戦略国際問題研究所がレポートを発表、中国軍から台湾を守る要は日本

戦略国際問題研究所がレポートを発表、中国軍から台湾を守る要は日本
https://grandfleet.info/us-related/csis-releases-report-japan-needs-to-protect-taiwan-from-chinese-military/#comment_headline

『戦略国際問題研究所(CSIS)は台湾を巡る米中の軍事衝突を分析した「The First Battle of the Next War」を公開、このレポートの中でCSISは「中国軍の侵攻阻止には在日米軍基地の使用は不可欠なので日本は台湾防衛における要だ」と主張している。

参考:The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan
設定の異なる24のウォーゲームを3,350万回以上シミュレーションした結果

いつの時代も侵攻は同じように始まり、中国軍による開戦直後の砲撃で台湾軍の航空機と艦艇のほぼ全てが破壊され、島を取り囲むように展開する中国軍の各戦力(海上戦力、航空戦力、ミサイル戦力など)は外部から台湾へのアクセスを遮断、何万人もの地上戦力が水陸両用艦や民間のRORO船で海峡を渡り、空挺部隊が上陸予定ポイントの後方に上陸するものの「最も可能性の高いベースシナリオ」では開戦直後の砲撃にもかかわらず台湾軍の地上部隊は生き残り、上陸予定ポイントに殺到して中国軍は橋頭堡の確保、後続部隊の輸送、内陸部への移動に苦労することになる。

出典:Public Domain 人民解放軍の兵士

米軍の潜水艦、爆撃機、戦闘機、攻撃機は自衛隊の支援を受けながら台湾上陸を試みる水陸両用艦隊を麻痺させ、中国軍が日本の基地や米軍の艦艇を攻撃しても「台湾が島を死守する」という結果を覆すことが出来ないが、この結果は「米軍の介入前に台湾が降伏せず徹底的な抵抗を維持する」というのが大前提で、米日が台湾防衛に支払うコストも非常に高額(両国は何十隻もの艦艇、何百機もの航空機、何千人も兵士を失う)になり、何年にも渡って米国の世界的地位を損ねるだろう。

台湾軍は完全に破壊されることはないものの著しく劣化し、戦いで荒廃した経済を再建するため放置されることになる。侵攻に失敗した中国軍も水陸両用艦隊がほぼ壊滅して何万人も兵士が台湾の捕虜になる。

中国軍による台湾侵攻を阻止するための条件

24回のウォーゲームを繰り返して結果を分析した結果、4つの条件が中国軍を打ち負かすに必要不可欠だと判明した。

出典:總統府 / CC BY 2.0

1.台湾軍が戦線を維持すること

中国軍は必ず台湾島に上陸するため、台湾陸軍は上陸してくる敵を海岸線に釘付けにして兵站が脆くなったところで反撃に移行しなければならないが、現在の台湾陸軍は兵士不足と訓練不足という大きな弱点を抱えている。そのため台湾は防衛の中心に陸軍を据えて強化しなければならない。

2.台湾にウクライナ・モデルは通用しない

NATOはウクライナ軍とロシア軍の戦いに装備や物資を提供、ロシアは陸路で流れ込むウクライナ支援物資を阻止できないでいるが、中国は数週間~数ヶ月に渡り海に囲まれた台湾を孤立させることが出来るためウクライナ・モデルを再現するのは不可能だ。そのため米国は事前に台湾が防衛に必要とする武器や物資を提供し、侵攻が始まれば速やかに米軍の直接介入を決定しなければならない。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Rebeckah Medeiros 嘉手納基地のF-15C

3.米国は日本の基地を中国軍との戦いに使用できるようにする

オーストラリアや韓国といった同盟国も台湾防衛で何らかの役割を果たすかもしれないが、米軍機が台湾周辺の戦い参加するには在日米軍基地の使用が不可欠なので日本は台湾防衛における要だ。そのため米国は日本と外交・軍事関係をより深めなければならない。

4.米国は遠距離から中国艦隊を迅速かつ大量に攻撃できる必要がある

海上を移動する艦艇を攻撃可能なスタンド・オフ・ミサイルを大量に運搬できる爆撃機こそ、米国の損失を最小限に抑えながら侵攻を撃退する最速の方法だ。このようなミサイルの大量調達・既存のミサイルのアップグレードは米国にとって最優先事項になる。
ピュロスの勝利に陥らないための勧告

考えもなしに「ただ勝利すればいい」というだけではピュロスの勝利(割に合わない勝利という意味)に陥り、長期的に「負けたはずの中国」より多くの損害を被るかもしれない。さらに「勝利へのコスト」が高いという認識は結果的に抑止力を弱めることに繋がり、中国による台湾侵攻リスクを高めることにもつながる。

出典:kremlin.ru / CC BY 4.0

従って米国は台湾侵攻に備えて「勝利へのコスト」を引き下げる政策とプログラムを準備すべきだ。

01.戦争計画の前提を明確にする

平時における台湾や中立国への派兵を前提にした戦争計画と政治的な現実にはギャップが存在する。

02.本土攻撃の計画を立案してはならない

核保有国とのエスカレーションを避けるため中国本土への攻撃をホワイトハウスが許可しない可能性がある。

03.大きな死傷者が出ても作戦継続の必要性を認識すること

約3週間の戦いで米国はイラクとアフガニスタンで被った犠牲者の約半分に相当する犠牲者を出すはずだ。

出典:總統府 / CC BY 2.0

04.台湾の空軍・海軍戦力を非対称化する

台湾はヤマアラシ戦略を採用する言いながら、国防予算の大半を第一撃目で破壊されやすい高価な艦艇や航空機の調達に費やしている。

05.日本とグアムの航空基地を分散・強化する

航空戦力の分散や防空能力の強化を進めることで、中国軍によるミサイル攻撃の効果を低下させる。

06.米空軍のドクトリンを見直し、駐機中の航空戦力の生存性を高める

ウォーゲームで破壊された航空機の約90%は駐機中に発生したもので改善の余地が大きい。

出典:U.S. Air Force photo by Brian G. Rhodes

07.中国本土の上空を飛行するような作戦を放棄する

中国本土に張り巡らされた防空システムは強力過ぎるので、ここに侵入するような航空作戦は労力の割に結果が乏しく、台湾周辺の航空作戦を優先すべきだ。

08.海兵隊の沿岸連隊や陸軍の多領域作戦部隊の限界を認識して無闇に拡張しない

これらの部隊は対中国を目的に創設されたので一定の価値を提供するものの、政治的・作戦的な問題から有用性には限界がある。

09.脆弱性を生むようなリスクの高い前方配備を止める

従来のドクトリンでは抑止力を高めるため「戦力の前方配備」を求めているが、長距離攻撃能力に秀でた中国軍相手には魅力的な標的を提供するだけで意味がない。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Yosselin Campos

10.海上戦力を小型で生存性の高い艦艇に切り替え、攻撃を受けた際の救助メカニズムを新たに開発する

中国軍の攻撃に対して水上艦艇は非常に脆弱で、ウォーゲームのイテレーションでは常に空母2隻と大型艦艇10隻~20隻が失われている。

11.潜水艦などの水中プラットフォームの数を増やす

ウォーゲームにおいて潜水艦は敵支配海域に侵入して中国艦隊に大打撃を与えたが、常に潜水艦の数は不足していた。

12.極超音速兵器の開発・配備は継続するもののニッチな兵器であることを認識する

まだ極超音速兵器の調達コストは高価なので、中国軍の特徴ともいえる量的優位に対抗するだけの数を揃えることができない。

出典:U.S. Air Force

13.戦闘機よりも爆撃機の調達・維持を優先させる

爆撃機の航続距離、搭載できるスタンド・オフ・ミサイルの到達距離、スタンド・オフ・ミサイルの運搬量は中国軍に困難な課題を突きつけいている。

14.より安価な戦闘機を調達し、高価なステルス機と非ステルス機のバランスをとる

ウォーゲームにおいて侵攻初期に多くの戦闘機が失われたため米空軍は戦力不足に陥った。この損失をカバーできる予備戦力を保有しないと戦争における航空作戦は二次的プレイヤーに格下げされる。

The First Battle of the Next Warは計165ページで構成されており、興味のある方は原文を読むことをお勧めする

以上がレポート11ページ分の要約(分かりにくい表現は意訳してある)だが、The First Battle of the Next Warは計165ページで構成されており、ウォーゲームのルール(例えば対艦ミサイルが戦場で迎撃されず目標まで到達する確立や対空ミサイルで迎撃できる確率の算出式など)や各シナリオの設定など非常に細かく解説しているので「原文を読むことをお勧めする」と言いたいものの、時間がかかるため興味深い部分だけを紹介すると以下のような言及がある。

設定の異なる24のウォーゲームは「3つのベースシナリオ」と「21のエクスカーションシナリオ」を3,350万回以上シミュレーションした結果で、各シナリオは米軍介入がD-Dayより3日遅れた場合、台湾にHIMARSが事前配備されていた場合、自衛隊がD-Dayから参戦した場合、日本が在日米軍基地の使用を拒否した場合、日本が地方空港の米軍使用を許可した場合、フィリピンが基地使用を許可する場合、中国軍が日本の基地を攻撃した場合、中国軍の水陸両用作戦が米軍並だった場合など幾つものパラメーターで戦場環境が分岐する仕組みだ。

台湾侵攻に参戦する国についてもインド、シンガポール、タイ、ベトナムは「台湾の状況に同情しても中国と対峙することには消極的で米軍機の領空通過を許可する関の山」と、韓国については「中国の台湾侵攻を支援するため北朝鮮が敵対行動に出ることを心配している」と、オーストラリアは「密接な同盟国なので基地使用や領空通過を許可するものの、豪軍は南シナ海での戦闘に積極的でも台湾侵攻に対応した作戦には参加しない」と、フィリピンは「中国との軍事バランスが不均衡なので中立を宣言する」と見ているのが興味深い。

出典:Royal Navy / OGL v1.0

台湾侵攻におけるNATO加盟国の動きについても「欧州から遠く離れた台湾海峡まで展開できる戦力は限られているので決定的な違いは生まない」と見ており、日本については「台湾有事は日米同盟の有事だという前向きなシグナルもある上、もし在日米軍基地の使用を制限すれば米国との対立に発展して日米同盟は台無しになるだろう」と言及している。

因みにシナリオ別の損失については以下のようになる。

戦闘機の損失  艦艇の損失

米国 日本 中国 米国 日本 中国
ベース 270機 112機 155機 17隻 26隻 138隻
悲観的 484機 161機 327機 14隻 14隻 113隻
楽観的 200機 90機 18機 8隻 16隻 129隻

全シナリオを通じて日本の戦闘機損失が多いのは「中国軍のミサイル攻撃で地上破壊される数が多い」ことに原因があり、各シナリオの詳細な戦況の推移に興味がある方は原文で確認してみてほしい。

関連記事:米日は台湾侵攻を阻止できるものの失う戦力は膨大、在日米軍基地は攻撃を受ける
関連記事:中国の台湾侵攻を米軍と自衛隊は辛うじて阻止可能、問題は戦力の再建スピード
関連記事:台湾防衛は不可能? 米シンクタンク、台湾有事で敗北するのは中国ではなく米国
関連記事:台湾軍の問題点、伝統的な概念に回帰しているだけで大戦略が未解決

※アイキャッチ画像の出典:總統府/CC BY 2.0
シェアする
ツイートする
Twitter で Follow grandfleet_info

Tweet Share +1 Hatena Pocket RSS feedly Pin it 

投稿者: 航空万能論GF管理人 米国関連 コメント: 12 』