中国、ゼロコロナ「出口」に苦慮 浮かぶ段階的緩和
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中国政府が新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策の「出口」を模索している。習近平(シー・ジンピン)指導部の威信を傷つけぬよう、段階的な緩和に動くシナリオが浮かぶが、全面解除なら感染爆発で200万人以上が死亡するとの試算もあり、道のりは容易ではない。
「ようやく営業を再開できた」。広東省広州市で飲食店を営む女性は喜ぶ。大半の地域で11月後半から店内飲食が禁じられていたが、市政府が緩和を決め1日から中心部で多くの飲食店が営業を再開した。車の交通量も目立って増えた。
中心部では多くの建物でそれまで求めていたPCR検査の陰性証明も不要になり、大半の検査所が撤去された。北京市でも1日、大型商業施設が相次ぎ営業再開を表明した。重慶市でも2日、高リスク地区以外の住民の外出を認め陰性証明なしでスーパーで買い物ができるようになった。
コロナ対応を担う孫春蘭副首相は1日、衛生当局での座談会で「(変異型ウイルス)オミクロン型の病原性の弱まりなどから、予防・抑制措置のさらなる適正化の条件が整った」と述べた。ゼロコロナ政策には一切言及しなかった。
衛生当局は11月11日に「20条措置」と呼ばれる緩和策を発表したばかりだが、現場レベルでの実行が遅れていた。26日以降には都市封鎖(ロックダウン)などへの不満を示す抗議活動が全国に広がり、一部は習近平国家主席の退陣や政治的自由の拡大まで求めた。
欧州連合(EU)高官によると、習氏は1日のミシェルEU大統領との会談で、抗議活動の理由を3年に及ぶコロナ禍で大学生らがストレスをためているためとの見解を示したという。習氏から政策見直しを直接意味する発言はなかったが、緩和の方向に向かうとの印象を得たという。
抗議活動が政権の安定を揺るがしかねず、習指導部はゼロコロナの軌道修正を探らざるを得ない状況にある。
ゼロコロナの全面解除には国産ワクチンの有効性と接種率の低さという壁が立ちはだかる。中国は国産ワクチンにこだわり、米欧製を調達していない。
世界保健機関(WHO)の専門家らは7月、有効性を比較した論文を発表。2回接種した香港の60歳以上の患者で重症・死亡を防ぐのに、米ファイザー・独ビオンテック製の有効性は約89%、中国のシノバック製は約70%と約20ポイントの差が出た。
高齢者のワクチン接種率も低い。中国国家衛生健康委員会によると、2回接種した人は60歳以上で約86%、80歳以上で約66%にとどまり、日米よりも低水準だ。
英医療調査会社エアフィニティは11月28日の報告書で「中国がゼロコロナを解除すると130万~210万人が死亡するリスクがある」との推計を示した。中国政府も4月、ゼロコロナを緩和した場合に「200万人の死者が出る」との試算値を公表した。
習指導部がゼロコロナに固執してきたのは徹底的な隔離で感染や死亡を抑え込み、プラス成長を維持した初期の成功体験があったためだ。目算が狂ったのは感染力の強いオミクロン型の流行だ。
今春、最大の経済都市上海を約2カ月にわたって封鎖した。野村ホールディングス傘下の野村国際(香港)の推計で、68都市の約5億3000万人(11月28日時点)が封鎖や行動制限の対象だ。
中国では失業率が高止まりし、個人消費も冷え込む。国際通貨基金(IMF)は10月、2022年の中国の実質経済成長率の見通しを3.2%へ下方修正した。
今後の出口戦略について三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、22年末、23年3月末と2段階の緩和を予想する。高齢者のワクチン接種と地方の医療整備を加速しつつ、入国者などの隔離期間を短くし、春先にゼロにする流れだ。
中国メディアの財新によると、政府は23年1月末までに3回目のワクチン接種率の目標を80歳以上で原則90%、60~79歳は原則95%にする。
SMBC日興証券は「政策変更は威信に関わる問題で、目先で劇的な変化が起こると期待すべきではない」と指摘する。ゼロコロナの看板は下ろさずに徐々に緩和を探るとの見方だ。
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経済停滞が長引けば市民の不満は解消しない。感染爆発で死者の急増を許せば遺族らの悲しみの矛先は習指導部に向かう。求心力の維持へ難しいかじ取りが続く。
(大連=渡辺伸、北京=羽田野主、ブリュッセル=竹内康雄)
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石原純
インペリアルカレッジロンドン 講師
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今後の展望
中国は欧米製のmRNAワクチンか飲み薬を調達できるかがポイントです。オミクロン株の登場から1年、さらにマイナーな変異を遂げて感染力を増しています。また、冬はウイルスの感染力が増します。動物も新型コロナウイルスに感染しますので、人間の努力だけでコロナを制圧するのは不可能です。実はオミクロン株はワクチン未接種の高齢者にとっては毒性が低い訳ではない、というデータも出ています。現在、西側諸国でコロナ規制がかなり緩んだのは、ワクチンと飲み薬の普及が一番大きいと思います。
2022年12月3日 12:25
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西村友作
中国対外経済貿易大学国際経済研究院 教授
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貴重な体験談
中国における新型コロナ対策は着実に緩和方向へと進んでいるように感じます。
封鎖の対象となる高リスク地域が、マンションの敷地全体ではなく棟ごととされ、多くのエリアで全体封鎖が解かれました。
しかし不運にも、私が住む棟で陽性者が出てしまったので、現在封鎖されており本日で4日目になります。窓から外を見ると、デリバリーの配達員がマンションの敷地には入ってきているので、敷地全体の封鎖はされていないようです。以前では見られなかった光景です。
記事でも指摘されているように全面解除のハードルは極めて高く、段階的緩和となるのは間違いないでしょう。あとはどれくらいのスピード感で進むのかという問題となります。
2022年12月2日 22:40
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