出口のないロシアのウクライナ侵攻、最大の問題は目的と手段の不一致

出口のないロシアのウクライナ侵攻、最大の問題は目的と手段の不一致
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『ロシア軍の実態に詳しいロブ・リー氏とマイケル・コフマン氏は「ハルキウとヘルソンで成功はドンバスを巡る戦いに原因があり、クレムリンは希望的観測に基づく「短期的な戦略目標」にばかり注視して戦力を浪費している」と指摘した。

参考:How the Battle for the Donbas Shaped Ukraine’s Success
兵力不足をカバーしてきた火力投射が機能しなくなってきた時期に東部戦線の部隊をヘルソン州の守りに転用

ロシア軍が採用する戦略、構造的能力、軍事的思想などに詳しいロブ・リー氏とマイケル・コフマン氏は23日、ウクライナ軍がハルキウとヘルソンで成功したのは「ドンバスを巡る戦い」に原因があると指摘しており、2人の主張の要点をまとめると以下の通りになる。

出典:左:Kremlin.ru/CC BY 4.0 右:President Of Ukraine

2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻には重要な転換点が2つあり、1回目の転換点は「軍事的にキーウを制圧して親ロシア政権を樹立するという目標が達成できない」とクレムリンが悟った3月末で、両国の和平交渉はウクライナ側が示した一定の譲歩で成立するかに見えたが、善意のジェスチャーと称する「ウクライナ北部から撤退」でロシア軍によるジェノサイドが発覚してしまい交渉は中止、首都への軍事的な圧力を失ったロシアは政治交渉における優位性と恫喝手段を同時に失ってしまう。

準備不足のまま侵攻を開始したお粗末さは別にしても初期作戦は政治的目的(ウクライナの支配)と軍事的解決手段(キーウを制圧して親ロシア政権を樹立する)が一致しているため「戦争の終わらせ方」が明確に示されていたが、交渉の失敗を受けてクレムリンは軍事的目標のみを「ドンバス制圧」に変更したため目的と手段の不一致=つまりドンバス制圧に成功しても「クレムリンが望む条件=ウクライナの支配」を達成する見込みがなく、2人の専門家は「これ以降クレムリンの思考は希望的観測に基づく『短期的な戦略目標』にばかり注視して戦力の浪費が始まった」と指摘している。

出典:Минобороны России

米軍はイラクに侵攻する際、初期作戦に機動大隊の40%しか投入しなかったため十分な予備戦力を残していた=戦いが長期化しても補充や部隊のローテーションが可能だったが、ロシア軍はウクライナ侵攻に戦術大隊の80%以上、ロスグヴァルディア(国家親衛隊)、ルハンシクとドネツクの民兵(実質的にはロシア軍の一部)を投入したため予備戦力が極端に少なく、作戦が上手く行かなかった場合の備えが殆ど無かったためカリーニングラード、アブハジア、南オセチア、タジキスタンなどの重要拠点から戦術大隊を引く抜くことになった。

しかも引き抜いた戦術大隊も戦力が不足していたため直ぐに消耗してしまい将校や下士官の数が少なくなると兵士が戦いを拒否、戦術大隊は戦力定数の20%~50%しか保持しておらず戦力不足は誰の目にも明らかだったがプーチン大統領は動員を却下、これを補うため採用されたのが低質な予備大隊の編成、ボランティア大隊の創設、ルハンシク・ドネツクや占領地での強制動員、ワグナーといった準軍事阻止への依存で、火力投射というアドバンテージを全面的に押し出しドンバス制圧を開始する。

出典:Telegram経由 リシチャンシクを制圧したロシア軍

ただルハンシク州の防衛ラインを正面から突破しようとしたため前進速度は遅く、機動戦を実行できる戦力もなかったため突破口からの勢いが維持できず、膨大な火力によるゴリ押しでセベロドネツクやリシチャンシクを何とか奪取できたものの、西側諸国が提供した榴弾砲、自走砲、HIMARSが到着するとロシア軍のアドバンテージは急速に輝きを失う。

ロシア軍の兵站は大規模な物資集積地や弾薬庫に依存する古いシステムだっためHIMARSの攻撃に脆弱で、エクスカリバー砲弾が戦場に投入されると砲兵部隊同士による潰し合いでもウクライナ軍が有利になり、兵力不足をカバーしてきた火力投射が機能しなくなってきたにも関わらずクレムリンが「東部戦線の部隊をヘルソン州の守りに転用する」と決断したため2回目の転換点を迎える。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

イジュームに布陣する空挺部隊の精鋭部隊などをヘルソン州に移動させるという決定は「ドンバス制圧を期待できなくなる」という暗黙の了解と、ハルキウ州の占領地を守るロシア軍部隊の予備戦力が少なくなる=大きなリスクを抱えること意味し、ロシア軍兵士や従軍記者は8月半ばから「ウクライナ軍がハルキウに集結しつつある」「バラクレヤ方面にウクライナ軍の大部隊が移動している」と再三警告していたがクレムリンは手持ちの戦力で占領地を死守できると期待したため特に対応することなく運命の日を迎える。

ウクライナ軍は「最も優れた部隊がヘルソン州の守りに転用されたこと」「ハルキウ州を守るロシア軍に予備戦力が少ないこと」「ロスグヴァルディアや民兵には十分な重火器がなく対戦車兵器の扱いも殆ど知らないこと」「ロシア軍の砲兵部隊との連携が最低限なこと」を事前に把握、手薄な防衛ラインにできた突破口から浸透した機械化部隊が前線の背後を脅かすとロシア軍は大混乱に陥り、頼みの綱の航空支援もウクライナ軍が反撃と同時に防空システムを前進させたため機能せず、あっという間にクピャンスクやイジュームを失い戦力不足が再び露呈してしまう。

出典:Google Map ハルキウ州の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)

この結果を受けてロシア軍は「最も優れた部隊が拘束されているドニエプル川右岸の放棄」「戦力不足を解消するための総動員」を認めるよう進言、しかしプーチン大統領は総動員だけしか認めず、ウクライナ軍の前進を食い止めるため部分的動員の発表から1週間ほどで最低限の訓練を受けた動員兵が東部戦線に投入されたが、最も優れた部隊がドニエプル川右岸に釘付けになっている状況でルハンシク州を守るのは難しく、兵站維持が困難な地域で戦い続ければ「最も優れた部隊」も何れ消耗するのは目に見えている。

特別軍事作戦の総司令官に指名されたセルゲイ・スロヴィキン上級大将は「ドニエプル川右岸の放棄」をプーチン大統領に認めさせ、右岸に釘付けになっていた戦力を兵站の問題を抱えていないバフムートやマリンカに投入して攻撃を強化、これに対応するためウクライナ軍も戦力をつぎ込んでいるため他の戦線=例えばルハンシク州での攻勢に集中できなくなっており、インフラ攻撃で経済や市民生活を混乱させることでウクライナや西側諸国の負担を増やし、訓練と装備が行き届いた予備戦力を用意する時間を稼ぎ出そうと苦心しているらしい。

ウクライナ側が譲歩を見せた和平交渉で戦争を終わらせるのがロシアにとって最善だった

ここまでの話をまとめると「初期作戦をしくじったロシア軍は『クレムリンが望む条件での戦争終結』を達成する軍事的解決手段を見失っており、クレムリンも希望的観測に基づく『短期的な戦略目標』にばかり執着して政治的にも軍事的にも出口が見えない」というのがロシア側の現状で、一方のウクライナも戦線整理でロシア軍の戦力密度が高まっているため「ハルキウのような画期的な反撃」は今後難しく、少しづつ土地を削り取るような消耗戦に発展する可能性が高い。

出典:Минобороны России

出口は見えないもののロシア軍が軍事的な成功を手に入れられるかどうかは「動員された兵士をどれだけ上手く統合できるかに掛かっている」とロブ・リー氏とマイケル・コフマン氏は指摘しており、両軍に共通する課題は「海外からの支援をどれだけ引き出せるか」で、戦いが長期化すればするほど状況はウクライナ有利に傾く可能性が高いが、戦いの長期化は不確実性も同時に増すため「戦争の結末を予知するのは不可能だ」とも付け加えている。

因みに2人の専門家は「ウクライナ側が譲歩を見せた和平交渉で戦争を終わらせるのがロシアにとって最善だった」と指摘、プーチン大統領がドニエプル川右岸の放棄を7月~8月に決断できていれば「ハルキウ州の保持やより効果の高い攻勢をウクライナに仕掛けられていた」と予想しており、ヘルソン州でのHIMARS効果についても「誇張されている可能性がある=使用開始から2ヶ月後にはロシア軍がHIMARSの攻撃に慣れて対策を講じたため火力支援が維持され右岸からの撤退が成功している」とも述べているのが興味深い。

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※アイキャッチ画像の出典:Сухопутні війська ЗС України
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投稿者: 航空万能論GF管理人 欧州関連 コメント: 11  』