公明、中国「脅威」認識に難色 防衛3文書改定で

公明、中国「脅威」認識に難色 防衛3文書改定で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA129WT0S2A211C2000000/

『国家安全保障戦略など防衛3文書の改定作業で公明党が慎重論を唱える場面が目立った。中国を巡る情勢認識では自民党が主張した「脅威」という表現が国際秩序への「挑戦」と後退した。防衛装備品の輸出ルールの大幅な変更にも消極的だった。

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日本をとりまく安全保障環境をどう理解するかで防衛力強化の具体策も変わってくる。台湾有事への備えなどで米国と歩調を合わせる必要性は高まっており、公明党の存在は日米同盟の不安定要因となりかねない。

自公の実務者は当初、10日までに3文書の骨子で大筋合意するとみられていた。複数の項目で公明党が難色を示し合意自体が12日にずれ込んだ。

公明党は特に中国に関する表現にこだわった。

自民党は4月の3文書への提言で中国を「安全保障上の重大な脅威」とした。日本政府が使ってきた「懸念」よりも強い表現だ。公明党の山口那津男代表は「あえて『脅威』と呼ぶのは望ましくない」と訴えた。

最終的に国家安保戦略で国際秩序への「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と盛り込んだ。

米国が10月に公表した国家安保戦略の「最も重要な地政学上の挑戦」に倣ったものだ。とはいえ、米国はオースティン国防長官が公の場で中国を「脅威」と発言しており日米の目線がそろっているとは言い難い。

米国は同戦略で中国について「国際秩序を塗り替える意図と能力を持つ唯一の競争相手」とも記している。

与党は3文書のうち国家安保戦略の下位文書にあたる国家防衛戦略で「脅威」という言葉は残したものの公明党の意向に配慮した。

脅威認識の対象を8月に中国の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した事態に絞り、さらに脅威は日本国でなく「地域住民」の受け止めという書きぶりで折り合った。

公明党は結党以来たびたび訪中団を送り、中国との関係を重視してきた。日中国交正常化で橋渡し役を果たしたことでも知られる。山口氏は近く3年ぶりとなる訪中を探っており、機運を保つために「脅威」という文言の明記を避けたとの見方がある。

拓殖大の佐藤丙午教授は「『脅威』という表現を避けたことがどう解釈されるかによって米中それぞれに誤ったメッセージを送ることになる」と指摘する。

公明党は海上保安庁の役割強化の是非についても主張を通した。

自民党内では海保が果たせる役割を広げるため、海保の軍隊としての機能を否定する海上保安庁法25条の改正や撤廃を求める意見がある。中国の海上法執行機関にあたる海警局の公船が大型機関砲を搭載するなど装備を増強しているのに対抗するためだ。

山口氏は「海保は軍事組織ではない。自衛隊とは区別すべきという考え方だ」と力説した。

3文書は海保に関し「自衛隊との連携・協力を不断に強化」という趣旨の記述にとどめた。海保を所管する国土交通相を公明党議員が務めることが多い事情もある。

防衛装備品の輸出ルールを定める防衛装備移転三原則でも「可及的速やかに見直せるよう検討」という箇所に反発した。

現状では護衛艦や戦闘機といった殺傷能力のある装備品は第三国に原則輸出できない。

自民党は防衛装備品を巡る外国との連携を強めるため輸出できる装備品の対象拡大を目指している。公明党との隔たりは大きく、運用指針の緩和を検討する方針を示し時期には触れなかった。

笹川平和財団の小原凡司上席研究員は緩和の議論が進まなければ「公明党の姿勢は防衛産業の維持に向けた足かせになりかねない」と話す。

ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、公明党は防衛力の強化自体には賛成の立場で自民党との協議に臨んだ。相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有でも厳格な歯止めは求めなかった。

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中林美恵子
早稲田大学 教授
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別の視点

これは安全保障の協議であるはずだが、根底にあるのは各選挙区での選挙協力に映る。抑止に資する安全保障能力向上で今が非常に重要な局面であるがゆえに、この記事は憂えるべき問題点を提示している。公明党の主張がどれほど一般国民の意向を反映しているものか(議席数も含めて)推し量った上で慎重に協議すべきだろうが、妥協の本質が実は(安全保障以上に)選挙協力であるとすれば、この記事で示された妥協の産物は、自民党本来の「選択」と「方針」ということになる。安全保障のために確保すべき安定的財源の議論や、このうように重要な3文書については、本質的な議論を望みたいものである。
2022年12月15日 8:10

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小泉悠
東京大学先端科学技術研究センター 専任講師
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分析・考察

「脅威」という言葉を使っても使わなくても中国が軍事的脅威であることはほぼ明らかであり、今回の戦略三文書では凄まじいまでの防衛力強化策も盛り込まれていますから、実態としては問題ないのだと思います。
むしろ公明党的なスタンスは安全保障のチェック・アンド・バランスを政権内で果たす上であった方がいいのではないでしょうか。
もうちょっと小狡いことを言うと、真正面から中国を脅威と位置付けるよりは、我が方の抑止力がもう少し向上するまでは日中関係が小康状態であってくれた方がいい、と言う気もしています。
2022年12月15日 9:54

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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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分析・考察

「軍事と外交」はセットであり、通常兵器、サイバーなど多様な面で防衛力を向上させて抑止力を高めながら、外交の世界では無闇に相手を刺激したりしないでおき、何か生じたら事態の打開に向けて努力するのが、「平和と安定」を保つ上での基礎だ。中国を脅威と表現するか、挑戦にするかということは「言葉」の問題、すなわち外交だが、海保、サイバー攻撃、反撃能力は抑止力にも直結する問題だ。安定した関係は、こちらが抑止力を下がれば実現できるのだろうか。「軍事と外交」は両輪であり、その両面で中国を刺激しないように「低調」で臨めば、中国が一層日本に対して優勢になるだけで、「平和と安定」に至らないことも十分に考えられる。
2022年12月15日 6:45 』