[FT]習近平主席がサウジ訪問へ、米勢力圏に踏み込む中国
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『中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が今週、中国と中東湾岸地域との関係強化を目指す取り組みの一環として、6年ぶりにサウジアラビアを訪問する。米国が中国政府に対し、中東は中国にも誰にも明け渡さないと警告した5カ月後のことだ。
2016年8月、北京で会談する中国とサウジアラビアの首脳=ロイター
習氏はサウジの首都リヤドでサルマン国王、事実上の最高権力者であるムハンマド皇太子と会談するほか、アラブや湾岸諸国首脳との2回の首脳会議に出席する。中国とサウジの双方とも習氏とサウジ王族との会談の詳細を明かしていないが、両国は自由貿易や原子力など多岐にわたる分野での協協定に調印する可能性がある。
中国国内で「ゼロコロナ」戦略に対する反対運動が起き、習氏への圧力が強まるなかで行われるサウジ訪問は、米政府が伝統的に自国の勢力圏内とみなしてきた地域で関係を強化しようとする中国の願望を浮き彫りにする。
バイデン米大統領が7月にリヤドを訪れた時、集まったアラブ諸国の首脳に発したメッセージは「我々はここから立ち去って中国やロシア、イランが埋める空白を残すようなことはしない。米国はどこへも行かない」という言葉だった。
だが、バイデン氏とムハンマド皇太子の関係は緊迫している。また中東にとどまるという米大統領の誓いにもかかわらず、湾岸諸国では、米国は焦点を他の地域へ移しながら次第に遠のいており、どこより熱心に空白を埋めようとする国のひとつが中国だ、とみられている。
イスラエルのアバ・エバン外交国際関係研究所で中国と中東を専門とするゲダリア・アフターマン氏は「誰もが米国は去ろうとしていると考えている」と話す。米政府と中国政府の戦略的な戦いでは「(中国が)サウジを自国の方向へ10メートル動かすたびに、それはただの勝利ではなく、二重の勝利になる。サウジが米国から遠ざかるからだ」という。
しかし、湾岸諸国の政府高官は米中間の論争に過度に巻き込まれることへの警戒心をはっきり示している。米中両国との関係維持の必要性を知っているからだ。
サウジとアラブ首長国連邦(UAE)はいずれも、軍事面のハードウエアと保護の提供者として米政府を頼りにしている。米国製の軍用装備は中国が提供できる装備で代用することはほぼ不可能だ。
ミサイル技術で対中接近
それでもサウジなどの湾岸諸国は貿易や技術、さらには弾道ミサイル技術や武装ドローン(小型無人機)についての協力で対中接近をやめなかった。
コンサルティング会社ジェーンズ・インテルトラック幹部のニッサ・フェルトン氏は、中国は現時点では中東地域の安全保障提供者としての米国の歴史的役割に対する脅威にならないが、「政府のトップであれ、国連のような国際組織での投票を通して行使されるものであれ、共同戦略構想の追求であれ、強まる政治的な絆は米国の長期的利益にとって潜在的問題をはらんでいる」と指摘する。
「広範な協力、中国の外交政策を自国の国内政策と重ね合わせようとする意欲は、こうした国が米国の伝統的な関係からの脱却に前向きであることを示唆している」
中国国内では、習氏は深刻な不況で広がる不安と同氏の政策に対する反発の高まりに直面しており、11月末にはこうした不満から複数の大都市で抗議デモが勃発した。香港中文大学の中国政治の専門家、林和立(ウィリー・ラム)氏は「国内の不満のために習近平氏は関心をよそへそらす必要がある」と語る。
ジェーンズ・インテルトラックのデータによると、過去20年間に発表された湾岸地域への中国の外国投資では、投資先リストのトップを占めるのがサウジで、投資額は総額1065億ドル(約15兆円)に達する。それに続くのが976億ドルのクウェート、UAEの460億ドルだ。
中国とサウジの関係は石油に支えられている。サウジは中国にとり最大の原油供給元であり、中国はサウジにとり最大の貿易相手国だ。
今週のサウジ訪問では石油が大きな議題となる。習氏の訪問は石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国で構成する「OPECプラス」の重要な会合の日程や欧州がロシア産原油に禁輸措置を課す期限、ロシア産石油の取引価格に上限を設けようとするタイミングと重なった。
だが、中国とサウジや他の湾岸諸国との関係は近年、石油以外にも広がった。技術については特に顕著で、これは米国が時折反対してきた問題だ。
この技術面での協力、特に中国の華為技術(ファーウェイ)との高速通信規格「5G」技術についての協力には米政権が懸念を抱いている。中国の治安関係施設を湾岸地域に受け入れる可能性も懸念を呼ぶ。UAEは21年、米国の反対を受け、中国の軍事施設とされる国内施設を閉鎖した。
「中国とのパートナーシップには、我々にできることに天井を設けるタイプのものがある」。バイデン政権の中東政策担当トップのブレット・マクガーク氏は11月、バーレーンでの会議でこう語った。
「石油貿易で人民元決済」の臆測
米国は5G技術に取り組むことでサウジと合意したが、サウジはまだファーウェイとの協力を模索している。また、サウジと中国が石油貿易を人民元で決済する協定に調印する可能性があるとの臆測も米国の反発を買った。
サウジ政府の高官は内々に、そうした協定にはドル建てで行われる石油貿易は含まれず、石油以外の産業が対象になると説明した。ある高官は、自分の知る限り、今週合意される人民元建ての貿易協定は何もないと語った。
だが、そうすることに何も問題はないと付け加えた。「(中国は)サウジアラビアの最大の貿易相手国だ」
By Samer Al-Atrush, Maiqi Ding, Edward White and James Kynge
(2022年12月5日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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中国とサウジアラビアの接近は今に始まったことではない。アメリカはインド太平洋に照準を合わせて戦略展開しているが、中国はトランプ政権時代からそれ以外の地域への外交攻勢を強めていた。
サウジアラビアが中国版GPS北斗を軍事的に利用するかもしれないと取り沙汰されるほど、両国関係は近年親密化している。
バイデン米大統領が7月にアラブ諸国首脳に対して「米国はどこへも行かない」と宣言したというが、メッセージとしては遅すぎたかもしれない。
2022年12月6日 18:42
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植木安弘
上智大学グローバル・スタディーズ研究科 教授
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ひとこと解説
バイデン大統領は、先にOPECプラスが石油の減産を発表した際、サウジアラビアはロシアを支持しているとして公に批判した。
そして、対抗措置としてサウジアラビアからの米軍の一部撤退も噂された。
バイデン大統領は、サウジ訪問の際に、ムハンマド皇太子に対して皇太子がジャマル・カショギの暗殺に直接関わったとの理解を伝達したが、石油増産を期待して表向きには良好な関係を醸し出した。それが裏目に出てしまった。
ムハンマド皇太子は、トランプ前大統領とは良好な関係にあり、トランプの再選を期待してバイデンには冷淡だ。中国と接近することによって米国を牽制しようとする政治的意図も垣間見れる。
2022年12月6日 21:33』