドイツは安価なロシア産ガスを高価な液化天然ガス(LNG)で代替するという、より暗たんとした新たなエネルギー状況に直面している。

500億立方メートルの不足分を埋めるためのドイツの戦略は、2024年初めまでに新規設置する約400億立方メートルのLNG輸入能力が中心だ。だが、これによってガス供給が保証されるわけではない。ドイツは、経済を再開した中国も確保を目指すLNGに対して高い価格を支払うことになるだろう。少なくとも20年代半ばに新たなLNGの供給が始まるまでは、ガス価格の上昇圧力が続くことになる。

これはBASFにとって問題だ。バーンスタインは、23年の上限価格でBASFのエネルギーコストは通常の水準である売上高の4.5%から12%近くに上昇すると推定している。これは利益率を大きく圧迫する。ドイツの産業界の大半もマイナスの影響を受ける。

ドイツは痛みを伴う産業空洞化なしに、数年のコスト上昇を乗り切れることを期待している。回収不能の多額の出資と生産性向上が有益な緩衝剤になるだろう。

かえって幸いかもしれない。ドイツ、そして欧州全般は、エネルギー価格が米国や中東よりも構造的に高くなる。「古い欧州」へのガス輸送には、避けられない経費が伴う。

ドイツは、それにふさわしい高い対価を払って、魂を取り戻しつつある。

(2023年1月18日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)』