ウクライナ危機、米ロ首脳交渉の現実味 続く高官接触

ウクライナ危機、米ロ首脳交渉の現実味 続く高官接触
編集委員 池田元博
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD1829M0Y2A211C2000000/

『ロシアがウクライナに軍事侵攻して約10カ月。戦闘が長期化する中、米国のバイデン大統領はプーチン大統領と話し合う用意があると表明した。ロシアはウクライナ撤退が前提なら拒否するとしているが、米国との対話にはかねて前向きだ。危機打開へのカギとなる米ロの首脳交渉はどの程度、現実的なのか。

「もしプーチン氏が本気で戦争を終わらせる方策を探っているのなら、彼と話す用意がある」。バイデン氏は1日、訪米したフランスのマクロン大統領との共同記者会見で、米ロのトップ会談の可能性に言及した。

直近の対面会談は1年半前

仮に両氏の直接対話が実現すれば、対面なら2021年6月のジュネーブ会談以来、電話協議ならウクライナ侵攻直前の今年2月以来となる。

2021年6月、米ロ首脳会談の会場に到着したバイデン米大統領(右)とプーチン・ロシア大統領(ジュネーブ)=ロイター

ただし、バイデン氏は「プーチン氏と直ちに連絡を取るつもりはない」と言明。「戦争を終結させる合理的な方法は一つある。プーチン氏がウクライナから撤退することだ」と述べ、具体的な動きがあるわけではないと強調した。ブリンケン米国務長官も「プーチン氏が自ら始めたことをやめれば、紛争は明日にも終わる」と語り、ロシアの譲歩を促している。

対するロシアは「特別軍事作戦は当然、続けていく」(ペスコフ大統領報道官)と表明。ウクライナ撤退を条件にした米国との首脳会談には応じない構えだ。その一方で「ロシア大統領は以前も今も、そして今後も、自国の利益にかなう会談には常に前向きだ」(同)としている。

秋波を送ったロシア

実際、ロシアは米国との首脳交渉の機会を模索しているフシがある。典型例が11月中旬、インドネシアのバリ島で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)だ。ロシアのラブロフ外相は事前に「米側から首脳会談の申し出があれば検討する」と公言。結局は見送られたものの、プーチン氏のサミット出席の可能性を探っていた。

米ロはウクライナ侵攻後も、高官レベルの接触は続けている。11月にはバーンズ米中央情報局(CIA)長官とナルイシキン・ロシア対外情報局(SVR)長官がトルコで会談した。米紙報道によれば、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、プーチン氏の腹心のパトルシェフ安全保障会議書記らと接触していたという。

接触の「成果」も出ている。米政府は8日、ロシアで服役中だった米女子プロバスケットボールのブリトニー・グライナー選手の釈放を発表した。同選手は今年2月、大麻オイルを所持していたとしてロシア当局に拘束され、懲役9年の有罪判決が言い渡されていた。釈放は米ロ間の受刑者の身柄交換で実現。米側はロシアの元軍人で、「死の商人」と称される武器密売人のビクトル・ボウト受刑者を釈放した。

9日、身柄交換のため飛行機でアラブ首長国連邦のアブダビに向かうブリトニー・グライナー選手=ロシア連邦保安局提供・AP

プーチン氏は翌9日、訪問先のキルギスでの記者会見で、米ロの特殊機関の交渉により「妥協が成立した」と表明。今後も接触を続ける意向を示した。さらに、米ロのこうした交渉が「別の問題も討議する場になるとは考えていない」としつつも、「特定の雰囲気を醸成するのは間違いない」と発言。米ロ間で将来的に、ウクライナ問題などを話し合う可能性に含みを持たせている。

オバマ元米大統領はかつて米誌アトランティックのインタビューで、プーチン氏は「米国人が思っている以上に、米国との関係が重要だと信じていた」と指摘。他の首脳と違って会談前に何時間も待たされたことは一度もなく、いつも「非常に礼儀正しく、率直だった」と振り返っている。

特別な存在

好き嫌いは別にして、プーチン氏にとって米国は特別の存在なのだろう。米国は武器供与を含めて、ウクライナの最大の支援国でもある。停戦交渉をするなら、ウクライナよりも米国とすべきだとプーチン氏が考えていても不思議ではない。

7日、国内の会合にビデオ参加し、「核戦争の脅威が高まっている」と発言したプーチン大統領=AP 

「核戦争の脅威が高まっている」。プーチン氏は7日、国内の会合で爆弾発言をした。ロシアの複数の軍事基地がウクライナ軍によるとみられる無人機(ドローン)攻撃を受けた直後だけに、核報復の可能性に言及したのではないかと危惧された。だが、同氏が主に問題視したのは、米国が欧州各地に配備している戦術核兵器の存在だった。

ロシアはウクライナ侵攻直前、米欧に核問題も含めた欧州の包括的な安全保障案を提示した経緯がある。再び欧州の安保問題を呼び水にして、米国にウクライナ危機打開に向けたトップ交渉を暗に促したと受け取れなくもない。

とはいえ現時点で、プーチン氏が自ら始めた軍事侵攻を停止し、撤退に応じる可能性はほぼ皆無だ。一方、ウクライナはロシアによるインフラ施設への徹底攻撃で電力不足が深刻だが、領土奪還への士気は依然高い。英国防省によれば、ウクライナは侵攻後に占領された領土の54%を奪還したという。今後もクリミア半島を含めた全領土の奪還をめざし、反転攻勢を強める構えだ。双方とも全く、停戦協議に臨むような状況ではない。

ウクライナ軍兵士は高い士気をみせている(17日、ウクライナ東部ドネツク州で)=AP

ロシアのある軍事専門家は「どちらかが完全に敗北するまで戦争は終わらない」と予測する。米国は水面下でウクライナに停戦を促しているとの情報もあるが、当事者の意思を優先せざるを得ない。米ロは今後も水面下での接触を続けていくとみられるが、トップ会談に至る道筋はなかなか見えそうにない。

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