[FT]米国、拙速な敵視政策のワナ 中国を二元論で捉えるな

[FT]米国、拙速な敵視政策のワナ 中国を二元論で捉えるな
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB229900S2A121C2000000/

『北大西洋条約機構(NATO)加盟国ポーランドに11月、ロシア製ミサイルが着弾した時の米国の対応は模範的だった。(加盟国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなすと規定した)北大西洋条約第5条の集団的自衛権を行使すべきだという声高な主張には耳を貸さず、同盟国とともに冷静に事実関係を調べ、ウクライナから発射されたことを突き止めた。ロシア軍によるものとは速断せず、瀬戸際政策にも向かわなかった。これを米国は、国内で幅を利かせるタカ派を抑え込めば国益が追求しやすくなるという経験則にすべきだ。

ウクライナ紛争では米国は前面には出ず、物資、情報、外交的支援を惜しみなく提供する役割を果たしている=ロイター

もちろん簡単ではない。歴代の米大統領で最も好戦的とされるセオドア・ルーズベルトが掲げた外交方針は「穏やかに話し、大きなこん棒を携える」だった。この言い回しの初めの部分が目を引く。当時から世界をイメージ通りにつくり変えようとしていたこの国には、まるで似つかわしくない。

他国も米国と同じように考え行動してほしいという欲求は、たとえ善意のつもりであっても強引になりがちだ。従って米国が積極的に行動を起こすばかりでなく、時にはあえて自制しながら世界を率いていくという外交スタイルを維持するのは難しいだろう。米国が本来どう振る舞うべきかは近年の失敗例と、あまり注目されていない成功例を見ればわかる。
ウクライナ侵攻への対応は格好の研究事例

ベトナム戦争からイラク戦争まで米国は結論ありきで動こうとして、ひどい失態を演じた。世界を白と黒に二分したがるため、往々にして目の前の現実を見失う。ベトナムの反政府運動は共産主義勢力の拡大を受けたドミノ現象ではなく、植民地主義への抵抗だった。イラクは当時のフセイン大統領が国際テロ組織アルカイダと手を結んでいたわけではなく、単なる「ならず者国家」にすぎなかった。

そして、やはり米国が攻撃を仕掛けたアフガニスタンも米国の思惑通り民主化されることは決してなかった。

思い通りに世界を造り替えようとして失敗を繰り返すうち、米国の民主主義を根付かせる力は衰えていく。だからこそロシアのウクライナ侵攻への対応はまたとない研究事例といえる。

バイデン米大統領の外交上の優先課題はロシアではなく、すべて中国に関するものだ。同氏は2021年、大統領に就いて間もなく、スイスのジュネーブで米ロ首脳会談を開いてロシアのプーチン大統領の自尊心をくすぐり、被害妄想を和らげることに力を尽くした。ウクライナ侵攻が始まる8カ月前のことだ。狙いはロシアを懸案リストから外し、外交の軸足を完全にアジアに移すことだった。

ところが事は意図した通りに運ばなかった。プーチン氏によるウクライナ侵攻は、図らずも米国の実利主義の本領を引き出すことになった。米国自らが敵対心をあおるのではなく、相手がこちらへ抱く敵意へ対処しようとしている。

後先考えずに行動したツケがまだ残る

バイデン氏は「後方からの指揮」(編集注、対リビア政策で攻撃の前面に出ようとしなかったオバマ政権時代の外交戦略を批判した言葉)という表現を用いるべきではないが、米国が今行っているのはまさにこれだ。ロシアとの戦いは明らかにウクライナのゼレンスキー大統領が指揮をとっている。米国が果たしているのは物資、情報、外交的支援を惜しみなく提供する役割だ。戦争の終結条件を決めるのもゼレンスキー氏で、実際は米国が決定的な発言力を持つもののバイデン氏ではない。

最終的な総括をするにはまだ早いが、ここまでのウクライナの成功は、米国の冷静で揺るぎない決意に支えられてきた。沈着さも一貫性も現代の超大国が影響力を発揮するために必要な資質だ。危険な国家が力で相手をねじ伏せようとして口にする大げさな覚悟とは全く異なる。

ロシアによるウクライナでの「特別軍事作戦」は類例を見ないかもしれないが、今回の米国の対応には、より幅広く生かせるはずの普遍的要素がいくつも備わっている。中でも重要な点を2つ挙げたい。

まず、同盟国やパートナー国がそう望んでいることだ。彼らが米国は腰抜けになると懸念することはほぼない。憂慮するのは米国の行き過ぎた行動だ。米国一辺倒ではないアフリカや南米では特にその傾向が強い。

こうした国は国連でのロシア非難決議を棄権し、米国主導の制裁に加わるのも拒んだ。ウクライナ侵攻にあたかも無関心な態度を見せたことで、西側世界に深い懸念をもたらした。

だが彼らを冷淡とか無責任とみなすのは正しくない。世界は米国が仕掛けたイラク戦争や、01年9月11日の同時テロをきっかけとしたアフガン戦争が失敗に終わったのを覚えている。米国が後先考えずに行動したツケがいまだに残っているからだ。逆にウクライナが国家として存続する権利を守ろうと、米国が慎重に手を差し伸べる姿に反発する国はないだろう。

先手をとろうとして自制心を失う

もう一つは、米国は中国への姿勢を見直す必要があることだ。バイデン氏は世界を権威主義国と民主主義国の戦いという構図で捉えている。この二元論は人々を不安にさせる。米国が自衛のためではなく、相手を黒と見て積極的に攻撃を始めた過去の戦争と通底するものを感じるからだ。状況がそこまでは求めていないのに、米国は何かをしたがっているというシグナルを発している。

歴史を振り返ると、超大国による失敗の多くは、機先を制すれば主導権を握れると勘違いしたために起こった。実際のところ、先手をとろうと動いたことで、反対にあれよという間に自制心を失うことがよくある。プーチン氏同様、(アフガン戦争やイラク戦争を指揮した)米国のブッシュ大統領(第43代)がその典型だ。

ある経済政策担当者(編集注、オバマ政権時代のガイトナー財務長官)はかつて「計画は無計画に勝る」と述べた。しかし外交では、その逆が真であることが多い。ウクライナ紛争に関し、バイデン氏は積極的な計画は何も持ち合わせていなかった。対照的に中国に対しては敵意むき出しの政策を持っていることが恐ろしい。

By Edward Luce

(2022年12月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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