経済成長続けるインドネシア 日本のGDPを抜く可能性も

経済成長続けるインドネシア 日本のGDPを抜く可能性も
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/28776

『11月17日付Economist誌は「なぜインドネシアは重要なのか」との社説を掲げ、G20で存在感を示したインドネシアの将来性の高さを、その理由とリスクと共に論じている。要旨は以下の通り。

 G20が行われたインドネシアはスハルト政権崩壊から四半世紀後に再び注目された。同国は、米中の戦略的競争に巻き込まれているが、新世界秩序に適応しつつあり、次の四半世紀で影響力が大きく伸びる可能性がある。

 その理由の第一は経済である。GDPは新興国中第6位。1兆ドル超GDP国では、中印以外で過去10年最速で成長。その源泉はデジタルサービスである。電気自動車(EV)サプライチェーンに必須なバッテリー用ニッケルの世界埋蔵量1/5を占めるという特有の事情もある。

 第二の理由は民主化と経済改革両立の成功だ。完璧ではないが妥協と社会調和を強調する多元的政治システムを創設。ジョコ大統領は政敵を含む大連立を形成しているが、財政は健全。国営企業改革、労働法規等で漸進的改善を実施。汚職は問題だが経済は10年前よりオープンだ。

 第三の理由は地政学である。インドネシアは超大国競争の重要な舞台だ。非同盟の歴史を反映し中立を希望する同国は、米中デジタル企業と投資家が直接競争する舞台となっている。

 もしインドネシアが今後10年今の道を歩めば、世界トップ10の経済になり得る。

 他方、主なリスクは次の3つである。

 一つは権力承継である。ジョコの任期は2024年だが明確な後継者は不在だ。支持者の中には(3選を禁じる)憲法改正で留任を求める向きもある。権力承継は有権者へのイスラム的政策アピール競争になる可能性がある。ジョコ連合の一部のビジネスと政治閥が権力を得て寡頭政治に回帰する可能性もある。

 二つ目は保護主義だ。ダウンストリーム化(精製部門など天然資源の下流産業の振興)は市場支配力を持つニッケルでは成功しても、他の産業では逆効果かもしれない。

 最大のリスクは地政学で躓くことである。同国が中国の影響圏に入る可能性もある。2020年以降中国企業投資は米国企業の4倍だ。台湾危機の際は、依存するシーレーンが閉鎖され、西側制裁は同国が頼る中国企業に打撃を与え得る。

 インドネシアは資源と保護主義、大連立政治、中立主義に依拠して、自国民を満足させ、かつ、成長する道を見つけようとしている。成功すれば、自国民の生活を改善し、成長を望む世界を励ますことになる。これは世界の力のバランスを変えさえするかもしれない。

*   *   *

 G20で首脳宣言をまとめたインドネシアが注目を集めている。Economistのようなメディアがこのような記事を載せる影響力は大きい。上記社説の大きな論旨には賛成だが、細かい点で若干の異論がある。

 まず、「今後10年今の道を歩めば世界トップ10の経済になり得る」ことに異存はないが、既に世界の第17位である同国がトップ10に「なり得る」との記述は、インドネシアのインパクトを十分捉えていない。コロナ禍の下、中進国の中で最も早く年5%台の成長に回復した国の一つであるインドネシアは、2040年代に世界第5位のGDPになる勢いを持っており、更に、インドと共に日本のGDPを抜く可能性のある数少ない国の一つなのだ。』

『次に、権力承継がリスクだとの主張は、過度に深刻視する必要は無いだろう。3選を禁じる憲法の改正でジョコ大統領が続投するという可能性は、とうの昔になくなっている。伸び盛りの国に相応しく、後継者の能力があると評価される人物は相当多い。一方、立候補には国会の20%以上の議席を持つ政党の支持が必要なので、現実的な候補は既に片手以内に絞られている。

 更に重要なのは、大統領候補の出身母体の多様化だ。軍が唯一のエリート養成機関であったのは、遠い過去の話である。今や、州知事を含む地方の首長(いくつかの州は数千万の人口で、中小国より大きい)が登竜門の一つになっている。ジョコ自身もジャカルタ特別州知事出身だし、今の候補者中、軍出身は70歳代の一人に限られる。これは、「ビジネスと政治閥が権力を得て寡頭政治に回帰する可能性」は最早それほど高くないことを意味している。

歴史も絡む中国との難しい関係

 第三に「中国の影響下に入る可能性」だが、これも高くない。そもそも中国の対インドネシア投資は入れるのも早いが出すのも早く、過去10年間のストックは未だ日本の1/5以下であり、ジャカルタ・バンドン高速鉄道に象徴されるように失敗例も多い。ここ数年間連続でナツナ諸島に現れる海警に守られた中国漁船の存在は、安全保障面でもインドネシアの対中姿勢を硬化させている。

 更に留意すべきは、対中関係は国内問題という歴史的事情だ。オランダ統治時代に中間管理職として厳しく当たりオランダ撤退後にその富を寡占した中華系インドネシア人は、いまだにデモ・騒乱の際の主な攻撃対象だ。これらを考えると、平時には日、米、中、欧ほかと全方位で付き合うインドネシアだが、危機に当たり中国を頼る可能性はあまり高くないと考えるべきだと思う。

 最後は、台湾危機のインドネシアへの影響である。上記社説は重要な論点を挙げているが、実際の危機に際しては、インドネシアはマラッカ海峡の唯一の代替航路を提供する立場にあることも忘れてはならない。日米は引き続きインドネシア沿岸警備隊の能力強化に努めていく必要がある。』