解散風吹く2023年 岸田首相に「サミット花道論」の壁

解散風吹く2023年 岸田首相に「サミット花道論」の壁
編集委員 清水 真人
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0946V0Z01C22A2000000/

『防衛費の大幅増額と増税案の骨格を何とか示した首相の岸田文雄。政局の長期カレンダーを眺めると、2023年5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)を成功にこぎつければ、その後は衆院解散・総選挙を考えてもおかしくない。半面、政権運営を安定させないと、むしろ岸田退陣を迫る「サミット花道論」が自民党から出かねない。

24年に自民総裁選の剣が峰

「国民の生命や暮らしを守る裏付けとなる安定財源の確保は将来世代に先送りせず、いまを生きる我々が対応すべきだ。将来の国民負担は明らかなので、誠実に率直にお示ししたい。未来の世代、未来の日本に責任を果たすため、ご協力をお願いしたい」

岸田は16日の記者会見でこう訴え、1兆円強の防衛増税案の実行に強い意欲を見せた。与党税制改正大綱で骨格は示したが、実施時期は玉虫色。この日は全閣僚と個別に面会し、異論を唱えた経済安全保障相の高市早苗や経済産業相の西村康稔にクギを刺した。増税を争点とする衆院解散・総選挙は「全く考えていない」と打ち消す。 

「岸田さんにとっては黄金の3年間ではなくなった。場合によっては、来年5月の広島サミットの後くらいに(衆院解散・総選挙の)チャンスを狙うしか方法がなくなってきている。このままジリ貧に陥るよりは何か(したい)と考えるだろう」

立憲民主党最高顧問で元首相の野田佳彦は11月2日のラジオ日本の番組で、内閣支持率が下落し、臨時国会でふらついた岸田の23年の政権運営をこう占って見せた。

3年後の25年7月の参院改選議員の任期満了と、同年10月の衆院議員の任期満了まで大型国政選挙の予定はない。その頃まで安定政権が見込める「黄金の3年」説もあったが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題などで、マスメディア各社による世論調査の内閣支持率は総じて30%台で低迷。最近では「地獄の3年」(日本維新の会代表の馬場伸幸)の局面反転の切り札として、抜き打ちの解散を野党は警戒する。

そもそも「黄金の3年」を決め込み、任期満了の年まで衆院選を持ち越すのは、時の首相から見てハイリスクだ。25年まで衆院選を待てば、同年夏の参院選は決まっているため、選挙時期は夏の衆参同日選の一本に事実上、絞られてしまう。この年に内閣支持率の下落などで政権運営が下り坂をたどっていれば、もはや衆院選を先に延ばす逃げ道は封じられ、「追い込まれ選挙」になりかねない危うさをはらむ。

21年に前首相の菅義偉は衆院の任期満了を目前に退陣を強いられた。それも支持率下落でこの悪い流れにはまったためだ。俗に「首相の専権事項」と言われる解散。国民に信を問う大義名分は求められるが、衆院選の時期を自由に選べることこそ、最大の妙味だ。では、岸田はいつその機を狙うのが合理的なのか。

「現総裁任期中に改憲」の公約

茂木幹事長はポスト岸田の有力候補の一人だ(8日、東京・永田町)=共同

政局カレンダーを25年から逆算してみると、24年9月に自民党総裁選が控える。岸田が再選されれば、2期6年の在任が視野に入る。長期政権を見据えた剣が峰はここだ。たとえば、幹事長として今は岸田を支える茂木敏充は、65歳の岸田に対し、年長の67歳だ。次の総裁選に挑戦しなければ、第2派閥の領袖として後がない。

最大派閥の安倍派も不安定要因だ。総裁選に向けて政調会長の萩生田光一、経産相の西村康稔、参院幹事長の世耕弘成らが次の領袖の座を争う。元首相の安倍晋三の「遺志」に誰が最も忠実かを競うあまり、防衛増税で反対論の震源地となった。最大派閥を維持して総裁候補を立てるのか、割れて党内秩序が流動化するのか。これも第5派閥の領袖にすぎない岸田の権力基盤を揺るがす。

最大派閥の安倍派では自民総裁選に向けて萩生田政調会長らによる後継領袖争いが続く(11日、台北市)=共同

そんな総裁選での再選に向け岸田が主導権を握る一手。それは総裁選前に解散権を行使し、衆院選で自民党を勝利に導くことだ。勝利の後に総裁選となれば、「岸田おろし」の大義名分は探しづらくなる。そう考えると、24年前半の衆院解散・総選挙が浮かぶかに見えるが、さらに考慮を要するのは憲法改正に関する岸田の「公約」だ。

「時代の変化に対応した憲法改正を進めていくべきだ。自民党が掲げている自衛隊の明記などの4項目は、どれも現代的な意味で重要な課題で、次の総裁任期中に改正の実現を目指し、少なくともメドはつけたい」

これは21年9月17日、総裁選の候補者による共同記者会見での岸田の発言だ。今年7月の参院選直後の会見で「できる限り早く改憲発議に至る取り組みを進めていく」と強調。10月18日の衆院予算委員会で「私自身、総裁選を通じて、任期中に憲法改正を実現したいと申し上げてきた。その思いは全く変わっていない」と繰り返した。

これだけ現総裁任期中の「改憲の実現」を口にしながら、具体的な成果がゼロでは党内保守派などから「公約違反」を問われかねない。24年9月の総裁選までに最終関門の国民投票までは行けなくても、目に見える「メド」が求められる。24年前半の通常国会で改憲発議にこぎつけるか、少なくとも、改憲原案を提出するなどの取り組みだ。ここまで前進すれば、保守派からの「岸田おろし」への抑止効果も期待できる。

迫り来る防衛増税や高齢者負担増

このように改憲論議を加速するにも、先に衆院解散・総選挙で国民に信を問うことが必須だとの声が党内で根強い。衆参両院で改憲発議に必要な3分の2以上の勢力を確保したうえで、事と次第では立民や共産党など改憲に慎重・反対の野党を押し切ってでも動く。そう腹をくくるには、衆院選での信任が不可欠というわけだ。

この改憲シナリオに従えば、24年前半の通常国会で改憲原案の提出や発議を目指すために、その前の23年中にも衆院解散・総選挙を断行する選択肢が浮かび上がる。

さらに最終決着を持ち越す防衛増税も「24年以降」の段階的実施を想定する。24年度からは全世代型社会保障改革の一環で、一定以上の収入がある75歳以上の後期高齢者の医療保険料の引き上げを見込む。65歳以上の介護保険料の一部上げも検討。これらの負担増も、それに先立つ23年中の衆院解散・総選挙の誘因となりうる。

ここまで政局カレンダーを逆算してきた。次に足元から23年の政治日程を見てみよう。岸田は1月召集の通常国会で、23年度予算案の3月中の成立に全力を挙げる。春闘での賃金引き上げは「新しい資本主義」の核心だ。4月8日に任期満了となる日銀総裁の黒田東彦の後任を、国会の同意を得て任命する。4月には岸田の求心力を左右しかねない統一地方選も控える。5月19~21日の広島サミットまで息つくいとまもない。

4月のこども家庭庁発足を踏まえ、岸田は年央に閣議決定する予算編成の指針「骨太の方針」で「こども予算の倍増を目指すための道筋を示す」という。これら外交、内政両面での政策課題の推進と並行して、自民党内では衆院の「10増10減」の定数是正に伴う公認候補の調整作業も急ぐ。衆院議員は解散をいや応なく意識する。

「国際賢人会議」の閉会セッションに出席後記者団の質問に答える岸田首相㊧(11日、広島市)=共同

野党陣営の立民と維新は国会では共闘するものの、政権交代を目指して大同団結するまでの迫力は見えない。岸田がサミットまでたどりつけば、その後はいつ解散を考えても不思議のない「常在戦場」となる。ただ、政権運営を立て直せず、支持率の低迷も続くようなら、もはや「選挙の顔」たりえないとして「サミット花道論」が与党内から強まりかねない。綱渡りの政権運営が続く。=敬称略 』