ラガルド発言が市場揺らす 世界株安、利上げ不況警戒

ラガルド発言が市場揺らす 世界株安、利上げ不況警戒
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『米欧中央銀行の政策決定を受け、15~16日に世界で株安が進んだ。インフレと景気の両にらみの局面に入り、各中銀は利上げ幅を縮小したものの、インフレこそが問題という姿勢は堅持した。市場は過度な引き締めによる不況への警戒を強めている。中銀と市場の「溝」が鮮明になり株価の乱高下につながり始めた。

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15~16日の日米欧の株式市場では、日経平均株価や米ダウ工業株30種平均が前日比2%安と大きく下げた。欧州では独株式指数DAXが3%を超える下落となった。

発端は欧州中央銀行(ECB)が15日に公表した声明文だ。「安定したペースでの大幅利上げをまだ続ける必要がある」と明記し、23年の物価上昇率の見通しは6.3%と9月時点の予測から0.8ポイント引き上げた。

ラガルド総裁は記者会見で「ECBが方針を転換したと考える人は間違いだ。転換したわけではなく揺らいでもいない」と、利上げ幅を0.5%に縮小したことを引き締め減速局面に入ったと受け取られないようにクギを刺した。

市場ではラガルド総裁が「かなりの(利上げに積極的な)タカ派に転じた」(オランダINGグループ)とショックが走った。ユーロ圏の物価上昇率は11月に10.0%と1年5カ月ぶりに減速した。景気も厳しいためにハト派に政策転換するとの期待が強まっていた。

仏ソシエテ・ジェネラルのアナトリ・アネンコフ氏は「インフレ率が(2%)の目標近辺に落ち着く見通しが立つまでECBが制限的な政策姿勢を放棄する可能性はない」と解釈し、到達金利の予想を3%から3.75%へ引き上げた。

中銀のタカ派姿勢は、14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも鮮明になった。FOMC参加者は利下げに転じるのは24年との予測を示し、23年後半を見込む市場の観測と異なった。

市場では「引き締めすぎ」による景気不安が強まった結果、経済指標への反応が変化してきた。景気が悪いと引き締めが緩むと期待して株価が上がる「悪いニュースは良いニュース」から、指標の悪化に株安で反応する「悪いニュースは悪いニュース」となってきた。

15日発表の11月米小売売上高は前月比0.6%減と今年最大の落ち込みを記録し、米株の下落につながった。中国国家統計局が同日公表した11月の小売りや工業生産統計も鈍化を示し、仏高級ブランドのエルメスが前日比5%安となるなど世界の消費関連株が大きく売られている。

米国では、政策金利見通しについてFOMCの予測と市場予測の乖離(かいり)が鮮明だ。FOMCは到達金利を5.1%と予想するが、市場の織り込みは5%以下で、23年後半利下げ観測も残ったままだ。「タカ派的なFOMCの予測を『ほえるだけでかまない犬』であるかのようにほとんど無視している」(米調査会社SGHマクロ・アドバイザーズのティム・デュイ氏)

理由の一つは市場が物価の急速な鈍化シナリオにこだわり、FRBの利上げ継続の必要性は薄れるとみていることにある。市場はインフレの鈍化には「楽観的」で景気悪化には「悲観的」、中銀はその逆という構図になっている。

野村証券の松沢中チーフ・ストラテジストは「市場はFRBが利上げを停止すれば、半年から1年後には利下げという比較的最近の経験則に基づき、物価上昇率の鈍化を受けて利下げまで織り込んでしまった」と指摘する。現在のインフレは1980年代以来の圧力で、沈静化に予想以上に時間がかかる可能性があることへの警戒が乏しい。

米欧の労働市場の逼迫感は強い。景気の厳しいユーロ圏でも10月の失業率は6.5%と過去最低水準で人手不足が顕著だ。市場の楽観的なインフレ見通しが誤っているならば今後、株安が加速しかねない。(篠崎健太)

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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分析・考察

中銀と市場の「溝」は労働市場に関する認識の差にある。
通常の景気後退局面では失業が増大、賃金上昇圧力は鈍る。
しかし、足もとの欧米ではコロナ禍も影響し、労働需給はタイト。ユーロ圏でも、失業率は統計開始以来の最低水準、求人に対する欠員率も記録的な高水準だ。
ECBが、昨日示した見通しで、景気後退を「浅く短い」と予測した理由の1つは雇用の堅調さにある。景気が後退しても、労働市場の調整は欠員率の低下から始まり、失業の増大は軽微に留まる。むしろ、この局面で、高インフレへの強い姿勢を示さなければ賃金インフレに拍車を掛けかねないと懸念する。
市場と中銀の判断のどちらが正しいのか。来年には答えが出てくる。
2022年12月16日 13:24 』