北京、ゼロコロナ緩和で混乱 陰性証明残り外食に制約

北京、ゼロコロナ緩和で混乱 陰性証明残り外食に制約
中国総局 川手伊織
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM121OB0S2A211C2000000/

『中国政府が新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙うゼロコロナ政策の緩和策「10条措置」を発表してから2週間近くたった。省をまたぐ移動が増えて経済活動が戻りつつある一方、首都・北京では感染が急速に広がり、10人1セットのPCR検査で陽性の疑いと出るケースが増えている。緩和後もレストラン内で飲食する際などにPCR検査の陰性証明を提示する必要があり、依然として外食など一部の接触型消費が制約されるなど混乱が生じている。

「店内飲食のサービスを再開したが、客足はなかなか戻ってこないですね」。北京中心部の商業施設にある火鍋店で働く女性はため息をつく。北京での感染急拡大を受けて11月中旬から事実上禁止されていた店内飲食がこの店では7日に再開。休日は予約で満席になることもあった店だが「再開後は常に半分以上が空席」という。感染を防ぐため外食を控える人が多いほか、「48時間以内のPCR陰性証明を提示しなければいけないという義務が外食の足かせになっている」。
10人分の検体を混ぜたPCR検査では陽性の疑いを示す「異常」が出やすくなる(検査会社の携帯アプリ)

どういうことか。中国は感染者をあぶり出すため、市民に日常的なPCR検査を事実上義務付けてきた。結果は地方政府ごとに開発した専用アプリに反映される。大量の検査をこなすため、10人分の検体を試験管に混ぜて陽性反応が出ないかどうかを調べる。1人でも感染者がいれば、その10人全員が「陽性の疑いあり」とされる。最近の感染拡大をうけ、北京では「陽性の疑いあり」という結果が続出している。自分で抗原検査のキットを入手して陰性を証明できても、PCR検査にのみ対応する北京の専用アプリには検査記録として反映できない。

北京の飲食店や室内体育施設に入る際は、48時間以内に受けた陰性証明を示さなければならない規制が残る。政府が7日に発表した緩和策は「老人福祉施設、医療機関、幼稚園・保育園、小中学校など特殊な場所を除き、PCR陰性証明などの提示を求めない」とし、上海は飲食店や娯楽施設での提示義務を撤廃したが、北京はあくまで例外のようだ。

政府関係者は「政治の中心である北京は特別だから規制が厳しいのは仕方がない」と語るが、感染拡大で限界を迎えるPCRの一括検査と陰性証明の提示義務の矛盾は明らかだ。客が外食したくてもできず、飲食店も客を受け入れたくても受け入れられない。政策の矛盾が現場に混乱をもたらす。
外国人記者にPCR検査義務付け

省をまたぐ国内移動でも、緩和策をめぐる不透明さが残る。

李克強(リー・クォーチャン)首相が9日、中国中部の安徽省黄山市で世界銀行や国際通貨基金(IMF)など6つの国際機関トップと共同で記者会見した。10人超の外国人記者が会見に参加するため、当局の指示に従って北京から同じ高速鉄道に乗り、現地の指定ホテルに到着した8日夜と9日朝に1人ずつPCR検査を受けた。「10条措置」に明記されている「省をまたいで移動する人に対してPCR検査の陰性証明などを調べず、到達地での検査も行わない」との内容とは食い違う。首相ら要人が出席するため当局が過剰に反応したとみられるが、PCR検査で陽性反応が出た記者は記者会見への出席が認められず、さらに現地での隔離を義務付けられた。

ゼロコロナ緩和に伴う混乱は今後も起こりうる。「10条措置」では「必要に応じて抗原検査を実施してよい」とした。感染拡大でPCR検査が追いつかないほか、大規模なPCR検査が地方財政の負担になっていることを考慮して抗原検査も選択肢に加えたとみられる。とはいえ緩和に伴う感染拡大で抗原検査薬も品不足に陥り、オンラインショップでは入荷待ちの状況が続く。
春節で地方に感染拡大の懸念

感染者の隔離などゼロコロナ政策の具体的な実行は、中国共産党の末端組織で日本の町内会に相当する「社区」が担う。緩和策の発表前は、10人分をまとめたPCR検査で「陽性の疑いあり」となれば、すぐに社区から追加検査などの要請があった。社区によって対応は異なるが、緩和後はPCRの一括検査で「陽性の疑いあり」となっても1人ずつのPCR検査はおろか抗原検査による再確認すら求めない地区もある。

約3週間後の来年1月7日には鉄道など交通機関が春節(旧正月)向けに特別対応を取る「春運」が始まる。春節を実家で過ごすため大都市から実家に帰省する旅客数が増える時期だ。過去2年の春節は感染拡大を抑えるため政府が帰省や旅行の自粛を呼びかけていたため、2023年の春節は久々に里帰りする人も多いとみられる。大都市の感染拡大が医療資源が乏しい地方都市や農村に広がる可能性がある。政府は高齢者のワクチン接種を促すなど対応を急ぐが、春節以降に新たな混乱が生じる懸念は拭えない。
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花村遼
アーサー・ディ・リトル・ジャパン パートナー
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今後の展望

2年前にはコロナの優等性とされていた国々で付けが回ってきています。これまでゼロコロナ政策を敷いてきた反動で、多くの国民は新型コロナの免疫がなく、春節では感染爆発が起こる可能性が出てきました。これまで多くの先進国では、ワクチンと自然感染による免疫獲得で結果的に重症化率を低くコントロールしてきましたが、どちらも機能していない中国では、最新の変異株(初期の株よりはそれ自体の毒性が強い)での重症化率が思いのほか高くなる可能性が出ています。結局、ハンマー&ダンスで、規制を緩めることと強めることを繰り返してきた国が、死亡者数を低く抑えられ、長い目で見ると成功だったと言えるのでしょう。
2022年12月19日 7:57
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

ゼロコロナ政策を転換してよかったが、ウィズコロナにするには、有効なワクチン接種が前提である。効果が低い国産ワクチンの接種を固執している現状では、各々の人はウィルスの前で判決を待つ犯人のような気分。体的に自信のある人なら、とくに問題がないが、高齢者と持病のある人は死刑の宣告を待っているもの。一日も早く外国から有効なワクチンを輸入して大規模接種を行ってほしい
2022年12月19日 8:20
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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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分析・考察

中国はもはやワクチンにも頼らない、感染拡大を事実上容認することで集団免疫を獲得し、2023年3月の全国人民代表大会までに事態を落ち着かせようとしているものと思える。しかし、感染拡大に伴って感染者は病院に押しかけ、少なからず死者もでるであろう。特に1月中下旬に春節が来ることから、一層の混乱が予測できる。元々、ゼロコロナ政策はワクチンの問題と医療体制の不備が背景にあった。その背景は今も変わらない。ゼロコロナでなければ、なんでもありというわけにもいかないであろう。医療体制を可能な限り整備するか、重病者を選別して治療する体制を作るのか、問題は次の段階に移ったということである。
2022年12月19日 7:31 』