[FT]広がるゼロコロナ抗議、習氏の「無謬神話」試練に

[FT]広がるゼロコロナ抗議、習氏の「無謬神話」試練に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB2920N0Z21C22A1000000/

『2011年、中国の国家副主席だった習近平(シー・ジンピン)氏は米国のバイデン副大統領(当時)との会談で、北アフリカと中東をかき乱す「アラブの春」が起きたのは、地域の指導者が自国民とのつながりを失ったためだと語った。

習近平国家主席の看板政策であるゼロコロナ政策に反発が強まっている=ロイター

それから10年あまりたち、習氏が中国共産党と軍のトップとして3期目を確保してから6週間足らずで、国家主席は中東の指導者の過ちを繰り返すかたちで、窮地に立たされている。

反対運動弾圧か、ゼロコロナ規制緩和か

習氏は政権の「ゼロコロナ」政策に対して週末に勃発した全国的な抗議活動を厳しく取り締まり、さらに大きな国民の反発を買うリスクを冒すのだろうか。あるいは折れて、新型コロナウィルス対策の規制を緩和するのか。そうすれば、この冬に数十万人、下手をすれば数百万人もの高齢者の命を奪う可能性のある「出口の(感染急増の)波」を放つことになりかねない。

習氏は頻繁に、存亡にかかわる重大な課題への対処に関して、中国の党主導政治システムが、米国など民主主義統治体制にあるライバル国と比較して、優位にあると豪語してきた。後者のシナリオが現実になると、そんな自負が吹き飛ぶことになる。

28日朝、地方の政府当局が市民からの圧力に屈する兆候が見られた。3年前にパンデミック(感染症大流行)が始まった中国中部の武漢市の住民2人がフィナンシャル・タイムズ(FT)に対し、集合住宅の封鎖措置が深夜に解除され始めたと語った。

「以前は感染者が皆無でも、リスクの高い地区を訪れた人が一人でもいると、集合住宅は閉鎖されていた」とある住民は話す。北京の一部地域でも、住宅地を封鎖しているフェンスが撤去され始めた。SNS(交流サイト)上では「ベルリンの壁」といったふざけた落書きがされた囲いの写真が出回っている。

習氏は12年、共産党内の演説で上級幹部に向かって、ベルリンの壁が崩壊した2年後にソ連共産党が崩れ去ったのは、立ち上がって党を救うだけの「男気がある」人物が1人もいなかったからだと語った。

このため多くの人は今、毛沢東以来最も強力な中国の指導者としての地位を築き、10月の第20回共産党大会ですでに弱っていたライバルも排除した習氏が、自身の成功の象徴である看板政策を戦わずして手放すことに懐疑的だ。

英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)中国研究所のスティーブ・ツァン所長は「習氏は無謬(むびゅう)神話を維持する必要がある」と話す。「強権的な指導者や独裁者が挑戦を受ければ、通常は本能的に抑圧で応じる。習氏が例外だとは思えない」

27日、北京で新型コロナの規制に抗議して白い紙を持つ人々=ロイター

主要な国営メディアは先週末の抗議活動があったことを認めず、「人命を最優先する」ゼロコロナ政策を貫く共産党の決意が「揺らぐことはない」と主張した。

さまざまな抗議活動の首謀者とされ、「黒い手」と呼ばれる人物に対する厳しい扱いは、共産党の権威に対する直接的な挑戦への伝統的な対応と一貫している。また封鎖されていた集合住宅から週末に住民が解放されたという報道が1件あれば、警察が暴力的に対応したという報道が1件あるように見受けられる。

習氏は19年、香港の民主主義を要求する数百万人のデモ隊の抗議活動に直面した時、強硬な「香港国家安全維持法」で対応した。数十人の活動家が逮捕され、最終的には民主化運動を抑え込んだ。1989年に中国各地で学生が主導したデモや、10年後の宗教団体・法輪功によるデモなど、中国での同様の抗議はいずれも暴力的に封じ込められた。

集会で「退陣」を求める声も

一部の集会では、デモ隊が公然と習氏や共産党の「退陣」を求める声を上げたり、10月の党大会の直前に、たった1人の反体制派が国家主席の退陣を求める横断幕を高架橋に掲げて有名になった「橋の抗議」の文言を引用したりした。

SNS上では、習氏の亡父で毛沢東時代の共産党幹部だった習仲勲氏が国民の声に耳を傾ける必要性を説いた言葉を引用した投稿が、検閲による削除が追い付く間もなく拡散した。習氏をあからさまに醜く描いた絵も一気に拡散した。

経済面での苦境が怒りの火に油を注いでいる。シンガポール国立大学の中国専門家のランス・ゴア氏は「人々はあまりにも長く自宅に閉じ込められて、店を開けることもできず、借金を抱えている」と話す。

中国南西部の重慶市から広まった動画では、男性が雄弁かつ激しい言葉で、ニンジンの値段などについて語り、隣人の関心を引いている。後に、「重慶の超人」のニックネームがついたこの男性は、ニンジンの値段が4倍以上に値上がりしたなどと訴えている。

「自由はなく、あるのは貧困。これこそ我々が今日いるところだ」と言うと、観衆から拍手が湧く。その後、警察が男性を連行しようとすると、隣人たちが救い出した。

見失われた民意

「(中国の指導者は)『党大会の成功』に固執するあまり、度重なるロックダウン(都市封鎖)で人々がどれほど強い不満を抱えているか、民意を見失ってしまった」。韓国ソウルの延世大学で中国研究を専門とするジョン・デラリー教授はこう指摘する。

「次に何が起きたとしても、これは習氏のゼロコロナ政策に対する強烈な非難だ。街頭デモと大学構内での批判演説が発生するに至るとは、前代未聞だ」

だが、公然と習氏を批判する大衆が思い通りにゼロコロナの規制を崩すことに成功したとしても、それは中国の国家主席にとっての政治的な惨事であるだけでなく、公衆衛生上の災禍に発展する恐れがある。

在中国欧州連合(EU)商工会議所のイエルク・ブトケ会頭は「今、封鎖を解除すれば破滅的な事態になる」と予想する。

2020年1月にパンデミックが始まって以来、1度も中国を出ていないブトケ氏は、政府はむしろ「中国が来年往来を再開できるよう強力なワクチン接種対策」に取り組むべきだと訴える。

未獲得の自然免疫

中国はパンデミックの最初の2年間に感染の波を食い止めることに成功したが、それは国民がコロナに対する自然免疫を獲得していないことを意味する。高齢者の間でワクチン接種が進んでいないことが、問題を一段と悪化させる。

中国と米国の科学者らは最近、抑制策なしで変異型ウイルス「オミクロン型」の感染拡大が起きれば、集中治療室に対する需要が供給(収容能力)の15.6倍に達し、160万人近い死者が出ると推測する。

「彼らがコロナに対応してきた方法は完全に中央集権化されており、それも中央政府だけでなく習氏自身によって管理されている」とゴア氏は語る。

「地方政府による(ゼロコロナ政策緩和の)実験の余地が全くない。経済再開に向けて大きな問題になる」

By Tom Mitchell in Singapore and Edward White in Seoul

(2022年11月29日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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吉田徹
同志社大学政策学部 教授
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ひとこと解説

党大会を経て盤石の体制を敷いたかにみえた習近平だが、人々の生活の不満がここまで広がるとは想定外だっただろう。

一般的に、権威主義体制は政策の無謬性とその成果が正当性の最大の源泉なので、政策を変更する誘因が働かない。それゆえに、脆弱なシステムであるといえる。

他方で、中国の場合は「天命」、すなわち統治者は人民の要求を満たすことができなければその権利は行使できないという思想が広く行き渡っている。

経済の減速も加わり、権威主義の持つ正当性と「天命」の要請との間で生じるジレンマは、習近平体制にとってのアキレス腱になりかねない。

2022年11月29日 18:40

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今村卓
丸紅 執行役員 経済研究所長
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分析・考察

経済発展と国民の安全という中国共産党の統治の正当性がトレードオフになりかねない事態に陥り、誰よりも習近平氏が最大の危機感を抱いていると思います。

反対運動は国民の経済発展の失速への懸念と強烈な不満の反映であり、弾圧で片付けられるとは習氏も思っていないでしょう。かといって規制を緩和すれば脆弱な医療体制の下で多数の死者が出て、国民の安全を保てません。

しかも習氏への権力集中を遂げたために、国民の不満も習氏に集中して向かいそうです。
西側の民主主義を効率の悪いシステムと評価していた習氏は今、効率的で強靭にできたと思っていた自身の統治体制の矛盾と脆弱さを認識し始めているのではと思います。

2022年11月29日 19:02 』

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