台湾総統選へサイバー「開戦前夜」 日本の対応猶予なし

台湾総統選へサイバー「開戦前夜」 日本の対応猶予なし
サイバー戦争・日本の危機(4)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA123Y10S2A111C2000000/

『11月26日、台湾で統一地方選が投開票された。2024年1月に次期総統選を控えて中国との関係を問う前哨戦だった。

「民進党を倒し、台湾の人を救え」「全住民は陳時中だけでなく民進党全体を嫌っている」。選挙期間中にSNS(交流サイト)ではこんな投稿が相次いだ。中国と距離を置く民主進歩党(民進党)や台北市長選に立候補した陳氏への誹謗(ひぼう)中傷だ。

民進党は台北市長選も含めて軒並み敗れ、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は党トップの座を降りた。総統選まで1年余りの大事な時期につまずいた。

批判の投稿の発信源の一つは中国の関与がささやかれるアカウントだ。台湾の呉釗燮・外交部長(外相)は中国の偽情報やサイバー攻撃について「台湾の民主主義を弱小化させ、混乱を作り出す狙いがある。総統選に向けて激しくなる」と分析する。

報道機関も狙われた。台湾のサイバーセキュリティー大手・TeamT5の最高技術責任者(CTO)、李庭閣氏は「統一地方選までの半年間、大手メディアに中国のサイバー攻撃が続いた」と語る。

サーバーへの不正侵入や記者を狙うウイルスが確認され、取材情報や社員のデータが盗まれたという。

中国は台湾統一という目標を掲げる。一連の行為は単なる機密の取得や一時的な打撃が目的ではない。政治的な意図がある工作とみなす声が多い。

今年8月にはペロシ米下院議長の台湾訪問直後、中国軍が台湾周辺にミサイルを撃ち込む演習をした。このときSNSなどでは「中国の演習をみて、蔡総統は台湾を脱出した」「蔡総統はペロシ氏にカネを渡した」と偽情報が拡散した。

ロシアがウクライナ侵攻で実施したように、いまリアルの軍事作戦とサイバー戦は不可分だ。演習と同時期に偽情報が流布した事実は重い。台湾に分断や不信、不安を植え付ける「認知戦」とみられる。

現在のロシアへの批判をみれば、中国も軽々に軍事侵攻はできない。非軍事的に統一が近づく手があれば利用する。総統選で民進党政権が倒れ、親中政権ができるようサイバー攻撃や偽情報が有力な手段になる。

台湾も身構える。唐鳳(オードリー・タン)氏が指揮するデジタル発展部は、23年初頭にもサイバーセキュリティーの専門部署を設立する。民間からも含め180人ほどの専門人材のチームだ。

米国も台湾をめぐるサイバー戦へ備える。台湾に5年間で最大100億ドル(1兆3000億円)を支援する法案に中国による台湾総統選への介入を防ぐサイバー防衛協力を盛り込んだ。「臨戦態勢」に入る。

日本は国家安全保障戦略など防衛3文書の改定を決めた。サイバー防衛の強化も打ち出したが、法改正や予算の手当ては23年以降になる。具体的な中身はこれからだ。既に台湾はサイバー戦の開戦前夜にある。日本に猶予はない。(おわり)

佐藤理、重田俊介、三木理恵子、根本涼、朝比奈宏、ワシントン=坂口幸裕、中村亮、台北=龍元秀明、ジャーナリスト・古川英治が担当しました。

【「サイバー戦争・日本の危機」記事一覧】

・戦争「武力以外が8割」 サイバー防衛、日本は法整備脆弱
・サイバー戦、命綱のWiーFi・5G 自衛隊は整備遅れる
・サイバー戦、日本は民間登用の不毛地帯 法が高給阻む
・人材・実戦経験、基盤整備を サイバー戦争インタビュー

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説

11月に行われた台湾での統一地方選挙に関しては、選挙中の中国による「白蟻作戦」が大きな問題となっていた。政府はすでに中国からとされる偽情報をチェックするシステムを導入しており、台湾では民間のNPOなどもそうした仕組みを構築している。こうした取り組みにより台湾の人々にすでに「免疫」はできているので、偽情報が選挙に及ぼす影響は大きくはないというのが大方の見方だ。翻って日本はどうだろうか。政府のみならず、社会レベルでも台湾の経験を活かして動き始める必要がある。
2022年12月23日 7:46

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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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分析・考察

「開戦前夜」というのは何の開戦前夜なのだろう。中国から台湾へのサイバー攻撃などは以前から行われており、数年前には台湾の駐大阪代表が自殺に追い込まれたほどだ。むしろ、台湾はサイバー攻撃やフェイクニュースへの対処の経験を積み、市民に何がフェイクニュースか政府が伝えるシステムを持つなど、むしろ日本が学ぶべきところが多い。台湾は目下、2024年1月の総統選挙に向け「選挙の季節」に入っている。中国は、蔡英文総統、民進党を批判したり、アメリカの台湾支持の情報を混乱させるよなフェイクニュースを多くSNSなどに投下し現政権を揺さぶる。だが「鍛えられた」台湾の市民がこれに影響されるだろうか。答えば恐らく否だ。
2022年12月23日 6:57』

https://nkis.nikkei.com/pub_click/174/XIkW5MF0ocSzVKkpuCCV5bBuKRt2z_ZoraORsGhfIzZkhUr1Y4qirOE82RgnzWLv9d95IC5qiJxpdsGUCzE9GISrO-RG81XGb1yHy7MYvzHBEQKSLoKy8bpeTU5EpldxbeTHtVMUIhHDUnqrgxbhfpX1_vEuY8BkS7WqPA14hyrP3CW-FSuZ-Nu1MX8XB68BlzGS8Ly-b73E0gCdr-9awG539Dmjr0CEQqCcrAXUzTe9xu5-7GegIhwChxcXfBfMIdS1ZFstrNGK5EI4gvq2B95sP9wnOTF0FCEYp0myZRnRt4w-WJY9l_0FInp3zZvbbFvw4KMU0EmKYDp-Cv-0DjLvMpzl1pzUHmnCkE5Jx7SGIk2L0OW_B90lUrTR1M1CGYIWjkYdPzVZjwJTxmoPwwVbu_q8JfQVX8viNQCESHzoAgTohdPF24hXP_dZu03fvggxxjsbxPLrteqi8FFVf0BYOzEqQya8AX-XgZirKg4IfZeAMKU7BtnFBI0//111571/149584/https://ps.nikkei.com/spire/