ロシアと離れる中立パワー 協調に踏みとどまった世界

ロシアと離れる中立パワー 協調に踏みとどまった世界
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD075L40X01C22A2000000/

『通常戦力で勝てる見込みがないため、ロシアはウクライナの発電所や住宅を壊し、人々を凍えさせようとしている。人々の戦意を奪おうという狙いだ。

ロシアがやっていることはウクライナ国民に対する拷問であり、早くやめさせなければならない。そのためにはロシアをさらに孤立させ、プーチン政権側の戦意をそぐ必要がある。

その意味で最近、今後に一定の望みを抱かせるできごとがあった。11月15~16日、インドネシア・バリで開かれた首脳会議で20カ国・地域(G20)が歩み寄り、ロシアを非難する宣言を打ち出したことだ。

宣言採決にこぎ着けたG20

筆者は当初、G20がウクライナ問題で結束を示せるとは思っていなかった。ロシアによる侵略が2月24日に始まって以降、G20は複数の閣僚会合を開いてきた。しかし、米欧とロシアが鋭く対立し、結局、何も決められない状態が続いていた。

G20は、世界の国内総生産(GDP)の8割超を占め、立場が異なる国々の寄り合い所帯である。メンバーの半数は米欧日などの西側諸国・地域だが、ロシアと中国も名を連ねる。

残る8カ国は西側諸国と中ロのどちらにもくみしないアジア、中東、中南米の「中立パワー」が大半だ。ウクライナ侵略問題でも、各国の立場が大きく異なる。

ところが予想に反し、G20は首脳会議で各国の違いを乗り越え、ロシアを非難する宣言の採択にこぎ着けた。ロシアを名指しこそしなかったものの、宣言は「ほとんどのメンバーが(ウクライナ)戦争を強く非難した」と明記。「核兵器の使用や威嚇」を許さないとも強調した。

この意義は大きい。これまでロシアをあからさまに批判することには慎重だった中立パワーが、ウクライナ侵略に「ノー」を突きつけたことになるからだ。

プーチン政権と友好を保つ中国は当初、首脳宣言からの反ロシア色を薄めようとした。だが、最後は大勢に従い、採択に異を唱えなかった。

内情を知る複数の外交筋によると、この首脳宣言をまとめた「立役者」はインドネシアと、23年に議長国を務めるインドだった。両国が手分けし、各国への根回しに奔走したという。

両国にとって、G20は米欧日や中ロと対等に渡り合える唯一の貴重な枠組みだ。このためロシアが元凶となってG20が空中分解してしまうことは、何としても避けたかったのだ。

とりわけ議長役のインドネシアはロシアの外堀を埋めようと、周到に動いた。首脳会議に先立つ数日前、バリに先乗りしてきた加盟国・地域の高官を集め、60時間以上にわたって宣言案の地ならしを進めたという。

侵略10カ月、変わり始めた構図

このできごとはウクライナ侵略から約10カ月がすぎ、ロシアを取りまく国際社会の構図が変わり始めたことを示している。具体的には、中立パワーの間にもロシア離れの動きが広がってきた。

大きな理由の一つは、プーチン政権による侵略が一層、残虐さを増していることにある。ウクライナの民間人や社会インフラを標的にしたロシアの攻撃は「伝統的にロシアと友好関係にあった新興国にも、懸念を広げている」(東南アジアの外交筋)。

象徴的なのが、インドのモディ首相が9月、プーチン大統領と会談した際に放った発言だ。彼は「今は戦争の時ではない」と語り、ロシアにクギを刺した。この発言はG20の首脳宣言にも、そのまま盛り込まれた。

第2に、ウクライナ侵略は、世界の食料やエネルギー危機に追い打ちをかけている。この影響をまともに受ける新興国や途上国の間では、ロシアへの不満が深まっている。

12月9~11日、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに欧州、アフリカ諸国などの要人や識者が集まり、国際会議「世界政策会議(WPC)」が開かれた。そこで議題の一つになったのも、ウクライナの戦争が食料危機にもたらす影響だ。

「ウクライナは世界の主要な食料供給国だ。同国の生産が回復しないと大変だ」。新興国からはこんな懸念が聞かれた。「せめて黒海から(ウクライナの)食料がきちんと輸出できるようにしないといけない」との意見も出た。

グローバル問題で対応急げ

西側諸国はこうした状況を踏まえ、食料やエネルギーといったグローバル問題で中立パワーと連携し、対応を急ぐときだ。それが中立パワーを西側に引き寄せ、ロシアの包囲網を狭めることにもつながる。

その意味で23年、主要7カ国(G7)の議長国になる日本が果たせる役割は大きい。日本はG20の議長国であるインドと協力し、世界の対策を主導することが期待される。

軍事面では、米欧がウクライナへの支援を強め、ロシア軍をさらに追い込むことが肝心だ。ロシア軍の苦境がより鮮明になれば、新興国・途上国のロシア離れにも拍車がかかるに違いない。

第2次世界大戦後の安定を支えてきた米国主導の秩序は終わり、国際社会は西側諸国と中立パワー、中ロ陣営という3つの勢力に割れた。こうしたなか、世界の秩序を安定させられるかどうかは、前者の2つがどこまで歩み寄り、グローバルな問題で協力できるかにかかっている。

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深川由起子
早稲田大学政治経済学術院 教授
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別の視点

西側には価値、中ロには権威主義体制維持という求心力がありますが、中立パワーにグループとしての求心力はないでしょう。あるとすれば、イデオロギーよりも皮算用を選択する自由の維持、それも中長期ではなく短期。中国はこれを熟知しており、ロシアと違って働きかけるカードも多いはず。パワー外交に目が行きがちですが、日本の長所は災害大国故にあらゆる相手の目線に合わせられる優しさと愚直なほどの真面目さ。これを活かした鵺(※ ぬえ)外交しかないのでは。
2022年12月14日 12:02

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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説

「中立パワーの間にもロシア離れの動きが広がってきた」とみる秋田さんの興味深いコラム。「ロシア軍の苦境がより鮮明になれば、新興国・途上国のロシア離れにも拍車」というところもポイント。将来の歴史にどう評価されるか。
2022年12月14日 12:12』