選挙を阻む「民主主義」~タイにおける権威主義とその現在

選挙を阻む「民主主義」~タイにおける権威主義とその現在
https://www.nippon.com/ja/in-depth/a08601/

 ※ 今日は、こんな所で…。

『 青木(岡部) まき 【Profile】

「国王が、選挙とクーデターとを等しく政権交代の手段として認める」。これが、タイが長年保持してきた政治のロジックだ。現在も事実上の軍事政権下にある同国で、完全な民主化に向かう道すじは描けていない。

軍事政権に乗っ取られた選挙

2014年5月の軍事クーデタ―以来、タイは実質的に軍事政権の影響下にある。19年には民政復帰をうたって国会総選挙が行われたが、軍事政権は自らに有利に設計された選挙制度の下でパラン・プラチャーラット党(PPRP)を形成し、政党として国会に進出した。PPRPは他党と連立を組み、軍事政権の首班であったプラユット・チャンオーチャー元陸軍司令官を首相に指名して権力の座に留まった。

事実上の軍事政権に反対する人々は、完全な民政復帰を求め抵抗を続けている。下院は、憲法の規定に基づき23年3月に任期満了を迎え、5月までには選挙が行われる予定だ。次期選挙では野党タイ貢献党の優勢が予想されるが、PPRPが権力に留まる可能性は否定できない。19年に公正な選挙を妨げた要因が依然として存在するためである。

前回の下院選挙では、憲法裁判所が野党に不利な判断を下し、選挙から退場させることが続いた。次回タイ貢献党が無事に選挙に臨み下院の過半数に迫ったとしても、自党から首相を出すのは難しい。現行の制度では、首相指名選挙は民選の下院議員500名と、軍事政権が任命した上院議員250名を合わせた両院合同会議で行われる。PPRPは単独か連立で下院の126議席を確保すれば、両院合計の過半数議席を得て首相を指名できる。「政府が自由で公正な選挙で選ばれるか否か」で政治体制を権威主義と民主主義に分類するのであれば、タイは当面のあいだ権威主義体制として留まるだろう。

「国王を元首とする民主主義体制」下での選挙

現在のタイは、選挙を統治の仕組みとして取り込んだハイブリッド型の権威主義体制である。しかし、かつてタイでも選挙による政権交代が安定的に行われ、民主主義が定着したと言われた時代があった。図1は「民主主義の多様性」(Varieties of Democracy)プロジェクトが作成したタイの「民主主義指標」の推移を示したものだが、1992年から2005年の間は、公正で自由な選挙の実施を示す「選挙民主主義」指標をはじめ、すべての指標で過去40年のうち最高のスコアを記録していたことが分かる。

タイの「民主主義指標」の推移

奇妙なことに、タイはこの「民主主義の時代」以前から現在に至るまで一貫して「国王を元首とする民主主義体制」という体制を称している。観察される政府の行動は異なるにもかかわらず、タイ政府が自称する政治体制に変化はない。筆者は、現在の権威主義化の契機が1970年代末から90年代にかけて確立したこの「国王を元首とする民主主義体制」にあると考える。

「国王を元首とする民主主義」とは何か。タイ政治研究者の玉田芳史は選挙とクーデターとを等しく政権交代の手段として認めるロジックだと分析する。これは1959年に成立したサリット・タナラット軍事政権(59-63年)が提唱し、78年からは歴代の憲法にタイの政治体制として明記されてきた。国王は議会政治の混乱が深刻化するとクーデターによる政権交代を認め、民政復帰を委ねるかたちで軍事政権に正当性を与える。しかし国民の軍政に対する批判が高まると、国王は民主化勢力を支持して軍の退場を促してきた。

この体制は、「民主主義の擁護者」としてふるまうラーマ9世プミポン・アドゥンヤデート国王の存在と、国王に対する国民の支持との上に成立してきた。プミポン国王は、73年の市民によるタノーム軍事政権退陣要求運動(10月14日事件)や、92年のスチンダー軍事政権と民主化要求勢力との衝突(暴虐の5月事件)といった政治的危機に際し、関係する各勢力に事態の収拾を呼びかけ、民政復帰を促すことで国民から絶大な支持を得た。同国の政治学者カシアンは、プミポン国王が国軍、政党政治家、財界といったエリート間のバランサーとなることでその地位を維持してきたと指摘し、この体制を「プミポン・コンセンサス」と呼んだ。

90年代はタイで選挙による政治交代が最も安定的に行われた時代だった。しかし歴史学者のトンチャイは、当時の政治体制を「一見、議会制民主主義の体裁をとるが、実際には選挙によって選ばれた権力が、王室およびその支持者の政治的な影響と積極的な介入の下に置かれていた」と指摘し、「王党派民主主義」(royal democracy)と呼んだ。この時代は国王の介入を要する事態が発生しなかっただけであり、国王の権限に法的制限が加えられることはなかった。むしろ国民は政治介入する国王を「民主主義の擁護者」として支持したとトンチャイは強調する。

トンチャイやカシアンの批判を踏まえれば、90年代のタイの選挙民主主義はそれ自体で存立したのではなく、国王、国軍、国民をはじめとする政治勢力の均衡の下に成り立つ限定的な政治体制だったということになろう。

二つの「民主主義」の対立

「国王を元首とする民主主義体制」は、選挙による政権交代を認めるものの、クーデターや国王の政治介入を制限するものではなかった。選挙とクーデターの相克関係が露呈したのが、2000年代の政治対立であった。そのきっかけとなったのが、タクシン・チンナワット元首相である。タクシンは、多数派である低所得層や地方住民をターゲットに分配政策を訴え、2度の国政選挙で地滑り的勝利を果たした。

タクシンの支持者は、自分の求める政策を選ぶ手段として選挙を重視するようになった。対照的に数で劣る中間層や都市住民は、タクシンが選挙制度を濫用して多数派を形成し、自分たち少数派を排除していると考えた。そして「衆愚政治化」した選挙を否定し、「悪しき」民選政権を排除して国王の政治介入を求めた。タクシンの「数の政治」は、官僚・国軍や王室、王室を支持する上層の目に「国王を元首とする民主主義」下の均衡を崩す脅威として映った。彼らは反タクシン派に加担し、2度の軍事クーデターと3度の憲法裁判所判決でタクシン派政権を排除した。

14年の軍事クーデターは、それまでの勢力均衡を超えて拡大した選挙民主主義勢力を抑え込み、「国王を元首とする民主主義体制」を安定させることを責務としていた。クーデター政権下で公布された現行の2017年憲法は、憲法改正手続きを厳格化したうえ、大政党の成立を難しくする選挙制度や軍事政権に有利な首相指名制度を導入した。そしてプラユット軍事政権は政党に衣替えし、選挙によって選挙民主主義を抑制しようとした。

しかし、プラユット政権によるこうした露骨な政策はかえって現体制への反感を喚起し、王室を含め政治体制を改革しようとする勢力を新たに生み出した。20年に激化した若年層による反政府運動は、「国王を元首とする民主主義体制」に真っ向からノーを突きつけ、法の支配の貫徹と自由で公正な選挙を求めたのである。

選挙民主主義安定への見通し

プラユットやPPRPは与党として議会を支配すると同時に、反政府運動を司法と暴力で抑圧した。強大化した選挙民主主義勢力を国会の内外で抑え込み、「国王を元首とする民主主義体制」の安定を目指す方針は今も継続している。2023年の下院選挙が迫るなか、プラユットやPPRPは政権維持を目指し活動を活発化させている。しかし、仮にプラユットや選挙でPPRPが政権に留まったとしても、その権力には「タイムリミット」がある。

現行の2017年憲法は、首相指名に上院が加わる仕組みを5年間の経過的措置と規定する。19年の総選挙後に国会が初招集された日から起算すれば、24年5月には下院議員のみで首相選出が可能になる。過去に選挙で圧倒的な強さを示してきたタクシン派の流れを汲む野党タイ貢献党にとって、居ながらにして政権奪回のチャンスが回ってくるのだ。制度が変更されれば、同党は下院だけで首相を選び直すべく、内閣総辞職や解散・総選挙を要求するであろう。

もしタイ貢献党が政権を奪還した場合、タイは再び選挙による政権交代が安定的に続く時代に戻れるだろうか。残念ながらその見込みは薄い。クーデターによる政権交代や国王の政治介入の余地がまだ残されているためである。16年にプミポン国王が死去したのちも、タイは依然として「国王を元首とする民主主義体制」を掲げてきた。現行の憲法の下では、国民が望んでいると判断すれば国軍はクーデターで政治に介入し、国王がそれを承認して国軍に権力を委任する可能性は否定できない。

それを防ぐためには、憲法によって国王の権限を制限し、クーデターを違法化して国軍の介入を阻止することが必要である。こうした措置がなければタイの選挙民主主義は自立できず、国王や国軍の許容する範囲で限定的に行われるものに留まり続けるだろう。20年の反政府運動が主張したように、王室を含む政治体制改革なくしてタイの選挙民主主義は安定しえない。

しかし、現在国会内でこうした政治体制改革を求める勢力は少数派である。PPRPとその連立パートナー政党はもちろん、タイ貢献党も王室を含む政治体制改革については一貫して慎重な姿勢に留まってきた。21年に憲法裁判所が反政府活動家に対し「国王を元首とする民主主義体制」の破壊を禁じた憲法49条違反の判決を下したことで、改革を主張するリスクは一層高まった。選挙戦で政治体制改革を前面に打ち出せば、違憲判決で解党される可能性もある。タイの選挙民主主義を安定させるための処方箋はシンプルだが、その実現への道は遠く長いものになるだろう。

バナー写真:タイでのAPEC首脳会議開催に合わせ、プラユット首相の退陣を求めて三輪タクシー(トゥクトゥク)の隊列を組んで抗議デモをする市民ら=2022年11月15日、バンコク市内(AFP=時事)

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民主主義 タイ 権威主義
青木(岡部) まきAOKI – OKABE Maki経歴・執筆一覧を見る

日本貿易振興機構アジア経済研究所 地域研究センター動向分析研究グループ長代理。専門は国際関係論、タイ・東南アジアの地域研究。東京女子大学卒、東京大学総合文化研究科博士課程を単位取得退学。タマサート大学政治学部客員研究員などを経て現職。』

自民党と国民民主党の連立政権構想、実現の可能性

自民党と国民民主党の連立政権構想、実現の可能性…岸田政権、財務省依存の末路
https://biz-journal.jp/2022/12/post_329602.html

『12月2日に時事通信が報じた「国民民主党、連立入り」報道が話題になっている。これは岸田文雄政権の窮余の一策として、自民党が公明党との連立政権に国民民主党を組み込もうと動きだしたというもの。報道によると自民、国民両党幹部はこれまで極秘に接触を重ね、岸田首相も連立構想に「ゴーサイン」を出し、玉木雄一郎・国民民主党代表も腹を固めたなどと報じられた。“死に体”の岸田首相の奥の手が国民民主党との連立だった、ということで永田町はちょっと騒めいたのだ。

 だが、騒めきが「ちょっと」だったのは、この奇手、タネがバレバレのへたくそなマジックみたいなものだったからなのだ。それは岸田政権、国民民主がお互いに秋波を送り合っているのは周知の事実だったからである。実際、今年に入ってから自民党は、ガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除を唱える国民民主に配慮。国民民主が自民案に賛成するなど、他の野党とは一線を画した行動を取っていたからだ。

 連立報道について、岸田首相は「まったく知らないし、考えていない」と否定し、国民民主の玉木代表も「報道のような事実はない。野党の立場で、是は是、非は非、ということでやっていく」と否定した。しかし前述のように国民民主が野党でありながら、今年度の本予算や第1次補正予算に続いて、第2次補正予算にも賛成しており、岸田政権と近くあろうとしていることは周知の事実なのだ。
財務省コネクション

 実は国民民主に対する連立打診も今回が初めてではない、と永田町ではいわれている。1年前くらいから、岸田首相の切り札は国民民主だということは知られた話だったのだ。

 なぜ、国民民主との連立なのか。要は単純な話なのである。岸田首相の懐刀といわれている木原誠二・官房副長官と玉木代表が東大法学部の同窓で、1993年に旧大蔵省(現財務省)入省の同期というつながりからコネクションが深いということなのだ。また、国民民主の古川元久氏(国対委員長)は88年に同省入省というつながりもある。つまりお友達に、この苦境を打開したいと相談しているということでしかない。財務省コネクションによる発案であり、岸田政権を下支えしている財務省本体もこの話をバックアップしているともいわれている。

 また。玉木氏は自民党の故・大平正芳の選挙区を継いだ議員でもあることもポイントとなる。大平氏は元大蔵官僚であり、政治家に転じてからは宏池会会長も務めた大物政治家だった。そして玉木氏とは縁戚関係にあり、地盤を引き継いだという関係がある。つまり玉木氏は財務省だけではなく、宏池会色もあるわけで、現在の宏池会の領袖でもある岸田首相にとってアレルギーがないともいわれている。

 口の悪い自民党関係者は「官僚出身者の浅知恵」と連立話をバッサリと斬り捨てる。つまり連立話は岸田首相の人脈、そして政治力のなさを浮き彫りにするものだからだ。そして「財務省政権」「官僚政権」などと呼ばれる岸田政権が、いかに財務省に依存しているかを示すものでしかないからだ。

 連立は岸田首相にとってどのようなメリットがあるのか。国会において数を少し増やすというメリットはある。もしかしたら岸田政権と距離を置きつつある公明党に対するけん制という意味合いもあるかもしれない。しかし、世間的には大きなインパクトはない。

 これまで自民党と連立を組んだ野党は、社会党をはじめ軒並み衰退したという歴史がある。生き残っているのは創価学会が母体となっている政党である公明党だけ。つまり国民民主にとっては、連立は党の存亡をかけた決断となる。それでも話が消えないのはナゼか。

「玉木代表は“大臣になりたい病”で連立に常に前向きだからです。岸田首相が重量級の大臣ポストを約束すれば、玉木氏が連立話に乗る可能性は極めて高いとみられています」(政治部記者)

利害が一致した国民民主と岸田首相

 議席数が少ない国民民主にとって、現状を打開するには2つの選択肢しかないとされてきた。「日本維新の会」と合流して強い野党として生き残るか、連立を組んで自民に合流するかの二択。かつての民主党として一緒だったものの、いくつかの禍根を残して袂を分かつことになった立憲民主党と協力するという案はないとされている。

 だが今年に入って玉木氏の与党への秋波が強まったせいで、維新サイドは国民民主との連携に興味を失って行く。2月には国民民主が衆院本会議で政府の新年度当初予算案に賛成したことについて、日本維新の会の松井一郎代表(当時)は「連立を目指しているんだなということがひしひしと伝わってきた。与党になるというなら、もう連携はできない」と厳しく批判したのだ。そして連立報道が出た後も、維新・現代表の馬場伸幸氏が「国民は、完全に与党としての動きをしている。中途半端なことはやめ、与党入りすればいいのではないか」と突き放した。つまり国民民主は常に与党に秋波を送っていたことで、彼らにとって残されたカードは連立入りしかなくなったともいえる状況下にあるのだ。

 一方で岸田首相も同じような苦境にある。山際、葉梨、寺田氏が相次いで沈没と大臣辞任ドミノとなり、支持率は30%台を切るのも時間の問題といわれている状態にある。

「政治とカネの問題で辞任した寺田総務大臣の後任が松本剛明氏だったことで、大臣のなり手がいないことが露呈した。松本氏は民主党出身の外様だったからです。菅義偉氏が入閣にまったく興味を示さないように、おそらく自民の重量級議員は泥船に乗るつもりがなく、岸田政権と距離を置き始めているので、松本氏しかいなかったとみられています。

 同じことが国民民主との連立案についてもいえます。もはや自民をコントロールする力は岸田首相にない。そこで大臣を餌に国民民主を呼び寄せれば、木原官房副長官の存在もあり当面は岸田首相のいうことを聞いてくれる便利な道具、コマとなってくれるわけです」(前出・政治部記者)

 つまり国民民主と岸田首相は利害が一致した関係にあるのだ。果たして国民民主との連立構想が、支持率の低迷に歯止めがかからないダッチロール中の岸田政権にとって、起死回生の一手となるか。本当に連立が実現するかも含めて注視していきたい。

(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)

赤石晋一郎/ジャーナリスト

南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。

日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、4月9日発売「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note https://note.com/akaishi01

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ロシア資源と中国の巨大市場に依存、なぜ欧州の経済成長モデルは崩壊を始めたのか?

ロシア資源と中国の巨大市場に依存、なぜ欧州の経済成長モデルは崩壊を始めたのか?
https://biz-journal.jp/2022/12/post_329754.html

『欧州はドイツを中心に長年にわたりロシアとの経済関係の緊密化を進めてきたが、ウクライナ戦争を契機に一転してエネルギー制約という危機に直面している。欧州によるロシア制裁の報復としてガス供給が停められたからである。欧州が消費する天然ガスのロシア依存率はウクライナ戦争前の2021年には45%にも達していたが、これだけの量を他の地域で代替するのは厳しい。欧州は中東産油国からの液化天然ガスに切り替えようとしているが、LNG船の建造、港湾のLNG設備構築など容易ではない。

 なぜここまで欧州はロシアへのエネルギー依存を高めてきたのだろうか。それをリードしたのはドイツであるが、フランスも同じく欧州の大国は、もともと欧州の安全保障の構築にはロシアの参加が不可欠という伝統的な考え方を有しており、米ソ冷戦の時代ですら、ブラント西独首相のようにNATOとワルシャワ条約機構を解体して、新たな欧州安全保障体制の構築を夢見た政治家もいたくらいである。

 近年、とみにドイツとロシアの関係強化が進んだきっかけは2003年の米国によるイラク侵攻であり、国連の承認を得ないで軍事侵攻した米国にシュレーダー独首相が異議を唱えて、ドイツは多国籍軍に参加しなかった。これに怒った米国との関係悪化が結果的にシュレーダー首相をプーチンに接近させて、ノルドストリームの建設というプロジェクトにつながっていった。シュレーダー後もメルケル首相がプーチンとの良好な関係維持に努め、ノルドストリーム2の建設にまで進展していった。

新冷戦への移行

 一方、インド太平洋地域では中国が法の支配の否定、力による一方的な現状変更、台湾武力侵攻を示唆しており、国際社会で中国への警戒感が急速に高まっている。2017年の中国共産党大会で習近平総書記が建国100年の2049年までに社会主義現代化強国、すなわち世界の覇権国家になると発言するなど、露骨に米国から覇権を奪う姿勢を示したことから、それを境に米国の対中スタンスは一変し、1972年のニクソン訪中以来続けてきた対中関与政策の停止に踏み切った。それ以降、先端技術、重要な戦略製品・部品、ソフトの中国向け輸出禁止や中国企業の排斥などを進めている。

 欧州も中国の新疆ウイグルでの人権侵害、香港の民主派弾圧は看過できないものであり、また、インド太平洋地域の安定は世界の安定にも直結するとして、日米との合同軍事訓練への参加、独半導体企業の中国への売却禁止の決定など、専制国家中国との経済関係の見直しを進めている。

 しかし、ウクライナ戦争と米中覇権争いの結果、ポスト冷戦が終わり、新冷戦への移行が決定的となった。その結果、欧州がこれまで築いてきた独自の成長モデル、すなわちノルドストリームに代表されるエネルギー源をロシアの天然ガスに依存し、生産された工業製品の輸出先として巨大な中国マーケットを想定する欧州成長モデルの崩壊が避けられなくなった。欧州経済にとっては長期的視点から由々しき事態である。

 また、足元では物価上昇率が2桁に達するなどインフレが加速、ECBの金融引き締めも強化されており、欧州経済は極めて厳しい状況に直面している。皮肉にもロシア制裁の直接の被害者は欧州自身だとして、市民、政府、EU加盟国間でも不協和音が高まりつつある。EU加盟国政府は連立政権が多く、外的ショックがあると、意見対立から政局不安に陥りやすい。ウクライナ戦争は欧州に経済的打撃だけでなく政治情勢の不安定化をも持ち込むことになった。この混乱は容易には解決しそうにないと思われる。

(文=中島精也/福井県立大学客員教授)

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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習近平、アラブとも蜜月 石油取引に「人民元決済」

習近平、アラブとも蜜月 石油取引に「人民元決済」
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20221213-00328150

『12月7日からサウジを訪問した習近平は湾岸協力会議やアラブ諸国首脳との会議に出席し、人民元決済に意欲を示した。これで習近平は上海協力機構、BRICS、ASEANやアフリカだけでなく中東をも引き寄せたことになる。

◆サウジアラビア、習近平への破格の歓迎

 12月7日、習近平が乗った専用機がサウジアラビア(以下、サウジ)の領空に突入すると、サウジ空軍の戦闘機4機が護衛のため離陸した。 専用機がサウジの首都リヤド上空に入った瞬間、今度は6機の「サウジ・イーグル」護衛機が習近平の専用機に同行した。

 習近平がリヤドのキング・ハーリド空港に到着すると、空港では 21 発の敬礼が鳴り響き、サウジ護衛機が空中に中国国旗を象徴する赤と黄色の帯模様を描いた。習近平がタラップを降りると、紫色の絨毯の両側に儀礼の兵士が並び、中国とサウジの国旗をはためかせた。リヤド州知事、ファイサル外務大臣、中国担当大臣、その他の王室の主要メンバーと政府高官が出迎えた。

 護衛機の模様は、こちらの動画で見ることができる。

 今年7月にバイデン大統領がサウジに着いた時は、駐米サウジ大使や州知事だけでタラップを降りた後も閑散としていたことと比較して、台湾のネットテレビは「大笑い」している。特にカービー報道官が記者団に対して、「中国は国際的なルールに基づく秩序の維持に資しない方法で中東における影響力のレベルを深めようとしている」=「中国は中東に影響力を与えることによって国際秩序を乱している」と述べたとして、番組では「アメリカの利益を損ねただけで、別に国際秩序を乱してはないんじゃないか」と皮肉っている。

 バイデンはサウジに石油の増産を頼んだが、サウジは逆に激しい減産を決定したので、アメリカの影響力が損なわれていることへの苛立ちはあるだろう。

◆中国・サウジ間の包括的戦略パートナーシップ

 8日はサルマン国王と会い、両国間における包括的戦略パートナーシップ協定への署名を行い、2年ごとに首脳会談を実施することで合意した。その後、習近平はムハンマド皇太子とともに、12件の2国間協定・覚書の締結に立ち会った。主な内容には以下のようなものがある。

 ●サウジアラビアの「ビジョン2030」と中国の「一帯一路」構想との協調計画。

 ●両国間の民事、商業、司法支援に関する協定や直接投資奨励の覚書。

 ●中国語教育への協力に関する覚書。

 その他、Saudi Press Agencyの報道によると、サウジと中国の会社は34の投資協定にサインしている。デジタル経済や情報通信技術分野を含み、ファーウェイ製品を使うことも約束されている。

◆石油人民元決済の展望

 9日、習近平はリヤドで、湾岸協力会議首脳やアラブ諸国首脳との会議に出席した。中国と湾岸諸国やアラブ諸国とのサミットは初開催だ。

 湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council=GCC)とは、1981年に設立された中東・アラビア湾沿岸地域における地域協力機構で、加盟国は「バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、およびアラブ首長国連邦(UAE)」の産油6カ国である。

 アラブ諸国とは、イスラム教の聖典に基づきアラビア語を話す人々が住む国々のことで、アラビア半島全域(サウジアラビア、UAE、カタール、オマーン、イエメン・・・)とイラク、シリア、レバノン、パレスチナ、ヨルダン、エジプト、スーダン、リビア、アルジェリア、チュニジア、モロッコ、モーリタニア・・・などが含まれている。区域は重なっているが、これら一帯の国々だ。

 注目すべきは、習近平がそれらを代表する国々の首脳との会談で、「中国は今後 3 年から5 年で、湾岸諸国と次の重要な協力分野で努力する意向がある」と前置きして、「上海石油ガス貿易センターのプラットフォームなども十分に活用しながら、石油や天然ガス貿易の人民元決済を展開したい」と述べたことである。すなわち、中国がエネルギーを輸入する際に人民元建ての取引を広げたいとの意欲を表明し、参加者の賛同を得たのだ。

 サウジとは個別に中国浙江省義烏市との間で初の「クロスボーダー人民元決済」業務が完了している。

 2021年末までのデータで、中国人民銀行は40ヵ国や地域と通貨スワップ協議をサインしており、25ヵ国や地域で27の海外人民元清算銀行を設立している。拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳細に論じた事実も踏まえ、新たなニュースも加味した上で、中国との間で「人民元決済」を進めている主たる国々や対象などを列挙すると、以下のようになる。

図表:人民元決済の情況
筆者作成

◆世界を引き寄せる習近平

 拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】で詳述したように、習近平はウクライナ戦争後、ロシアのウクライナ侵略を快く思っていない中央アジア諸国の集まりである上海協力機構会議で習近平を中心に動くことに成功し、その後のBRICS拡大会議では、BRICS共同宣言において、プーチンが核を使えないように足枷(あしかせ)を嵌(は)めた。

 だからこそ、ドイツのショルツ首相が11月4日に訪中して習近平に会い、11月14日にシンガポールに行ってリー・シェンロン首相と会った後に、記者会見で「中国経済をディカップリングすべてきではない」と宣言したのである。この時点ですでに、習近平念願の「中欧投資協定」への復帰が予測されていたが、12月1日に欧州議会のミッシェル大統領が訪中して、「中欧投資協定」交渉再開への鐘を鳴らした。ウクライナ侵略を始めたプーチンへの制裁が、欧州諸国に跳ね返り、欧州経済を危機に追いやっていることも、習近平には利している。

 11月14日から19日まで出席したインドネシアのバリ島におけるG20やタイのバンコクで開催されたAPEC首脳会談においては、まるで習近平に対する朝貢外交のような、各国首脳との会談が展開された。

 中国がアフリカと深くつながっているのは、周知の事実だ。

 特にトランプ政権において激しく露呈した黒人への人種差別により、アフリカ諸国は習近平政権に、これまで以上に接近した。

 そこに、今般の湾岸諸国やアラブ諸国との戦略的パートナーシップが加わり、習近平外交は、ウクライナ戦争により、したたかさを一層発揮している。

 そこでバイデンは習近平に対抗すべく、12月13日からワシントンで「米アフリカ首脳会議」を開催する。アメリカは今後3年間で総額550億ドル(7兆5700億円)の支援をアフリカにするそうだが、さて、お金でアフリカの人々の自尊心を「買う」ことができるのか。
 米中の覇権争いは続くだろうが、「漁夫の利」の間で動く国々はまだいいとして、日本のように、実際に戦争に巻き込まれるのだけはごめんだ。

 いったい誰が戦争をさせたがっているのか、真相を見る確かな目を、日本人は持たなくてはならないだろう。

記事に関する報告

遠藤誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(2022年12月中旬発売。PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『「中国製造2025」の衝撃』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。』

中国側から見た、サウジアラビア訪問の目的

中国側から見た、サウジアラビア訪問の目的 : 机上空間
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/30368137.html

『昨日、サウジアラビア側からみた中国の立ち位置というのを、解説しましたが、中国側の意図というのも、一応解説しておきます。今回の経済協力は、主にサウジアラビア内の5Gインフラの整備を中心とした、5兆円規模の投資がメインです。ファーウェイを中心にした、中国技師・労働者が工事にあたる事になります。

その代わりに、サウジアラビアからの原油の割当枠を確保するのが中国の狙いなのですが、第一の目的は、その原油代金を中国の通貨である元で支払う契約を結ぶ事です。世界中の原油の代金というのは、アメリカのドルで支払いが行われています。これは、ドルが覇権通貨である一つの理由になっていて、エネルギーの輸出入決済で、必ずドルが使われる事で、間接的に世界の経済を牛耳っています。過去には、この覇権に抵抗したベネズエラのような国もありましたが、経済制裁で返り討ちに合っています。

もし、サウジアラビアとの原油代金決済で、元の使用が認められれば、アメリカのドル覇権に楔を打つ事になります。しかし、サウジアラビア側は、「笑顔で検討する」と言いながら、棚上げにして、この中国の申し出を拒みました。中国側の思惑としては、今回結んだ経済協力で、中国企業がサウジアラビアで、行う事業の代金として、原油決済代金の元で支払う事で、双方に利益のある形で、ドル決済の牙城を崩す予定でした。しかし、サウジアラビア側からすると、中国共産党が統制しているローカル通貨である元を、代金として貰ったところで、他に使いようが無いのです。現在の経済環境では、どこの国も外貨として持ちたいのは、アメリカ・ドルです。どんな取引の決済にも使えるからです。元で外貨を持っていても、取引相手の合意が無い限り、それで支払いをする事ができません。そして、元のように政治が為替レートに口を出す通貨を、外貨で保有したい国は、ありません。

ちょっと前に、中国の元が日本の円を、決済総額で抜いたとか何とか話題になりましたが、これは、中国が経済力にモノを言わせて、子分の国に無理やり元で決済をさせた結果です。元が公正な通貨として、実力を認められたからではありません。通貨のような経済の道具は、圧力をかけて使わすものではなく、その国の経済活動において、便利だから使われるのです。政治力で、流通量を無理やりに引き上げても、それは一時的なものですし、元で決済した相手国にとって、まったく割に合いません。

アメリカ・ドル、ユーロ、円、ポンド、スイス・フランが、世界の5大決済通貨ですが、それは通貨としての独立性と築いてきた信用の結果、流通するようになったのであって、脅したり圧力をかけた結果ではないのです。何でも、政治的な圧力で解決しようとする中国共産党が、本質的に理解できてないのが、この自由経済の法則です。何でも戦うのが大好きな中国共産党は、武漢肺炎ともゼロ・コロナで3年間戦い続けて、「打ち負かす」と叫びながら、完全に敗北しました。恫喝しようが、脅そうが、便利だから使われているモノを、無理やり捻じ曲げる事はできないのです。もし、元を流通させたいなら、その後ろ盾になる信用を築くところから始めなくてはなりません。今のように、共産党が、あからさまな固定レートになるような為替操作をしているようでは、永遠に無理です。』

ロシアの求人サイトが、塹壕掘りのアルバイトを募集している。

ロシアの求人サイトが、塹壕掘りのアルバイトを募集している。
https://st2019.site/?p=20710

『2022-12-16記事「Russian Job Sites Recruit Trench Diggers for Occupied Ukraine, Border Areas」。

   ロシアの求人サイトが、塹壕掘りのアルバイトを募集している。派遣場所は、ウクライナの占領地。

 期間は1ヵ月から3ヵ月で、労賃は4000米ドルという。仕事内容は野戦築城。対戦車壕も掘る。』

シベリア最大の精油所で、モスクワ時間の深夜に爆発火災があり…。

シベリア最大の精油所で、モスクワ時間の深夜に爆発火災があり…。
https://st2019.site/?p=20710

『2022-12-15記事「2 People Killed in Explosion at Siberia’s Largest Oil Refinery」。
   シベリア最大の精油所で、モスクワ時間の深夜に爆発火災があり、労働者×2名死亡。
 場所はイルクーツクのロスネフト。

 工場から45km離れた町の住民が、衝撃震動を感じたという。人びとは、地震かと思った。』

ウクライナ軍総司令官、ロシア軍の動員計画は非常に上手くいっている

ウクライナ軍総司令官、ロシア軍の動員計画は非常に上手くいっている
https://grandfleet.info/european-region/ukrainian-military-commander-says-russian-mobilization-plan-is-going-very-well/

『ウクライナ軍のザルジュニー総司令官はEconomist紙に対して「問題を抱えているにも関わらずロシア軍の動員計画は非常に上手くいっており、早ければ来年の2月までに動員した20万人の訓練が終わる」と明かし、ロシア軍による再攻勢を警告した。

参考:An interview with General Valery Zaluzhny, head of Ukraine’s armed forces
最も興味深い話は何かと馬鹿にされることが多いロシア軍の動員計画についてへの言及だ

ロシア軍は「インフラ攻撃によってウクライナ側を一時的な休戦に応じさせる努力」と「ウクライナ軍の再編成を阻止する努力」を同時並行で進めており、前者の努力は巡航ミサイルや無人機による攻撃、後者の努力はバフムートやマリンカなどを含む1,500kmに及ぶ前線での活発な戦闘で「戦略的な問題の解決にならないもののウクライナ軍を消耗させている」とザルジュニー総司令官は指摘しているが、最も興味深い話は何かと馬鹿にされることが多いロシア軍の動員計画についてへの言及だろう。

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

この動員計画は元々「一部の兵士を投入して前線のギャップをカバーする目的」と「大半の兵士=20万人以上を春までに訓練する目的」で構成され、ザルジュニー総司令官は「ロシア軍の計画は非常に上手くいっている。第二次大戦の教訓を活かして前線から遠く離れたウラル山脈の向こう側で必要な物資の準備も行っている」と明かしたが、用意されてる弾薬の質は「あまり良くない」と指摘して戦闘能力自体は低いと予測している。

要するにバフムートを巡る戦いで「砲弾の餌」と化している動員兵は端から「時間稼ぎ」が目的で、大半の動員兵は常識な訓練(約3ヶ月間)を受けているという意味だ。

出典:Mil.ru/CC BY 4.0

訓練を受けている動員兵は来年2月までに準備が整い「再びロシア軍が攻勢にでる。攻勢に出る場所はドンバスに限定されておらず連中がキーウ攻略に再挑戦するはまず間違いない」とザルジュニー総司令官は断言する一方で、ウクライナ軍には十分な兵士がいるものの武器や弾薬が足りないと主張し「あと戦車が300輌、歩兵戦闘車が600輌~700輌、榴弾砲が500門あれば2月23日のラインまで到達できる」と訴えており、この戦いはまだまだ終結に程遠い状況と言える。

因みにウクライナ国内でのザルジュニー総司令官人気はゼレンスキー大統領の人気を上回っており、ザルジュニー総司令官を解任して陸軍のアレクサンダー・シルスキー司令官に交代を画策する大統領府の動きを西側諸国が心配しているとEconomist紙は報じている。

追記:ロシア軍は16日に76発の巡航ミサイルをウクライナに撃ち込んだ。ウクライナ軍は60発のミサイルを迎撃することに成功したと主張(迎撃率83%)している。

関連記事:バフムートを巡る戦い、ロシア軍が市街地に侵入した可能性が濃厚

 ※アイキャッチ画像の出典:Головнокомандувач ЗС України
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投稿者: 航空万能論GF管理人 欧州関連 コメント: 22 』

首相に「黄金の3年」は来ない 総裁選と解散カレンダー

首相に「黄金の3年」は来ない 総裁選と解散カレンダー
編集委員 清水 真人
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD143KP0U2A210C2000000/

『首相の岸田文雄が今夏の参院選で与党過半数を維持すれば、国政選挙の予定がない「黄金の3年」の安定期が到来する――。永田町に流れるこんな観測に現実味は乏しい。野党が力不足でも、政局カレンダーは甘くない。次の自民党総裁選と衆院解散・総選挙の順序をどう設定し、勝ち抜くか。新型コロナウイルス対策やウクライナ危機など目の前の懸案に追われる岸田。先を見据えた緻密な戦略も求められる。
「広島サミット」から次期衆院選にらむ
岸田首相にG7サミットの開催を要望した広島市の松井一実市長(左から2人目)=1月27日(広島市提供、共同)

「参院選が終われば、最長3年ほど大型国政選挙がない期間が続く。その間に憲法改正の国民投票を実施できればいい」

自民党憲法改正実現本部長の古屋圭司は日本経済新聞社のインタビューで、改憲への意欲をこう示している。今夏の参院選で与党が過半数を守れば、岸田は衆参両院で安定した権力基盤を手にする。次の参院選は3年後の2025年夏。衆院議員の任期4年の満了は25年10月だから、次の参院選まで解散しなければ、国政選挙のない「黄金の3年」がやって来るはずだ、というのだ。

国民民主党代表の玉木雄一郎もこの見解に同調している。岸田が衆参で自前の多数与党の基盤を固めることは、長期政権への一里塚にはなる。だが「黄金の3年」は幻になる公算が大きい。参院選から2年余り先の24年9月に岸田の再選がかかる自民党総裁選の壁が待つからだ。ここを突破しようとするなら、最大のカギとなるのは「首相の専権事項」とされる衆院解散・総選挙をいつに設定するかだ。解散風は必ず吹く。

カレンダーを足元から眺めてみよう。参院選で権力基盤を安定させると、岸田の目に入る次の重要な政権運営の節目は、23年初夏に日本が議長を務める主要7カ国首脳会議(G7サミット)だ。今年6月26~28日にドイツで開くエルマウ・サミットまでに開催地を決める。岸田の地元である広島市と名古屋市、福岡市が誘致に動く。

「米国に加え、英国やフランスといった核保有国のリーダーが被爆地に足を運ぶことには議論がある。いずれにせよ、これから各都市のアピールを比べて判断したい」

岸田は1月4日のBSフジの報道番組で、「広島サミット」には核保有国の理解など課題が多いとの言い回しで、逆説的だが意欲をにじませた。議長としてサミットを成功させれば、政権運営に追い風となる期待大。その余勢を駆って、前回衆院選から3年近くとなる24年9月の総裁選より前に解散する選択肢も出てくる。先に有権者の政権選択を仰ぎ、その勝利をテコにして総裁選を乗り切る戦略だ。
解散の前提に「1票の格差」是正
記者会見する自民党の茂木敏充幹事長(1月18日、党本部)

いまは党執行部を形成する幹事長の茂木敏充、政調会長の高市早苗、広報本部長の河野太郎ら「ポスト岸田」候補たち。総裁選で岸田に挑戦するつもりなら、遅くとも1年前の23年秋の内閣改造・党役員人事で無役に転じ、独自の政権構想を打ち出すのがセオリーだ。外相で岸田と同じ派閥の林芳正は、戦うより禅譲狙いだろう。岸田は総裁選情勢と内閣支持率を両にらみし、解散カードをいつ切るかを熟考するはずだ。

総裁選後に解散を持ち越し、任期満了を迎える25年に入ると夏の衆参同日選くらいしか有力な選択肢が見当たらない。政権運営が下り坂だと逃げ場のない「追い込まれ選挙」となるリスクもある。

岸田が解散権をいつでも行使できるようにしておく条件は2つだ。第1は、低くても40%超の内閣支持率を維持し、党内で「選挙の顔」として求心力を保つことだ。

そのためにはサミットなど外交・安全保障面の実績作りに加え、長期政権を狙う大義名分となる内政の重要課題への取り組みも必須だ。23年暮れには診療報酬と介護報酬の同時改定、24年には年金の財政検証が控える。コロナ禍で露呈した医療システムの非効率に切り込むなどの社会保障改革は待ったなしだ。脱炭素社会に向け、原子力発電の位置づけを含めた骨太なエネルギー戦略も欠かせない。
衆院選の「1票の格差」訴訟の判決を受け、札幌高裁前で「違憲状態」と書かれた紙を掲げる弁護士(2月7日午後)=共同

条件の第2は、衆院の1票の格差を最大2倍未満に抑える定数是正だ。21年の衆院選に対し「違憲状態」だったとの判決が高裁レベルで相次ぐ。衆院議員選挙区画定審議会(会長=帝京大教授の川人貞史)は20年国勢調査に基づき、都道府県ごとの小選挙区定数を「10増10減」とする区割り改定勧告をこの6月25日までに岸田に提出する。

定数は東京都で5、神奈川県で2、埼玉、千葉、愛知の3県で1ずつ増える。宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の10県で1ずつ減る。元首相の安倍晋三と林芳正が対峙する山口、元幹事長の二階俊博がいる和歌山などが減員県に含まれ、次期衆院選の公認調整の難航を危ぶんで自民党に強い反対がくすぶる。

「10増10減」勧告は格差を2倍未満に抑えるため、「アダムズ方式」と呼ぶ定数配分を採用する現行の区画審設置法に従った手続きだ。だから、他党からは自民党内の異論に対する批判が相次ぐ。岸田内閣は1月28日に閣議決定した答弁書で「勧告に基づき、速やかに必要な法制上の措置を講ずることとなるものと考えている」と表明した。区割り改定法案を国会に提出するのは、参院選の後だろう。
「首相の権力」安倍氏と菅氏の明暗
自民党総裁選への出馬見送りの意向を明らかにする菅義偉首相(21年9月、肩書は当時)

「総裁選と解散カレンダー」の教訓として、前首相の菅義偉の退陣劇を振り返ろう。20年9月に登板した菅は21年9月に総裁選、同年10月に衆院議員の任期満了を控えていた。当初は内閣支持率も高く、早期の解散・総選挙で有権者の信任を勝ち取り、その勢いで総裁選を乗り切る選択肢もあったはずだ。ただ、コロナ対策に追われ、解散カードを切るタイミングをつかみ損ねた。

総裁選が迫った21年8月。コロナ禍の拡大で支持率は30%台に低迷し、菅は「選挙の顔」として不適任だ、との逆風が党内で急加速する。そこへ岸田が出馬を宣言し、菅は守勢に回った。土壇場になって内閣改造・党役員人事を実施し、すぐ解散・総選挙を断行して総裁選は先送りする選択肢も描いたが、総選挙で自民党が敗北しかねないと猛反発を招き、退陣に追い込まれた。

支持率が下落し、首相が「選挙の顔」としての信任を党内で失うと、政権には急激な遠心力が働く。解散カードもさびつく。それを避けるため、好機とみればためらいなく「小刻み解散」を連発し、衆院選で勝ち続けて史上最長政権を築いたのが安倍だ。
衆院が解散され、一礼する安倍晋三首相(17年9月、衆院本会議場、肩書は当時)

野党自民党の総裁だった安倍は12年12月の衆院選で大勝して首相に再登板した。13年7月の参院選でも与党で過半数を獲得し、16年夏の参院選まで「黄金の3年」か、とささやかれた。だが、14年11月に任期4年の半分以上を残して衆院を突然、解散し、総選挙で大勝する。15年の通常国会で、集団的自衛権の限定的な行使容認を含む安全保障法制の整備に取り組むための足場固めだった。

安倍は16年7月の参院選も勝って「改憲勢力」で衆参の3分の2超を制した。今度は18年12月の衆院議員の任期満了までの2年半の間に改憲を本腰で目指すとみられたが、17年前半に森友学園問題で支持率が急落した。それが底を打って反転し始めた同年9月、またも自民党すら想定外だった抜き打ち解散。与党3分の2超を維持する圧勝を収めた。その代わりに改憲論議は寸断され、停滞した。

参院選は3年ごとの半数改選だ。そのはざまに任期3年の自民党総裁選も巡ってくる。衆院議員は任期4年だが、時の宰相は解散権をいつでも行使できると解される。この「首相の権力」の使い方で安倍と菅は明暗を分けた。結果として毎年のように重要な選挙があるので「黄金の3年」は訪れな

い。改憲も含め、じっくり取り組むべき政策課題はなかなか進まない。=敬称略

政治アカデメイア https://www.nikkei.com/theme/?dw=17090313 

解散風吹く2023年 岸田首相に「サミット花道論」の壁

解散風吹く2023年 岸田首相に「サミット花道論」の壁
編集委員 清水 真人
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0946V0Z01C22A2000000/

『防衛費の大幅増額と増税案の骨格を何とか示した首相の岸田文雄。政局の長期カレンダーを眺めると、2023年5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)を成功にこぎつければ、その後は衆院解散・総選挙を考えてもおかしくない。半面、政権運営を安定させないと、むしろ岸田退陣を迫る「サミット花道論」が自民党から出かねない。

24年に自民総裁選の剣が峰

「国民の生命や暮らしを守る裏付けとなる安定財源の確保は将来世代に先送りせず、いまを生きる我々が対応すべきだ。将来の国民負担は明らかなので、誠実に率直にお示ししたい。未来の世代、未来の日本に責任を果たすため、ご協力をお願いしたい」

岸田は16日の記者会見でこう訴え、1兆円強の防衛増税案の実行に強い意欲を見せた。与党税制改正大綱で骨格は示したが、実施時期は玉虫色。この日は全閣僚と個別に面会し、異論を唱えた経済安全保障相の高市早苗や経済産業相の西村康稔にクギを刺した。増税を争点とする衆院解散・総選挙は「全く考えていない」と打ち消す。 

「岸田さんにとっては黄金の3年間ではなくなった。場合によっては、来年5月の広島サミットの後くらいに(衆院解散・総選挙の)チャンスを狙うしか方法がなくなってきている。このままジリ貧に陥るよりは何か(したい)と考えるだろう」

立憲民主党最高顧問で元首相の野田佳彦は11月2日のラジオ日本の番組で、内閣支持率が下落し、臨時国会でふらついた岸田の23年の政権運営をこう占って見せた。

3年後の25年7月の参院改選議員の任期満了と、同年10月の衆院議員の任期満了まで大型国政選挙の予定はない。その頃まで安定政権が見込める「黄金の3年」説もあったが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題などで、マスメディア各社による世論調査の内閣支持率は総じて30%台で低迷。最近では「地獄の3年」(日本維新の会代表の馬場伸幸)の局面反転の切り札として、抜き打ちの解散を野党は警戒する。

そもそも「黄金の3年」を決め込み、任期満了の年まで衆院選を持ち越すのは、時の首相から見てハイリスクだ。25年まで衆院選を待てば、同年夏の参院選は決まっているため、選挙時期は夏の衆参同日選の一本に事実上、絞られてしまう。この年に内閣支持率の下落などで政権運営が下り坂をたどっていれば、もはや衆院選を先に延ばす逃げ道は封じられ、「追い込まれ選挙」になりかねない危うさをはらむ。

21年に前首相の菅義偉は衆院の任期満了を目前に退陣を強いられた。それも支持率下落でこの悪い流れにはまったためだ。俗に「首相の専権事項」と言われる解散。国民に信を問う大義名分は求められるが、衆院選の時期を自由に選べることこそ、最大の妙味だ。では、岸田はいつその機を狙うのが合理的なのか。

「現総裁任期中に改憲」の公約

茂木幹事長はポスト岸田の有力候補の一人だ(8日、東京・永田町)=共同

政局カレンダーを25年から逆算してみると、24年9月に自民党総裁選が控える。岸田が再選されれば、2期6年の在任が視野に入る。長期政権を見据えた剣が峰はここだ。たとえば、幹事長として今は岸田を支える茂木敏充は、65歳の岸田に対し、年長の67歳だ。次の総裁選に挑戦しなければ、第2派閥の領袖として後がない。

最大派閥の安倍派も不安定要因だ。総裁選に向けて政調会長の萩生田光一、経産相の西村康稔、参院幹事長の世耕弘成らが次の領袖の座を争う。元首相の安倍晋三の「遺志」に誰が最も忠実かを競うあまり、防衛増税で反対論の震源地となった。最大派閥を維持して総裁候補を立てるのか、割れて党内秩序が流動化するのか。これも第5派閥の領袖にすぎない岸田の権力基盤を揺るがす。

最大派閥の安倍派では自民総裁選に向けて萩生田政調会長らによる後継領袖争いが続く(11日、台北市)=共同

そんな総裁選での再選に向け岸田が主導権を握る一手。それは総裁選前に解散権を行使し、衆院選で自民党を勝利に導くことだ。勝利の後に総裁選となれば、「岸田おろし」の大義名分は探しづらくなる。そう考えると、24年前半の衆院解散・総選挙が浮かぶかに見えるが、さらに考慮を要するのは憲法改正に関する岸田の「公約」だ。

「時代の変化に対応した憲法改正を進めていくべきだ。自民党が掲げている自衛隊の明記などの4項目は、どれも現代的な意味で重要な課題で、次の総裁任期中に改正の実現を目指し、少なくともメドはつけたい」

これは21年9月17日、総裁選の候補者による共同記者会見での岸田の発言だ。今年7月の参院選直後の会見で「できる限り早く改憲発議に至る取り組みを進めていく」と強調。10月18日の衆院予算委員会で「私自身、総裁選を通じて、任期中に憲法改正を実現したいと申し上げてきた。その思いは全く変わっていない」と繰り返した。

これだけ現総裁任期中の「改憲の実現」を口にしながら、具体的な成果がゼロでは党内保守派などから「公約違反」を問われかねない。24年9月の総裁選までに最終関門の国民投票までは行けなくても、目に見える「メド」が求められる。24年前半の通常国会で改憲発議にこぎつけるか、少なくとも、改憲原案を提出するなどの取り組みだ。ここまで前進すれば、保守派からの「岸田おろし」への抑止効果も期待できる。

迫り来る防衛増税や高齢者負担増

このように改憲論議を加速するにも、先に衆院解散・総選挙で国民に信を問うことが必須だとの声が党内で根強い。衆参両院で改憲発議に必要な3分の2以上の勢力を確保したうえで、事と次第では立民や共産党など改憲に慎重・反対の野党を押し切ってでも動く。そう腹をくくるには、衆院選での信任が不可欠というわけだ。

この改憲シナリオに従えば、24年前半の通常国会で改憲原案の提出や発議を目指すために、その前の23年中にも衆院解散・総選挙を断行する選択肢が浮かび上がる。

さらに最終決着を持ち越す防衛増税も「24年以降」の段階的実施を想定する。24年度からは全世代型社会保障改革の一環で、一定以上の収入がある75歳以上の後期高齢者の医療保険料の引き上げを見込む。65歳以上の介護保険料の一部上げも検討。これらの負担増も、それに先立つ23年中の衆院解散・総選挙の誘因となりうる。

ここまで政局カレンダーを逆算してきた。次に足元から23年の政治日程を見てみよう。岸田は1月召集の通常国会で、23年度予算案の3月中の成立に全力を挙げる。春闘での賃金引き上げは「新しい資本主義」の核心だ。4月8日に任期満了となる日銀総裁の黒田東彦の後任を、国会の同意を得て任命する。4月には岸田の求心力を左右しかねない統一地方選も控える。5月19~21日の広島サミットまで息つくいとまもない。

4月のこども家庭庁発足を踏まえ、岸田は年央に閣議決定する予算編成の指針「骨太の方針」で「こども予算の倍増を目指すための道筋を示す」という。これら外交、内政両面での政策課題の推進と並行して、自民党内では衆院の「10増10減」の定数是正に伴う公認候補の調整作業も急ぐ。衆院議員は解散をいや応なく意識する。

「国際賢人会議」の閉会セッションに出席後記者団の質問に答える岸田首相㊧(11日、広島市)=共同

野党陣営の立民と維新は国会では共闘するものの、政権交代を目指して大同団結するまでの迫力は見えない。岸田がサミットまでたどりつけば、その後はいつ解散を考えても不思議のない「常在戦場」となる。ただ、政権運営を立て直せず、支持率の低迷も続くようなら、もはや「選挙の顔」たりえないとして「サミット花道論」が与党内から強まりかねない。綱渡りの政権運営が続く。=敬称略 』

米国務省「チャイナ・ハウス」新設 対中政策を調整

米国務省「チャイナ・ハウス」新設 対中政策を調整
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16EBJ0W2A211C2000000/

『【ワシントン=芦塚智子】米国務省は16日、対中国政策を調整する「チャイナ・ハウス」を新設したと発表した。国務省内外の部局から専門家を集め、情報共有や政策調整の強化によって「より機敏で一貫した政策」の実行を目指すとしている。外交や経済、安全保障分野で国際的影響力を強める中国に対抗する狙いがある。

国務省のパテル副報道官は16日の記者会見で「中国がもたらす挑戦の規模と範囲は、米国の外交にとって前例のない試練であり、それがチャイナ・ハウスの起源だ」とし「対中国政策の策定と遂行を主導する省内全体の統合センターとなる」と説明した。

国務省当局者によると、チャイナ・ハウスは中国・台湾政策などを担当するリック・ウォーターズ国務次官補代理が監督する。中国が影響力の拡大を狙うアフリカや南米を担当する国務省の部局の当局者や、他の省庁からも経済、技術政策などの担当者が参加し、約60~70人の陣容になるという。米中関係、戦略的コミュニケーション、中国の海外活動を担当する3チームで構成する。

チャイナ・ハウスの新設はブリンケン国務長官が5月の対中政策に関する演説で表明していた。

米中央情報局(CIA)も昨年10月、中国に関する情報収集や分析能力を強化する新組織「中国ミッションセンター(CMC)」を開設している。』

米大統領、日本の防衛3文書「平和と繁栄に貢献歓迎」

米大統領、日本の防衛3文書「平和と繁栄に貢献歓迎」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16E300W2A211C2000000/

『【ワシントン=坂口幸裕】バイデン米大統領は16日、日本が閣議決定した国家安全保障戦略など新たな防衛3文書について「平和と繁栄への日本の貢献を歓迎する」とツイッターに投稿した。「日米同盟は自由で開かれたインド太平洋の礎だ」とも記した。

民主党のペロシ下院議長はツイッターで「岸田文雄首相の大胆な発表は日米同盟の新しい時代の始まりを意味し、世界に平和と安全、安定を促す」と評価。「この重要な同盟国であり友人に対する下院の関与は揺るぎない」と表明した。

ブリンケン米国務長官は声明で「インド太平洋地域と世界中で平和を促進し、ルールに基づく秩序を守る同盟の能力を再構築するものだ」と指摘。「強化される日本の役割や任務、能力への予算増、米国などとの緊密な防衛協力を通じて同盟を近代化する日本の約束をたたえる」と強調し、不可欠なパートナーだと訴えた。

日本政府は16日、国家安全保障戦略など新たな防衛3文書を閣議決定した。相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」を保有し、防衛費を国内総生産(GDP)比で2%に倍増する方針を打ち出した。戦後の安保政策を転換して自立した防衛体制を構築し、米国との統合抑止で東アジアの脅威への対処力を高める。

【関連記事】反撃能力保有を閣議決定 防衛3文書、戦後安保を転換 』

米国とロシア「パトリオット」で駆け引き 長期関与巡り

米国とロシア「パトリオット」で駆け引き 長期関与巡り
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR15EK70V11C22A2000000/

『【ウィーン=田中孝幸】米国の長距離地対空ミサイル「パトリオット」を巡って、ウクライナへの提供を検討するバイデン米政権とロシアが駆け引きを強めている。ロシアは、ウクライナが求めてきたパトリオットの提供は「挑発行為」になると反発している。供与の有無は、米国のウクライナへの長期的な関与の意思を映すとみなされているためだ。

パトリオットは航空機、巡航ミサイル、短距離弾道ミサイルを迎撃する機能を持つ。運用するには90人ともされる多数の要員が求められ、ミサイルや補修部品の補給体制も整えなければならない。複雑なミサイル防衛システムを運用するための訓練にも通常、数カ月が必要になる。

このため提供が決まっても、実戦で効果的に使われるのは来春以降になる可能性が高く、冬場の厳しい戦いには間に合わない。ロシア軍は10月以降、厳冬期を迎えるウクライナを困窮させるために同国のエネルギーインフラの破壊を目指しており、16日も各地の関連施設を数十発のミサイルで攻撃した。国営エネルギー会社ウクルエネルゴは同日、被害により同国の電力消費量が半減したと明らかにした。

運用が始まっても、十分に迎撃能力を発揮できるか不安は残る。すでに米国が提供して運用が始まったミサイル防衛システム「NASAMS」と比べ「パトリオットは機動性が低いうえ運用コストが高く、激戦地で戦うウクライナ軍のニーズに即していない」(欧州外交評議会のグスタフ・グレッセル上級政策フェロー)との見方も多い。

それでもウクライナがパトリオットの供与にこだわるのは、米国との同盟関係の構築を急いでいるためにほかならない。

これまで米国がパトリオットを提供したのは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本、サウジアラビア、イスラエルなど軍事同盟を結んでいる国が大半だった。万が一、敵対的な国の手に渡る事態になれば、自国の安全保障を脅かしかねないためだ。

このため、米国が初の供与に踏み切れば「ウクライナに対する長期的な信頼の証」(ウィーンの西側外交筋)とみなされる。米国とNATOを介した軍事同盟を結ぶことで安全保障を確保するというゼレンスキー政権の長期戦略を進める上で、大きな一歩になる。

ウクライナを自らの勢力圏におさめることを国家目標とするロシアは猛反発している。パトリオットの供与が決まれば「ロシア軍の正当な標的になる」(メドベージェフ前大統領)との威嚇を繰り返している。

米国防総省のライダー報道官は15日の記者会見で「米国の安全保障支援がロシアのコメントに左右されることはない」と強調。米軍によるウクライナ軍兵士への同国外での訓練を来年1月から拡大すると発表した。一方で、訓練内容は未供与の武器ではなくNASAMSなど配備済みの兵器の使用に重点が置かれると語った。

ロシアとの対立の先鋭化を避けるために、米国がパトリオットの供与を土壇場で見送るとの観測も消えていない。当面の迎撃能力の向上に向けて「パトリオットよりもNASAMSの供与や訓練の拡大に集中するのも有効な選択肢になる」(NATO関係者)との声も漏れる。

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ラガルド発言が市場揺らす 世界株安、利上げ不況警戒

ラガルド発言が市場揺らす 世界株安、利上げ不況警戒
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB160MF0W2A211C2000000/

『米欧中央銀行の政策決定を受け、15~16日に世界で株安が進んだ。インフレと景気の両にらみの局面に入り、各中銀は利上げ幅を縮小したものの、インフレこそが問題という姿勢は堅持した。市場は過度な引き締めによる不況への警戒を強めている。中銀と市場の「溝」が鮮明になり株価の乱高下につながり始めた。

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15~16日の日米欧の株式市場では、日経平均株価や米ダウ工業株30種平均が前日比2%安と大きく下げた。欧州では独株式指数DAXが3%を超える下落となった。

発端は欧州中央銀行(ECB)が15日に公表した声明文だ。「安定したペースでの大幅利上げをまだ続ける必要がある」と明記し、23年の物価上昇率の見通しは6.3%と9月時点の予測から0.8ポイント引き上げた。

ラガルド総裁は記者会見で「ECBが方針を転換したと考える人は間違いだ。転換したわけではなく揺らいでもいない」と、利上げ幅を0.5%に縮小したことを引き締め減速局面に入ったと受け取られないようにクギを刺した。

市場ではラガルド総裁が「かなりの(利上げに積極的な)タカ派に転じた」(オランダINGグループ)とショックが走った。ユーロ圏の物価上昇率は11月に10.0%と1年5カ月ぶりに減速した。景気も厳しいためにハト派に政策転換するとの期待が強まっていた。

仏ソシエテ・ジェネラルのアナトリ・アネンコフ氏は「インフレ率が(2%)の目標近辺に落ち着く見通しが立つまでECBが制限的な政策姿勢を放棄する可能性はない」と解釈し、到達金利の予想を3%から3.75%へ引き上げた。

中銀のタカ派姿勢は、14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも鮮明になった。FOMC参加者は利下げに転じるのは24年との予測を示し、23年後半を見込む市場の観測と異なった。

市場では「引き締めすぎ」による景気不安が強まった結果、経済指標への反応が変化してきた。景気が悪いと引き締めが緩むと期待して株価が上がる「悪いニュースは良いニュース」から、指標の悪化に株安で反応する「悪いニュースは悪いニュース」となってきた。

15日発表の11月米小売売上高は前月比0.6%減と今年最大の落ち込みを記録し、米株の下落につながった。中国国家統計局が同日公表した11月の小売りや工業生産統計も鈍化を示し、仏高級ブランドのエルメスが前日比5%安となるなど世界の消費関連株が大きく売られている。

米国では、政策金利見通しについてFOMCの予測と市場予測の乖離(かいり)が鮮明だ。FOMCは到達金利を5.1%と予想するが、市場の織り込みは5%以下で、23年後半利下げ観測も残ったままだ。「タカ派的なFOMCの予測を『ほえるだけでかまない犬』であるかのようにほとんど無視している」(米調査会社SGHマクロ・アドバイザーズのティム・デュイ氏)

理由の一つは市場が物価の急速な鈍化シナリオにこだわり、FRBの利上げ継続の必要性は薄れるとみていることにある。市場はインフレの鈍化には「楽観的」で景気悪化には「悲観的」、中銀はその逆という構図になっている。

野村証券の松沢中チーフ・ストラテジストは「市場はFRBが利上げを停止すれば、半年から1年後には利下げという比較的最近の経験則に基づき、物価上昇率の鈍化を受けて利下げまで織り込んでしまった」と指摘する。現在のインフレは1980年代以来の圧力で、沈静化に予想以上に時間がかかる可能性があることへの警戒が乏しい。

米欧の労働市場の逼迫感は強い。景気の厳しいユーロ圏でも10月の失業率は6.5%と過去最低水準で人手不足が顕著だ。市場の楽観的なインフレ見通しが誤っているならば今後、株安が加速しかねない。(篠崎健太)

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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分析・考察

中銀と市場の「溝」は労働市場に関する認識の差にある。
通常の景気後退局面では失業が増大、賃金上昇圧力は鈍る。
しかし、足もとの欧米ではコロナ禍も影響し、労働需給はタイト。ユーロ圏でも、失業率は統計開始以来の最低水準、求人に対する欠員率も記録的な高水準だ。
ECBが、昨日示した見通しで、景気後退を「浅く短い」と予測した理由の1つは雇用の堅調さにある。景気が後退しても、労働市場の調整は欠員率の低下から始まり、失業の増大は軽微に留まる。むしろ、この局面で、高インフレへの強い姿勢を示さなければ賃金インフレに拍車を掛けかねないと懸念する。
市場と中銀の判断のどちらが正しいのか。来年には答えが出てくる。
2022年12月16日 13:24 』