米国とロシア「パトリオット」で駆け引き 長期関与巡り

米国とロシア「パトリオット」で駆け引き 長期関与巡り
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『【ウィーン=田中孝幸】米国の長距離地対空ミサイル「パトリオット」を巡って、ウクライナへの提供を検討するバイデン米政権とロシアが駆け引きを強めている。ロシアは、ウクライナが求めてきたパトリオットの提供は「挑発行為」になると反発している。供与の有無は、米国のウクライナへの長期的な関与の意思を映すとみなされているためだ。

パトリオットは航空機、巡航ミサイル、短距離弾道ミサイルを迎撃する機能を持つ。運用するには90人ともされる多数の要員が求められ、ミサイルや補修部品の補給体制も整えなければならない。複雑なミサイル防衛システムを運用するための訓練にも通常、数カ月が必要になる。

このため提供が決まっても、実戦で効果的に使われるのは来春以降になる可能性が高く、冬場の厳しい戦いには間に合わない。ロシア軍は10月以降、厳冬期を迎えるウクライナを困窮させるために同国のエネルギーインフラの破壊を目指しており、16日も各地の関連施設を数十発のミサイルで攻撃した。国営エネルギー会社ウクルエネルゴは同日、被害により同国の電力消費量が半減したと明らかにした。

運用が始まっても、十分に迎撃能力を発揮できるか不安は残る。すでに米国が提供して運用が始まったミサイル防衛システム「NASAMS」と比べ「パトリオットは機動性が低いうえ運用コストが高く、激戦地で戦うウクライナ軍のニーズに即していない」(欧州外交評議会のグスタフ・グレッセル上級政策フェロー)との見方も多い。

それでもウクライナがパトリオットの供与にこだわるのは、米国との同盟関係の構築を急いでいるためにほかならない。

これまで米国がパトリオットを提供したのは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本、サウジアラビア、イスラエルなど軍事同盟を結んでいる国が大半だった。万が一、敵対的な国の手に渡る事態になれば、自国の安全保障を脅かしかねないためだ。

このため、米国が初の供与に踏み切れば「ウクライナに対する長期的な信頼の証」(ウィーンの西側外交筋)とみなされる。米国とNATOを介した軍事同盟を結ぶことで安全保障を確保するというゼレンスキー政権の長期戦略を進める上で、大きな一歩になる。

ウクライナを自らの勢力圏におさめることを国家目標とするロシアは猛反発している。パトリオットの供与が決まれば「ロシア軍の正当な標的になる」(メドベージェフ前大統領)との威嚇を繰り返している。

米国防総省のライダー報道官は15日の記者会見で「米国の安全保障支援がロシアのコメントに左右されることはない」と強調。米軍によるウクライナ軍兵士への同国外での訓練を来年1月から拡大すると発表した。一方で、訓練内容は未供与の武器ではなくNASAMSなど配備済みの兵器の使用に重点が置かれると語った。

ロシアとの対立の先鋭化を避けるために、米国がパトリオットの供与を土壇場で見送るとの観測も消えていない。当面の迎撃能力の向上に向けて「パトリオットよりもNASAMSの供与や訓練の拡大に集中するのも有効な選択肢になる」(NATO関係者)との声も漏れる。

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