英国、米国から天然ガス輸入倍増 両首脳が合意

英国、米国から天然ガス輸入倍増 両首脳が合意
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR06DV00W2A201C2000000/

『【ロンドン=中島裕介】英政府は7日、エネルギーの安全保障と安定供給で米国と協力する枠組みを設けたと発表した。米国からの液化天然ガス(LNG)の輸入を2021年に比べて2倍以上に増やすのが柱。ロシア産エネルギーからの完全な脱却を目指すとともに、高騰する英国内の光熱費の抑制につなげる。

英政府が7日に公表したスナク首相とバイデン米大統領の共同声明によると、新枠組みは天然ガスの安定供給と脱炭素に向けた技術協力に焦点を当てる。8日に英政府と米ホワイトハウスの高官による初会合を、オンラインで開く予定だ。

天然ガスの供給では、米国が「2023年に少なくとも90億~100億立方メートル(LNG換算で660万~740万トン)を英国に供給するよう努める」と約束した。欧州でのガスの安定供給は今冬よりも、来冬の方が厳しいとの見方が強い。英国は調達した天然ガスの一部を活用して、欧州全体のガス備蓄の積み増しにも生かす考えだ。

英政府によると、21年に英国は米国から39億立方メートル(同290万トン)のガスを輸入した。英首相官邸は「21年比で2倍以上のLNG供給を受け、ガス価格の変動を抑制する」と説明している。

英政府は22年末までにロシア産の石油と石炭の輸入を終了し、天然ガスも「できる限り早く」終了すると約束している。天然ガスのロシア依存度は21年時点で4%で31億立方メートル(同230万トン)を輸入していた。米からの調達拡大でこれをゼロにできる計算だ。

英国はガス高騰に悩まされ、23年1~3月の一般家庭の光熱費は前年同期の3倍以上になる見通し。スナク政権は財政再建のため来年4月以降に光熱費支援を縮小する方針で、輸入拡大で少しでもガス価格を抑制したい。スナク氏は今回の合意について「英国の消費者向けの(エネルギー)価格を引き下げる」と期待を示している。

英貿易統計によると、米国産ガスの輸入量は22年1~9月に75億立方メートル(同550万トン)まで増えている。今回の合意は22年比でみると微増に終わる可能性もあり、ガス価格抑制につなげるかどうかは不透明だ。

米国のLNG業界では「欧州の電力・ガス会社が20年超の長期契約に後ろ向き」との不満も漏れる。欧州は中長期ではガス消費を大幅に減らす方針を掲げるためで、足元の輸入拡大はスポット取引が中心だ。米国としては首脳合意によりLNGの事業開発を後押しする思惑もありそうだ。

英米の新枠組みでは、小型モジュール炉の開発など原子力発電の分野での協力も強化する。再生可能エネルギーを活用した航空機燃料の開発や電気自動車分野での協力も進める方針だ。

【関連記事】

・再エネ、石炭抜き最大の電源に IEA見通し25年に
・英政府、国内石油メジャーに増税圧力 家計支援の財源に

ニューズレター
多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

伊藤さゆりのアバター
伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
コメントメニュー

ひとこと解説

「欧州の電力・ガス会社が20年超の長期契約に後ろ向き」という米国のLNG業界から漏れる不満の声の一方で、欧州の産業界からは「米国内で利用する場合のガス価格に比べて、欧州が輸入する米国産のLNG価格は割高」という不満の声が漏れてきます。
輸送等の諸々のコストに加えてスポット取引であるために割高であるのは当然ながら、今の価格水準ではとても採算がとれない。
エネルギー集約型産業が低コストでの安定供給が見込める米国に移転してしまうのでないかとの懸念が広がりつつあります。
2022年12月7日 10:07 (2022年12月7日 11:33更新)

松尾博文のアバター
松尾博文
日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員
コメントメニュー

ひとこと解説

欧州がロシア産ガスをすべてLNGで代替するには約1億2000万㌧相当の代替供給先が必要となります。これは足元の世界貿易量の約3分の1に相当します。そのような余力はどこにもなく、欧州が脱ロシアにまい進すればするほど、世界のLNGの需給は逼迫し、争奪戦は過熱します。英国はウクライナ侵攻を受けたエネルギー安全保障戦略見直しの一環で、原発の新設とともに英領北海の天然ガス田の開発も再開しました。英シェルが開発するジャックドー・ガス田は140万世帯へのガス供給力があるとされます。2050年のカーボンニュートラル目標は堅持しながら、再生エネも、原発も、天然ガスも活用する組み合わせは日本の参考にもなります。
2022年12月7日 9:41 (2022年12月7日 9:46更新)』