最低10年以上の時間が必要、オーストラリアの原潜導入や国内建造が簡単ではない理由

最低10年以上の時間が必要、オーストラリアの原潜導入や国内建造が簡単ではない理由
https://grandfleet.info/us-related/at-least-10-years-required-why-australias-nuclear-submarine-introduction-and-domestic-construction-are-not-easy/

『米メディアのBreaking Defenseは「オーストラリアの原潜導入は大きな疑問と困難な道のりをもたらす」と報じており、中々興味深い視点での考察を披露している。

参考:New Australia Nuclear Sub Deal Brings Big Questions, Hard Road Ahead
オーストラリアの原潜運用能力や国内建造能力の確立は米英の造船業界や原子力関係のインフラを圧迫する

Breaking Defenseの記事は大きく分けて豪州が原潜建造・運用能力をどのように獲得するのか、豪州が必要とする暫定的な原潜をどうやって確保するのか、核兵器の不拡散に関する条約(通称NPT体制)が発効してから50年間誰も試みてこなった抜け穴を使用した影響の3つの要素で構成されている。

原子力関連の技術や人員が0に近い豪州が原潜建造・運用能力をどのように獲得するのかについてBreaking Defenseは「原潜建造には原子力技術者だけでなく放射能に精通した医療スタッフのバックアップ、完成したシステムが安全に作動するのか検査を行う特殊な専門家も必要で、多様な原子力関連のスタッフを1から育成するのは一朝一夕では不可能だ」と指摘、さらに米海軍関係者も「原子炉を扱う技術者の育成には最低でも2年以上、原潜の運用に精通した指揮官や上級幹部を育成するにはもっと長い時間がかかる」と見ており、豪州が単独で原潜の建造や運用を行えるようになるまで10年~20年はかかるらしい。

つまり豪州が国内で原潜を建造できるようになるには最低でも10年以上かかるため、切迫した安全保障上の問題とコリンズ級潜水艦の後継艦問題を解消するには暫定的な原潜を米国や英国から購入するかリースする方式で調達するしかないと言う意味だ。

出典:public domain バージニア級原子力潜水艦ブロックIII ノースダコタ

では豪州が必要とする暫定的な原潜をどうやって確保するのかだが、これも簡単な問題ではないらしい。

仮に豪州が暫定的に8隻のバージニア級原潜を米国から購入もしくはリース方式で調達しようとしても米国の原潜建造能力は米海軍の需要(年1隻~2隻の建造)に合わせた構造に調整されているため、米国と言えども多様な原子力関連のスタッフを直ぐに増員=建造能力の引き上げは不可能(英国も状況は同じ)だと言っており「米海軍向けのバージニア級原潜を豪州に回せば、その分だけ米海軍の能力や戦力構成に影響がでる」と予想している。

さらに米英豪の発表によれば米英は豪の原潜導入や国内での原潜建造を支援することになっているため、米海軍は原潜運用に関する訓練スタッフや原子炉の取り扱いに手慣れた貴重な技術者を、米国の造船企業は余裕のない原子力関連のスタッフをオーストラリアに派遣する必要があるので非常に厳しいと言っているのが印象的だ。

Breaking Defenseは触れていないが米海軍から退役するロサンゼルス級原潜をオーストラリアに与えるにしても核燃料の交換や豪海軍仕様への改装が必要で、1年以上港で修理の順番が来るのを待っているロサンゼルス級が3隻もある状態でこれを強行すれば米海軍の原潜運用に影響を及ぼすことは目に見えている。

出典:Public Domain USSハンプトン

要するに豪州が原潜導入を決断したことで中国に対する米英豪の原潜戦力は短期間でプラスに転じることはなく、逆に米英の造船業界や原子力関係のインフラに負担がかかるため良くて現状維持、最悪マイナスに作用する可能性があるという意味だ。

勿論10年~20年の長期的な視野でみれば確実にプラスへと転じるが、豪が独自に原潜を建造して運用できる能力を確立するまでは緩やかに計画を進めないと米英のインフラはパンクするかもしれない。

最後に核兵器の不拡散に関する条約(通称NPT体制)が発効してから50年間誰も試みてこなった抜け穴=原潜の核燃料(高濃縮ウラン)は核兵器ではないというスキームを利用したオーストラリアの原潜導入は必ず悪い前例となり、仮にイランが同じスキームを使用して高濃縮ウランを使用する原潜を導入すれば米英は到底容認(原子炉に使用されている高濃縮ウランを利用して核兵器を製造できる可能性があるため)できないだろうとBreaking Defenseは指摘している。

そのためオーストラリアに与える原潜は高濃縮ウランではなく低濃縮ウランを使用したタイプにしないと不味いことになると言っているが、米英とも高濃縮ウランを使用した原潜しかないので「低濃縮ウランを使用した原子炉や複数回の核燃料交換に対応した原潜を別途開発する必要がある」と主張しているものの開発費用や開発期間を考えると中々難しい選択になるかもしれない。

結局、低濃縮ウランを使用した原潜技術を世界で唯一保有しているフランスを豪原潜導入の枠組みに残していれば「抜け穴の問題を回避することが出来た」というのは皮肉としか言いようがない。

因みにBreaking Defenseの分析は情報が少ない現段階のものなので、18ヶ月後に発表される豪原潜導入の詳細が判明すれば分析結果は大きく代わると思う。

関連記事:オーストラリア、国内建造の準備が整うまでリース方式による米原潜調達を検討

 ※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo courtesy of General Dynamics Electric Boat 』