[FT]ロシアが「影のタンカー船団」 石油制裁の緩和狙う

[FT]ロシアが「影のタンカー船団」 石油制裁の緩和狙う
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『英船舶仲介ブレーマーによると、原油輸送を海外のタンカーに依存するロシアは今年、直接および間接的に100隻以上のタンカーを加えた。調査会社リスタッド・エナジーは、ロシアが購入に加え、西側から石油の禁輸措置を科されているイランとベネズエラの石油輸出に使われていた船舶を調達するなどして、今年103隻のタンカーを確保した。

海運業界で「影の船団」と呼ばれる大量のタンカーの調達をロシアが急いだのは、同国産石油を対象とした追加的な制裁措置を打開するのが狙いだ。欧州連合(EU)によるロシア原油の海上輸送による輸入制限措置が5日に発効するのを前に、主要7カ国(G7)とEU、オーストラリアは2日、ロシア産原油に1バレル60ドルの上限価格を設定することで合意した。

ロシアの影の船団はこうした制裁措置の影響を減殺するが、完全に取り除くことはできないとトレーダーは指摘する。

タンカー輸送網から締め出し

EUとG7が科した新たな対ロ制裁措置の柱は上限を超える価格での取引に対して、英ロイズ保険組合などによる保険の提供を禁じることだ。これにより、上限価格を超えるロシア産原油は、目的地にかかわらず、世界の原油タンカー輸送網の大半から締め出されることになる。

EUは、EU船籍を持たないタンカーがこの上限価格の制裁に違反した場合、当初提案された永久的な措置ではなく、90日間の西側の海事サービス禁止を科すと発表した。

これは、タンカー運航会社が他国船籍の舶を活用し、ロシアの石油輸送に大きな役割を果たしているギリシャと、この措置が世界経済を過度に抑制しないようにしようとする米国の両方が推していた。

理論的には、上限を超えたロシア産原油の輸送料金が十分に高ければ、一時的な輸送禁止をビジネス上のコストとして受け入れる事業者も出てくる可能性がある。

EUのフォンデアライエン欧州委員長(11月)=ロイター

ロシア政府は、上限価格を適用する国とは取引しないと言い続けてきた。つまり、西側が設定した条件では原油を売らない可能性があるということだ。

ロシアは、新たに構築したタンカー船団を使って、輸入を削減した欧州に代わって主要な原油の輸出先となったインド、中国、トルコなどに供給することをもくろんでいる。

船籍登録でロシアの購入発覚

ほとんど匿名で行われたロシアのタンカー購入が発覚したのは、船籍登録で船舶保有者の名前が明示されていないケースや、今までにない保有者の名前による登録が急増したからだ。ブレーマーの筆頭アナリスト、アヌープ・シン氏によると、購入されたタンカーは船齢が12年から15年の老朽船が多く、今後数年で退役されることが見込まれていた。

「こうした新たな購入者は、長年にわたり船舶仲介業務に携わってきた弊社にもなじみのない名前だ」とシン氏はいう。「こうしたタンカーの大半はロシア向けだと確信している」

ブレーマーが11月に国際エネルギー機関(IEA)に示した報告書にとると、ロシアと関係のある複数の業者が2022年に200万バレル以上の原油を積み込める超大型オイルタンカー(VLCC)を29隻も購入したとみられる。ロシアはさらに100万バレルを積載できるスエズマックス型のタンカーを31隻と、70万バレルを輸送できるアフラマックス型のタンカーを49隻確保した模様だ。

ロシア国有銀行のVTBバンクのアンドレイ・コスチン頭取は10月に、同国が「少なくとも1兆ルーブル(約2兆2000億円)」を使って「タンカー保有を拡大」する必要があると述べ、大量のタンカー調達方針を実質的に認めた。

アレクサンドル・ノバク副首相は3月、同国は自前の石油での「サプライチェーン(供給網)」を構築すると発言した。フィナンシャル・タイムズ(FT)は2日にロシア政府に対してタンカー購入についてのコメントを求めたが、回答を得られなかった。

「ロシアがすべての石油輸出のために必要とするタンカーの数は膨大だ」と米ハーバード大学のデイビス・センター(ロシア・ユーラシア研究所)でロシアの石油を専門に研究するクレイグ・ケネディ氏は指摘する。同氏はロシアによるタンカー購入を追跡してきた。「ここ数カ月、正体不明の購入者がタンカーを買っていたのだが、購入されたタンカーの多くは数週間後に突如としてロシアに出現し、原油の積み込みを始めた」

ケネディ氏は、ロシアがVLCCを使用するかどうかは疑問だという。VLCCは海上で積み荷を移す「瀬取り」には使えるかもしれないが、ロシアの港で積み込みを行うには大きすぎるからだ。匿名や見慣れない購入者に売却されたタンカーのすべてがロシアの原油輸送だけに使われるわけではないかもしれないと、同氏は付け加える。

ロシアのタンカー不足は依然として解消されず、23年の最初の数カ月間は、輸出水準を維持するのが難しいだろうと専門家は指摘し、その結果、価格が上昇することになると予測する。

アジア輸送で、必要タンカー数増加

EUによる制裁措置が2月にロシアで精製された石油にまで拡大されると、タンカー不足はより深刻になるとケネディ氏は語る。これまで欧州に輸出されていたロシアの石油が、アジアの新たな輸出先へと回されることで、輸送距離が伸び、必要となるタンカーの数も増えることになる。

ロシアは1日あたり70万バレルから150万バレル分の輸送能力が不足することになるだろうとブレーマーは予測する。リスタッドは、ロシアのタンカー不足数は60~70隻となり、海上輸出は1日あたり約20万バレル減少するとみている。

もしロシアが制裁に対する報復措置として、対象になっていないパイプラインによる欧州向けの供給を、海上輸送に振り向けるのに必要な数のタンカーを確保する前に停止するようなことをすれば、市場へのロシア石油の供給量は1日あたり60万バレル減少する可能性もあると、リスタッドは指摘する。

「ロシアが現在の輸出水準を維持するには240隻以上のタンカーが必要となる」とリスタッドのアナリスト、ビクトル・クリロフ氏はいう。

ケネディ氏は「どんな巧妙な手段を考えたとしても、結局のところ大量の石油を物理的に動かさなければならないという事実に変わりはない。上限価格での輸出なしでロシアの石油輸出を維持していくのは難しいだろう」

By David Sheppard and Chris Cook, Polina Ivanova

(2022年12月3日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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