抜け出せぬ「中所得国」、マレー系優先が生む頭脳流出

抜け出せぬ「中所得国」、マレー系優先が生む頭脳流出
マレーシア、混迷の先に(上)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM273EZ0X21C22A1000000/

 ※ 今日は、こんな所で…。

『【シンガポール=中野貴司】マレーシアで総選挙後の首相ポストを巡る混迷の末に、アンワル元副首相が新首相に就任した。3日に発足した新内閣は政治の安定とともに、経済の再建を最優先課題に掲げる。米国と中国が経済でも対立を深め、周辺国が台頭する中でどう経済を立て直すのか。アンワル氏の手腕が問われる。

「今の経済状況は『中所得国のわな』の特徴が全てあてはまる。経済を新領域に移行する必要がある」。首相就任前の11月17日、アンワル氏は日本経済新聞のインタビューで、危機感をあらわにした。

「中所得国のわな」とは新興国が一定規模まで経済発展した後、成長が停滞する現象だ。マレーシアは1991年に2020年の先進国入りの目標を掲げた。しかし、11年に1万ドル(約135万円)を突破した1人あたり国内総生産(GDP)は、生産性の伸びが一時マイナスに陥るなどして伸び悩む。21年時点でも約1万1400ドルと先進国の基準のひとつである約1万3000ドルに届かない。

2009~18年のナジブ政権で汚職がまん延した。不正流用額が45億ドルを超える政府系ファンドの汚職事件などもあり、デジタル化をはじめとする必要な分野に十分な資金が行き渡らなかったことが大きな理由だ。

アンワル氏は人工知能(AI)やデジタル分野といった「新領域」に予算を配分し、生産性を再び高める構想を描く。同氏の政党、希望連盟は政権公約で起業家の育成を掲げた。約3300万人の人口の平均年齢は約30歳で、有望なスタートアップを輩出する素地はあるが、大量の頭脳流出が実現を阻んでいる。

地場シンクタンク、EMIRリサーチは国外に移住したマレーシア人は200万人程度に上り、そのうち50万人が25歳以上の高度人材だと推計する。シンガポールの広報会社で幹部として働くジョセフィン・チューさんは「マレーシアにとどまっていたら昇進は遅れ、金融資産も5分の1にとどまっていた」と話す。
配車大手グラブの共同創業者のアンソニー・タン氏はシンガポールに拠点を移した

マレーシアは多数派のマレー系住民を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」を採っており、チューさんのような華人系は進学や就職、昇進の際に差別を受けることが少なくない。配車大手グラブの共同創業者、アンソニー・タン氏など華人系の起業家も相次ぎ国外に拠点を移しており、それが技術革新や経済の構造転換を遅らせている。

CBインサイツによると、企業価値が10億ドルを超える非上場の「ユニコーン企業」は中古車ネット売買のカーサムのみ。周辺国に水をあけられている。

華人系やインド系国民の支持者も多い希望連盟は前回18年の総選挙で政権交代を実現し、民族融和的な政策の実現を目指した。ただ、内紛によって2年弱で政権は崩壊し、経済や社会構造の改革は進まなかった。

今回のアンワル政権は希望連盟に加え、ナジブ氏に近い汚職勢力がいる国民戦線、地元への利益誘導を重視するボルネオ島の地方政党の連立政権で、前回以上に閣内で利害が対立するリスクが大きい。急進的なイスラム主義を掲げる野党の全マレーシア・イスラム党が改選前に比べ議席を3倍近く増やすなど、マレー系のナショナリズムが一段と強まる懸念も出ている。

シンガポール、インドネシア、タイの周辺国は高度人材を呼び込むため、新たな査証(ビザ)の導入に動く。国境を越えた人材の獲得競争が激しくなる中で、政治の混乱が続けば、マレーシアの人材の空洞化はさらに進む。アンワル氏は成長の担い手である若者が能力を高め、発揮できる政策を早急に打ち出す必要がある。』

https://www.nikkei.com/theme/?dw=22111101